どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#34【介護保険部会編】
介護保険・社会保障専門委員会
はじめに~来期の事業計画づくりに向けた審議が始まっています~
昨年の12月20日に、社会保障審議会介護保険部会(「部会」)からの「答申」にあたる「介護保険制度の見直しに関する意見」(「意見書」)公表後の最初の「部会」が2月27日に開かれました。通算で第106回になります。
議題は、1基本指針について、2介護保険被保険者証について、及び報告事項として、①令和5年度介護給付金の算定について、②総合事業の充実に向けた検討会(仮称)の設置についてでした。
②については「介護予防・日常生活支援総合事業充実に向けた検討会」(粟田圭一座長)という名称で、4月10日から同時並行で始まっています。これは「見直し」項目の一つである、要介護1と2の人の生活支援サービス等を介護保険から「総合事業」に移行する施策を前提とする検討会ですので注視していく必要があります。介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会 (mhlw.go.jp)
第106回の「部会」議事録106回介護保険部会|厚生労働省 (mhlw.go.jp)から、花俣ふみ代副代表理事の発言要旨(囲み内)を紹介しながら、問題点をお伝えしていきます。
基本指針
自治体が介護保険の実施計画を作る時に使う、厚生労働省による「指針」です。
市区町村は「介護保険事業計画」、都道府県は「介護保険事業支援計画」を作ります。
【第106回介護保険部会 2023年2月27日】
資料1-1のところでお聞きしたいことがございます。6ページの「第9期介護保険事業(支援)計画の基本指針(大臣告示)のポイント」のところですが、2番の「地域包括ケアシステムの深化・推進に向けた取組」の1に、「地域住民を地域づくりや日常生活の自立に向けた支援を担う主体として観念することが重要」とあります。「観念する」というのはどういう意味になるのか。一般的には、物事に対して持つ考えとか、あるいは諦めて現状を受け入れる、覚悟するといった意味で使われていると思うのですけれども、ここではどういった意味で使われているのかというのをお教えいただければと思いす。 |
「観念する」
資料の文脈からは、「観念する」のは、包括ケアシステムの運営者、と言うように読めますが、議事録にある笹子認知症施策・地域介護推進課長の回答を見てみましょう。
『こちらは、参考資料1-3の42ページ目にもございますけれども、2つ目の〇、「地域包括ケアシステムは、制度・分野の枠や、『支える側』『支えられる側』という関係を超えた包摂的な社会を目指す」ということでございますけれども、例えば、地域支援事業のうち総合事業の多様なサービスや、一般介護予防事業における通いの場などでは、地域住民の主体的な参加が欠かせないということをおまとめいただいております。そういったことも含めて、支える側と支えられる側といった二分論ではなくて、地域住民の方々もこういった支援を担う主体として参加していただくということを記載したものと考えております』
「観念する」のは、地域住民と思えてしまう回答ですね。
それから、同じく6ページの介護保険事業(支援)計画の基本指針のところで、3つ目の「地域包括ケアシステムを支える介護人材及び介護現場の生産性向上」に「介護の経営の協働化・大規模化」とあります。ホームヘルプサービスやデイサービスには小規模の事業所もたくさんあり、在宅介護を支えていただいています。この文章だと、協働化・大規模化ができない事業所はどうなるのだろうと心配になります。中小規模の事業所はどうなるのかということについて、基本指針では言及しないという理解でよろしいのかどうかということをお聞かせいただきたいと思います。 |
小規模の事業所もたくさんあり
公益財団法人介護労働安定センターの介護労働実態調査(2021年度)によると、介護労働従事者数4人以下の事業所が6.5%、5~9人が23.9%、10~19人が38.8%、20~49人が25.8%、50~99人が3.5%、100人以上が0.5%となっています。「基本指針案」で言う「大規模化」どれくらいの規模を想定しているのかわかりませんが、ヘルパーさんが20人未満の事業所が70%というのが実情です。認知症の要介護者と家族にとっては、いわゆる「なじみの関係」の持つ意味は大きく、「大規模化」は受け入れがたい流れです。
基本指針では言及しないという理解でよろしいのか、 という問いに対する説明を議事録から
