どうするつもりか介護保険制度=「改正」の動きレポート#56~ 社会保障審議会介護保険部会(126回)~
社会保障審議会介護保険部会(126回)(令和7年10月9日開催)

第126回社会保障審議会介護保険部会は、令和7年10月9日に開催され、主に「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築等」と「地域包括ケアシステムの深化(相談支援の在り方)」について議論が行われました。
主な議題は以下の通りです。
議題1:人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築等(資料1)
2040年に向けて高齢者人口がピークを迎え、地域によって高齢化や人口減少のスピードに大きな差が生じる中で、地域の実情に応じたサービス提供体制の構築が喫緊の課題とされました。
1. 地域の類型の考え方(論点①) 全国を主に「中山間・人口減少地域」、「大都市部」、「一般市等」の3つの地域に分類し、それぞれの状況に応じたサービス提供体制を構築することが重要であるとされました。
- 「中山間・人口減少地域」:高齢者人口が減少し、サービス需要が減少する地域と定義され、サービス提供の維持・確保のため、新たな柔軟化の枠組みが必要とされています。この対象地域は、特別地域加算の対象地域を基本としつつ、人口減少や地域の実情を勘案して範囲を拡大することが検討されます。
- この地域の区分の考え方は、第10期介護保険事業計画に向けた基本指針において示されることが提案されています。
2. 地域の実情に応じたサービス提供体制の維持のための仕組み(論点②) 特に人材確保が困難な中山間・人口減少地域に限定し、サービスの維持・確保のために必要な場合に、特例介護サービスに新たな類型を設けることが検討されました。
- 職員の負担や質の確保に配慮する観点から、ICT機器の活用や同一法人の併設事業所間などでの連携を前提に、管理者や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件の緩和を行うことが考えられています。
- 新たな類型案は、現行の居宅サービス等に加え、地域密着型介護や施設介護を対象にすることも検討されています。
3. 地域の実情に応じた包括的な評価の仕組み(論点③) 中山間・人口減少地域において、特に訪問系サービスの年間を通じた安定的な経営を支援するため、現行の出来高報酬とは別に、月単位の定額報酬(包括的な評価の仕組み)を選択肢として確保することが提案されました。
- この仕組みは、経営の安定や予見性の確保、人材確保の促進といったメリットが期待されますが、利用者間の不公平感の抑制やモラルハザード(必要なサービス提供の抑制など)の防止に十分留意し、きめ細かな報酬体系とすることが必要とされています。
4. 介護サービスを事業として実施する仕組み(論点④) 中山間・人口減少地域において、市町村がサービス基盤を柔軟に維持・確保するため、給付の仕組みと同様に介護保険財源を活用して事業として実施できる選択肢を設けることが考えられています。
- これは、個別払いではなく事業の対価として事業費(委託費)で支払いを行うことで、収入の予見性を高め、経営の安定につなげることが目的です。訪問介護、通所介護、短期入所生活介護等といった居宅サービスと同様のサービスを組み合わせて提供することも想定されています。
5. 介護事業者の連携強化(論点⑤) 中山間・人口減少地域において、地域ニーズに応じたサービス提供の継続体制を確保するため、法人や介護事業所が連携の中心的な役割を果たす仕組みが検討されました。
- 中心的な役割を果たす法人・介護事業所に対して、インセンティブを付与することが考えられています。インセンティブには、法人間での人材連携等を前提とした配置基準の弾力化や、介護報酬の加算による更なる評価などが含まれます。
6. 地域の実情に応じた既存施設の有効活用(論点⑥) 中山間・人口減少地域において、国庫補助を受けて取得・改修された介護施設等について、サービス需要の変化に対応するための計画的な転用・廃止を行う際に、一定の条件下で国庫納付を不要とする特例を設けることが提案されました。これは、経過年数10年未満の施設についても、高齢者施設や厚生労働省所管施設等への全部転用を認めることを含みます。
7. 調整交付金の在り方(論点⑦) 2040年に向けた地域ごとの人口動態の変化を踏まえ、第1号保険料の水準格差を平準化する普通調整交付金の調整機能をさらに精緻化することの必要性について論点として提示されました。
論点①と②についてですが、全国を3地域に分けることですが、「人口減少地域」は今後も増え続けます。 また、介護が必要と認定される後期高齢者は、「人口減少地域」であっても増えていくことが確実です。 介護保険制度は全国どこでも、必要なサービスを提供するのが大前提です。 しかし、「人口減少地域」でなくても、ホームヘルパーなど担い手が不足しているのも現実です。 だからといって、人員配置基準や常勤・専従要件、夜勤要件などを緩和することで、指定事業所の数を維持できたとしても、介護労働者が増えなければ、今後も増える認定者に必要な給付を提供することはできません。 「地域の実情に応じた柔軟な対応」は、あくまでも緊急対応であるべきだと思います。 保険者である市区町村が原則的な対応ができるよう、例え、特例あるいは例外として緩和策を採用したとしても、認定者の需要に応じた必要な人員配置に戻すことができるよう、今後も検討を続けることを希望します。 