どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#35【介護保険部会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~どのような負担増にするかの結論、今夏から本年末に延期~

7月10日に、第107回社会保障審議会介護保険部会(「部会」)が開催されました。会場は「東京虎ノ門グローバルスクエアカンファレンス」で午前10時から12時まで、会場参集とWEB参加のハイブリッド形式でした。議題は、1基本指針について 2給付と負担について、3その他でした。

「1基本指針について」は、前回の第106回「部会」でも審議されましたが、「2給付と負担」については、昨年末の「介護保険制度見直しに関する意見」(「意見」)が出されてから初めての議題です。「意見」では今年の夏ごろを目途に結論を得るとされてきましたが、6月16日「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)が閣議決定され、その中でこの件は本年末までに結論を得るとされた事を受けて、事務局から延期の説明がされました。「3その他」の報告事項として「共生社会の実現を推進する認知症基本法」(「認知症基本法」)についての説明などが行われました。

第107回の「部会」議事録107回介護保険部会|厚生労働省 (mhlw.go.jp)から、花俣ふみ代副代表の発言要旨(囲み内)を紹介しながら、問題点をお伝えしていきます。

【第107回介護保険部会 2023年7月10日】

 まず、見直しのポイント案の1ページ、資料1-1 基本指針の構成について (mhlw.go.jp)「1.介護サービス基盤の計画的な整備」があり、②に「在宅サービスの充実」として「居宅要介護者の様々な介護ニーズに柔軟に対応できるよう、複合的なサービスの整備を推進することが重要」とあります。複合的な在宅サービスについては訪問介護と通所介護を組み合わせるプランが出ていましたが、具体的な内容は今後の検討になると伺っています。具体的なプランの内容がどうなるのか、提案がまとまる時期も含めて、可能な範囲で教えていただきたいと思っております。

介護サービス基盤

介護サービスを担保する施設や人材などの総体を表す言葉ですが、例えば『介護離職ゼロに向けた基盤整備』という場合は、 特養、老健、ケアハウス、小規模多機能型居宅介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、看護小規模多機能型 居宅介護、認知症GH、サービス付き高齢者向け住宅、を整備する『サービス』として基盤整備の対象にする、といった使い方をしています。(第81回「部会」参考資料「介護サービス基盤整備について」)

複合的なサービス

議事録から、和田認知症施策・地域介護推進課長の回答です。 

『昨年の介護保険部会の意見書におきまして、複数の在宅サービスを組み合わせて提供する複合型サービスの類型の新設を検討するということでおまとめいただいております。この具体的な設計等につきましては、本日午後もございますけれども、介護給付費分科会において詳細を検討いただくこととしておりまして、年末までの間で検討を進めていくこととしてございます』  

*「複合型サービス福祉事業」(ワムネットHPより) 

65歳以上で、身体上または精神上の障害があるため日常生活を営むのに支障がある方に対して、訪問看護及び小規模多機能型居宅介護を組み合わせて一体的に提供することが特に効果的な場合に提供される事業です。介護保険法上では、看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)にあたります。やむを得ない理由により介護保険法によるサービスを受けられない場合に、措置として市区町村が提供します。

➡従来の「複合型」に加え、「年末までの間に」「類型の新設」を予定し、同審議会介護給付費分科会で審議する、ということですがまだ提案されていません。

 それから、訪問介護のホームヘルパーの確保が危機的な状況にあることを何度も申し上げていますが、基本指針には訪問介護の充実の重要性が盛り込まれていないことが大変残念です。7月4日に公表された2022年国民生活基礎調査の概況では、要介護者のいる世帯は一人暮らしが31%、夫婦のみが25%と報告されています。また、要介護者等と同居する主な介護者は、60歳以上同士が77%、75歳以上同士が36%となっています。さらに、経済産業省の試算では、働きながら介護をするビジネスケアラーの生産性の低下や介護離職に伴う経済損失が、2030年には9.2兆円に上ると報告されてもいます。仕事と介護の両立、在宅介護の限界点を上げる意味においても、基本指針には盛り込まれないとしても、一人暮らしや老老介護の認定者が増えていく中、自宅を訪ねてくださる専門的な人材の拡充に取り組んでいただくことを切に希望いたします。