『須藤高齢者支援課長でございます。 2点目の協働化・大規模化の関係でございますが、こちらも部会の意見書等でも取りまとめいただきましたように、利用者さんが増えていく中で、先ほどもお話しいただいておりますが、限られた人材、資源をいかに有効に活用していくか、また、利用者さんにとっても働く現場の方にとってもいい方向性は何なのかということをしっかりと考えていく必要があります。そのための一つの手法として協働化・大規模化というものがあると思いま すので、規模の大小にかかわらず、こうした人材・資源を有効に活用していく中で、どのような協働化・大規模化が必要かということをしっかりと都道府県さん、市町村さんであっても考えていただきたい、そういう中で、この指針の中でも必要な事項ということで書かせていただいているというような考えでございます』
都道府県の介護保険事業支援計画や市区町村の介護保険事業計画を作る上での「必要事項」としています。そこでのキーワードは「生産性の向上」です。
あと、資料2のマイナンバーカードのところです。 ここでは、介護保険の被保険者証は 65歳以上の高齢者で、約3440万人になります。この中で、要介護認定を受ける人は75歳以上の後期高齢者が約9割で、80歳以上も508万人になります。また、介護が必要になる理由は、要介護1から3まで認知症がトップです。 資料1-1の6ページには、2040年を見通すと、85歳以上人口が急増し、医療・介護双方のニーズを有する高齢者など様々なニーズのある要介護高齢者が増加するとの将来予測もあります。今後も認知症の人が増えていく中、被保険者証を電子化していくことになります。将来的にはそうなっていこうと思うのですけれども、そもそもマイナンバーカードは義務ではなく、マイナンバーカードを持たない被保険者がどうなるのか、これも心配されるところです。 2ページの図には、要介護認定の申請からマイナンバーカードを使うことになっていますが、カードを持たない被保険者への対応は考えられているのでしょうか。 また、認知症や身体障害が増える中、後期高齢者とデジタル化について、いつも申し上げていますけれども、メリット、デメリット双方の検討が必要であり、御説明にもありましたように、特にデメリットへの対策を考えていただくことが必要と思っております。 関係者の利益に資するだけでなく、被保険者の利益に資する御検討をお願いしたいと考えて おります。護現場のタスクシェア・タスクシフティング。介護助手に切り分け可能な業務や切り分けたときに効果が高いと見込まれる業務の体系とありますが、介護助手が施設サービスで働く人を想定しているのであれば、単に介護助手と書くのではなく、可能であれば「施設サービスにおける介護助手」としていただくことを希望したいと思います。 |
マイナンバーカードを持たない被保険者がどうなるのか、という問いに対する説明を議事録から
日野介護保険計画課長『資料2につきまして、持たない人がどうなるかということでございます。けれども、こちらは健康保険証のほうでも同様の議論がございますので、そういったところも含めて、どういう対策ができるのか、しっかりと考えていきたいと思っております』
「腹案」はあるのでしょうが、「同様の議論」の要点だけでも示して欲しい所です。
特にデメリットへの対策を
立場によってその内容は違うでしょうが、一般的に指摘されている「デメリット」は、主に次のようなものが挙げられています。・個人情報漏洩のリスク・セキュリティ体制への不信感・銀行口座との紐づけへの不安
全国保険医団体連合会の調査結果を東京新聞が報じています「マイナカード管理できない」と高齢者・介護施設59%が健康保険証の一体化に反対:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
記事によると、「マイナンバーカードの管理(暗証番号含む)」について94%が「管理できない」と答え、理由として91%が「カード・暗証番号の紛失時の責任が重い」とした。回答したうち84%の施設で利用者・入所者の健康保険証を管理していた。
「総合事業」(介護予防・日常生活支援総合事業)の検討会は、5月31日にヒアリングを予定しています。対象は「多様なサービスの担い手として期待される以下の団体等」としています。検討事項には、「利用者に対する自立に資する適切なサービス選択の支援」という項目もありますが、利用当事者の生の声を聴く予定はありません。そういえば、この委員会の構成メンバーにも利用当事者が入っていません。「事業充実に向けた検討会」と言いながら、利用当事者の声を聴かないで、どのように「充実」するつもりなのでしょうか。(まとめと文責 鎌田晴之)
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