論点③について 訪問介護について、「出来高払い報酬」と「月単位の定額報酬」を事業所が選択できるようにするとあります。 これは、事業所の選択であり、認定者、利用者が報酬体系の異なる事業所を選択できるわけではありません。 定額報酬がいくらになるのかわかりませんが、必要なのに定額を超えるから提供できないと断られる、あるいは定額報酬の利用者負担が高いので高くて払えず利用できない、といった事態が起きることは大きな問題だと考えます。 「利用者像ごとに複数段階の報酬区分」や「モラルハザードの抑制」などは、いまでも複雑な制度がさらにむずかしくなり、訪問介護だけでなく、ケアマネジメント事業所も含めて負担が大きくなることが心配です。 訪問介護が十分に提供できないと、在宅介護は崩壊します。 後継者を養成する方策とともに、緊急対応や気候変動や災害時の対応について、介護報酬上の評価を増やし、認定者や介護家族が安心してお願いできる、安定したサービスにしていだたくことを希望します。 以上です。
議題2:地域包括ケアシステムの深化(相談支援の在り方)(資料2)
複合的な課題を抱える高齢者の増加に対応するため、地域包括支援センターの役割と業務の在り方が検討されました。
1. 地域ネットワーク・相談体制の充実に向けた取組の推進(論点①)
- i. 地域ケア会議の活用推進、相談体制の充実等 身寄りのない高齢者等(単身・独居高齢者や認知症高齢者など、支援を必要とする高齢者全般)の増加に伴い、ケアマネジャー等が法定外業務(シャドーワーク)として対応せざるを得ないケースが増加していることから、地域ケア会議の活用をさらに推進し、これらの課題を地域全体で対応することが必要とされました。
- CCSCが実施する総合相談支援事業や包括的・継続的ケアマネジメント支援事業において、身寄りのない高齢者等に係る課題への対応を明確化することが考えられています。
- 課題解決の実効性を高めるため、障害や生活困窮などの福祉分野や、住まい・交通・消費者保護など他分野との連携を推進する方策が議論されました。
- ii. 介護予防支援・介護予防ケアマネジメントの在り方の見直し CCSCの業務量(約3割が介護予防支援・ケアマネジメント業務)の過多を軽減するため、介護予防ケアマネジメントについても居宅介護支援事業所が直接実施できる体制を検討することが提案されました。これにより、CCSCは地域ネットワーク構築や地域課題への対応といった本来の地域マネジメント業務に注力できるようになります。
2. 災害等の有事に備えた地域包括支援センターの体制整備(論点②) 能登半島地震の経験を踏まえ、CCSCが災害等の有事において重要な役割(支援が必要な高齢者の把握、関係機関との連絡調整など)を果たすため、CCSCとしてのBCP(業務継続計画)策定を市町村と連携して進め、平時からの訓練や体制整備に活かしていくことが必要であるとされました。
3. 過疎地域等における包括的な支援体制整備のための新たな仕組み(論点③) 過疎地域等における深刻な担い手不足に対応するため、高齢、こども、障害、生活困窮分野の相談支援・地域づくり事業を一本化し、配置基準等を柔軟化する新たな仕組み(福祉部会で検討中)が導入されることに関連し、この仕組みの中で、介護保険の包括的支援事業の一部(総合相談支援事業、権利擁護事業、生活支援体制整備事業等)を実施できるようにすることが検討されました。
論点①‐ⅰについてです。 地域ネットワークや相談体制の充実は極めて重要な論点であり、ぜひ積極的に進めるべきだと考えております。 地域包括支援センターにおける総合相談支援事業での対応明確化、地域ケア会議の活用推進、さらに医療・介護分野を超えた多様な関係者との連携強化は、認知症の人とその家族を含む支援が必要な高齢者の地域生活を支える基盤となります。断らない相談体制、実効性ある体制整備をお願いいたします。 3. その上で、「身寄りのない高齢者等」という表現についてですが、人によって 受けとめ方がさまざまになりそうだと思います。 当会では、「身寄りがない」ではなく、「身寄りに頼れない」高齢者への支援が必要だろうと考えています。 5月に出された「地域共生社会のあり方検討会議」中間とりまとめ」には、 身寄りがあっても家族・親族等との関係は様々であり、 一律に身寄りがある者を対象外とするものではないことに留意する必要があると書かれておりました。 私どもの会員の中でも、身寄りはあっても、ともに要支援、要介護の高齢夫婦や、家庭でのさまざまな関係性から、家族に頼ることのできないケースが 多々あります。 その点を含めた相談支援事業を推進していただきたいと思います。 論点①-2 での介護予防支援・介護予防ケアマネジメントの在り方のなかで、 利用者の属性を問わず、介護予防ケアマネジメントについても 居宅介護支援事業所が直接実施できる体制を検討するということですが、 現在、居宅介護支援事業所ではケアマネジャーが不足している状況です。 また、介護予防ケアマネジメントの指定がすでに行われていますが、その基本報酬が、自治体でばらつきはありますが、半分以下であるようです。しかし、業務量は要支援の方で、比較的元気な方で自分で携帯から電話をかけてこられる方が多く、ケアマネにしょっちゅう電話がかかってくるなどという話を聞いております。 先ずは、その2点の対策をしっかり検討されることを強く希望いたします。 以上です。