ホームヘルパーの確保が危機的な状況

 第220回「給付費分科会」(7月24日)資料1「訪問介護」001123917.pdf (mhlw.go.jp)からその「危機的な状況」の一端を紹介します。

  ・訪問介護サービスを利用している人は、第8期の事業計画上123万人を想定。

  ・介護保険サービス給付費総額(自己負担分含む)の約1割(9.8%)が訪問介護。

  ・訪問介護員の平均年齢54.4歳、65歳以上12.2%、70歳以上12.2%、4人に一人が65歳以上。40歳未満は13.7%。

  ・2022年度求人倍率15.53倍。約8割の事業所が人手不足を感じている。

  ・事業所がサービス提供を断った理由「人手不足で対応困難」90.9%(複数回答)

夫婦のみが25% 

同調査によると、「要介護者」の介護度が3以上では、「介護時間」が「ほとんど終日」という介護者の割合が最も多く、「要介護5」の場合では63.1%の人が「ほとんど終日」の介護をしています。訪問介護においても、いわゆる「老々介護」を前提とした「サービス基盤整備」が必要です。

ビジネスケアラー

経済産業省資料介護政策 (METI/経済産業省)では、『仕事をしながら家族等の介護に従事する者』としています。同資料によると、2030年度での推計値として、「家族介護者」833万人、「ビジネスケアラー」318万人、介護離職者が⒒万人とし、その経済損失(『介護に起因した労働総量や生産性の減少』)を約9兆2千億円と推計し、その内の1兆2千億円は「介護離職」による損失としています。そして次のように分析しています『介護と仕事の両立実現に向けては、職場・上司の理解が不足していることや、両立体制構築に当たっての初動支援が手薄いこと、介護保険サービス単体ではカバー範囲が限定的であること等が課題として挙がり、従業員個人のみでは十分な対応が困難な状況です』。

専門的な人材

先の、第220回「給付費分科会」(7月24日)資料1「訪問介護」001123917.pdf (mhlw.go.jp)には、事業所がサービス提供を断った理由の中に、「看取りや認知症、難病等により、自事業所では技術的に対応が難しかったため」とした回答が4%(複数回答)ありました。


もう一点、総合事業に関連してですが、加齢や認知機能の低下を招く疾患に罹患し、治療薬の開発が道半ばの今、軽度者と称される方々もいずれは時間の経過とともに間違いなく中重度者になるということを、私からの意見とさせていただきます。
 

以上が、花俣副代表の発言ですが、3分間という時間制限の関係上、事前に用意したにもかかわら

ず発言できなかった「発言メモ」を後ほど紹介します。

その前に、議題1「基本指針について」の審議で出された、粟田委員(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所副所長)の発言を紹介します。総合事業に取り組む際に、介護保険法第1条の再確認を求める注目すべき発言だと思います。

『…市町村がこれから地域支援事業総合事業を考えていくときに混乱を招かないかなと以前から気にしていたことなのですが、つまり介護保険法の中で使用されている「自立」という言葉がイコール要介護状態等にならないことという誤解、あるいは要介護状態等にならないことへの予防、要介護状態等の軽減、悪化の防止が介護保険制度の理念として理解されないかという不安が以前からございます。

 介護保険制度の理念は、介護保険法の第1条に記載されているように、要介護状態になった者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ、自立した日常生活を営むことができるように、給付を受けて保健・医療・福祉サービスを利用できるようにすることであって、要介護状態にならないことでもないし、ましてや要介護認定を受けないようにすることでもない。むしろ要介護状態になった者が要介護認定を受け、必要な保健・医療・福祉サービスを利用しながら自立した日常生活を送れるようにすることがこの制度の理念でございます。高齢者が要介護状態にならないように健康づくりを進めることが非常に重要なことであり、介護保険制度の持続可能性という観点からも介護予防が重要であることは確かでありますが、それを介護保険制度の理念として位置づけてしまうことには大変疑問がございます。

 このことは、これからの総合事業や地域支援事業が目指す方向性、目的、在り方、指標を市町村の中で明確化して合意形成をしていくときの重要な観点であると思いますので、あえて意見を述べさせていただきました。』

花俣副代表の「発言メモ」です。

「給付と負担について」資料2 給付と負担について (mhlw.go.jp)

まず、あくまでもモデルとはいえ、75歳以上のひとり暮らしと高齢夫婦の年収別収支をお示しくださったことに感謝いたします。5ページの「75歳以上の単身世帯」では、上位30%の家計収支(年収220万円、支出211万円)は1年に9万円の黒字になります。6ページの「75歳以上の夫婦2人世帯」では上位30%の家計収支(年収286万円、支出265万円)は1年に21万円の黒字になります。大変に込み入った資料なので、教えていただきたいのですが、8ページの第1号介護保険料の負担段階の見直しイメージに、この75歳以上の年収別モデルをあてはめた場合、家計収支はいくらになるのでしょうか?

また、参考資料2の7ページには「利用者数及び利用者1人あたりの自己負担額(サービス別)」が掲載されています。資料2の75歳以上の年収別モデルに自己負担額をあてはめた場合、どのサービスであっても利用者負担を払って、必要なサービスを利用することができるのでしょうか?こちらも粗いデータになるのかもしれませんが、認定者や介護家族にとって、利用者負担の割合が引き上げられたことで、必要なサービスなのに利用料が払えないからあきらめる、という事態になるのは、絶対に避けていただかなければならないことですから、ぜひ、試算を出していただきたいと思います。

「給付と負担」について今後、議論を深めるためにも、年金から天引きされる介護保険料が上がり、利用者負担の引き上げがあっても、必要なサービスが利用できるのかどうか、話しあいの根拠となる具体的なデータを本日でなくてもかまいませんし、粗い試算でもいいので、お示しくださいますよう、よろしくお願いいたします。

議題2の「給付と負担について」の審議で出された意見のいくつかを紹介します。

染川委員(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン)

『…介護サービスの利用が必要になった場合の支出の状況をしっかりと予測した上で判断をすることが重要であり、介護サービスを利用していない高齢者を含めた収入と支出の状況の平均値のみをもって給付と負担の在り方を検討するのは困難であり、もっときめ細かな様々なエビデンスに基づいて、実際に介護サービスを利用することによる支出の変化もシミュレーションした上で検討する必要があるのではないかと考えています』

小林委員(日本労働組合総連合会)

『2023年に入ってからの物価動向や公的年金が目減りしていることも考慮すれば、応能負担という考え方は必要ですけれども、利用者負担割合における一定以上所得の判断基準については相当慎重に検討すべきと考えます』

津下委員(女子栄養大学特任教授)

『低所得者の対応などを介護保険料だけで賄えるのか、一方、税の負担で賄っていく部分も必要なのではないかとも考えます。今回の制度ではこの多段階化ということでいいと思うのですけれども、長期的にはどうしていくのかということについて、もう少し踏み込んだ議論が必要なように思いました』

石田委員(高齢社会をよくする女性の会)

『2割負担の方々への拡大というところの問題については、今回、このモデルで示されましたけれども、これはあくまでもモデルであって、参考にするとはいえ、ここからすぐにというわけにはなかなかいかないであろう。もう少し生活の実態に沿った現実、それから、年金生活者の生活の実際ということがどのぐらいまで把握されているかというのは非常に重視したいと思っています』

江澤委員(日本医師会)

『応能負担は当然進めるべきと考えております。一方で、平均的なモデル事例が示されていますけれども、個々の需要も異なりますし、後期高齢者医療の2割負担、あるいは物価高騰などの影響も含め、様々なケースの詳細な検討をお願いしたいと思います。特に負担が増える範囲の中で、低所得に相当する方々への慎重な検討が必要だと思います。… いずれにしましても、尊厳の保持と自立支援を目的とした強制加入の介護保険制度の共助の仕組みとしてどういった負担の在り方がふさわしいのか、しっかりと議論していく必要があると思います。その上で、介護保険の健全な持続について、今後、公費の投入、保険料の負担、いろいろな議論が避けられないと思いますので、幅広く忌憚のない議論が必要だと思います』

介護保険サービス利用料1割負担の原則が2014年に破棄され、2割負担からさらに3割負担へと負担増が続けられた際に、私たちは、負担能力の根拠(データ)を示すように要求してきました。今回初めて「収入と支出の状況(年収別モデル)」なる資料を出してきましたが、高齢者の一般的な生活での平均値を示すことだけでは、『実際に介護サービスを利用することによる支出の変化』(染川委員)をとらえた暮らしの実態を説明できていない事は明らかです。「制度の持続」のためにこれ以上のサービスの削減と負担増に求める事の無理を通せば、必要な人が必要なサービスを受けられなくなり、制度が形骸と化してしまいます。制度の持続は当然必要ですが、その条件を「給付削減と負担増」の求める方向性を変えていく必要があると思います。(まとめと文責 鎌田晴之)

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