介護保険ニュース#23~社会保障審議会介護保険部会(第127回)

社会保障審議会介護保険部会(第127回)(令和7年10月27日開催) 概要まとめ

第127回社会保障審議会介護保険部会(令和7年10月27日開催)では、主に「介護保険制度の持続可能性の確保」と、「全世代型社会保障の構築」に向けた広範な検討状況を概説しています。特に、介護保険部会での議論や内閣決定された改革工程に基づき、「給付と負担」のあり方に関する複数の課題が焦点となっており、第1号保険料負担の多段階化、利用者負担割合の見直し(2割・3割負担の基準)、補足給付、多床室の室料負担などが議論されました。
以下に、資料に基づいた各テーマの概要をまとめます。

主な議題と内容

議題内容概要
1.2040年に向けた介護人材の確保と、それを支える職場環境の改善・生産性の向上、および経営改善支援1. 喫緊の課題と目標
2040年度までに、高齢者(特に85歳以上)の増加と生産年齢人口の急速な減少に伴い、現在の水準から 約57万人の新たな介護職員の確保 が不可欠であり、これは喫緊の課題とされています。国は、①処遇改善、②多様な人材の確保・育成、③離職防止・定着促進・生産性向上、④魅力向上、⑤外国人材の受入れ環境整備の5つの総合的な対策を講じています。
2. 人材確保のための地域連携とプラットフォーム
介護人材の確保と定着に向けて、地域差や地域固有の課題に対応するため、都道府県が主体となり、地域の関係者(事業者、養成施設、ハローワーク、福祉人材センター等)が連携する「人材確保のためのプラットフォーム」を制度として構築することが検討されています。このプラットフォームは、課題認識の共有や、地域の実情に応じた実践的な取組(プロジェクト)を推進する役割を担います。
3. 生産性向上とテクノロジーの活用
2040年までに介護分野全体で20%の業務効率化(生産性向上)を目指し、職場環境の改善を推進します。主な施策は以下の通りです。
• テクノロジーとタスクシフト/シェアの推進: 介護ロボットやICTの活用、業務の洗い出しと、いわゆる介護助手へのタスクシフト/シェア(役割分担)を促進し、職員の負担を軽減します。これにより生み出した時間は、利用者との直接的なケアや職員への投資(研修機会の付与、残業削減)に充て、ケアの質の向上と人材定着を図ります。
• 支援体制の整備: 都道府県に**「介護生産性向上総合相談センター」を設置し、テクノロジー導入の伴走支援や経営支援機関との連携を図ります(2026年度までに全都道府県設置目標)。また、デジタル化を推進する「デジタル中核人材」**の育成も進められています。
4. 経営改善、協働化・大規模化の推進
介護事業者の経営安定化に向け、特に小規模事業者を対象に、他事業者との連携・協働化や大規模化を推進します。
• 協働化のメリット: 間接業務(請求、記録作成、バックオフィス業務)の効率化、共同での人材募集・研修実施、一括仕入れによるコスト削減などが期待されます。
• 支援策: 協働化・大規模化に関する政策パッケージを策定し、財政支援や検討段階でのノウハウ提供を行います。
5. 職場環境とケアの質の向上
• ハラスメント対策: 職場環境改善の重要な要素として、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントに加え、利用者や家族からのカスタマーハラスメントへの対応(防止措置の義務付けを含む)を強化します。
• 科学的介護の推進: ケアの質を高めるため、科学的介護情報システム(LIFE)の活用を促し、**科学的根拠に基づく介護(科学的介護)**を推進することで、PDCAサイクルを回していきます
2.地域包括ケアシステムの深化(相談支援の在り方)1. ケアマネジャーの人材確保と資格要件の見直し(論点①)
CMの従事者数は横ばい・減少傾向にあり、10年以内には担い手が急激に減少することが見込まれるため、人材確保が喫緊の課題とされています。
• 資格取得要件の緩和: 幅広い職種・資格からの受験を促すため、受験対象となる国家資格の範囲を診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士、公認心理師などへ拡充することが検討されています。
• 実務経験年数の短縮: 受験要件である実務経験年数について、現行の5年から3年に見直すことが検討されています。
2. 業務負担の軽減と効率化(論点②)
CMが、利用者へのケアマネジメント業務に注力できる環境を整備するため、増大する業務負担の軽減と効率化が図られます。
• 法定外業務(シャドウワーク)の整理: ゴミ出し、金銭管理、死後事務、通院時の送迎など、CMが法定外業務(シャドウワーク)として対応せざるを得ないケースが一定数生じている現状に対し、これは地域課題として「地域ケア会議」を活用しながら議論し、地域全体で対応する取組を推進します。
• ICT活用推進: ケアプランデータ連携システムやAIによるケアプラン作成支援の推進により、法定業務のうちケアプラン作成や事務的な業務の効率化を図ります。
3. 法定研修および更新制の抜本的見直し(論点③)
現在の法定研修は時間的・経済的負担が大きいという課題があり、これがCMの離職の一因となっているとの指摘があります。
• 更新制の廃止: 専門性の確保・向上を前提としつつ、更新研修の受講を要件とした介護支援専門員証の有効期間の更新の仕組み自体を廃止(※主任CMも同様)することが検討されています。
• 研修負担の軽減: 更新の仕組みを廃止しても定期的な研修受講は求められますが、講義部分の縮減、オンライン受講の推進、一定期間(例:5年間)に分割して受講できる柔軟な仕組みを検討することで、受講者の負担軽減を図ります。
4. 地域での相談体制強化と役割の明確化(論点④)
複合的な課題を抱える高齢者(特に身寄りのない高齢者等)の増加に対応するため、相談体制と専門職の役割を明確化します。
• 主任ケアマネジャーの法定化: 他のCMに対する指導・助言、地域の関係者との連絡調整の中心的な役割を果たす者として、主任ケアマネジャーの位置付けを法令上に明確化することが提案されています。
• 事業所の役割分担: 居宅介護支援事業所は個別のケアマネジメントに重点を置き、地域包括支援センターは社会資源への働きかけを含む地域全体の支援に重点を置くことが適当とされています。
• ケアの質の向上: 適切なケアマネジメント手法(基本ケア、疾患別ケア)を法定研修に導入するなど、科学的根拠に基づく支援の組み立てに必要な知識を継続的に学ぶことができるよう、研修カリキュラムの見直しが進められています


3.持続可能性の確保

制度の現状と改革の必要性
介護保険制度は創設以来24年が経過し、サービス利用者は創設時の3.5倍を超え、介護費用の総額は約4.0倍の14.3兆円(令和7年度予算ベース)に増加しています。これに伴い、第1号保険料の全国平均も増加しており(第1期2,911円から第9期6,225円へ)。現役世代の負担を軽減しつつ、年齢に関わりなく能力に応じて負担し支え合う「全世代型社会保障」の基本理念に基づき、制度の持続可能性を高めることが重要な課題とされています。
給付と負担の公平化に向けた主要な検討項目
2027年度の第10期介護保険事業計画期間の開始までに結論を得るべき主な課題は以下の通りです。
高齢者の負担能力に応じた負担の見直し
利用者負担(2割負担)の範囲の見直し: 「一定以上所得のある方」(第1号被保険者の上位2割相当)の利用者負担割合を2割とした現行の判断基準(合計所得金額160万円以上かつ年金収入+その他合計所得金額280万円以上(単身世帯の場合))について、見直しを早急に検討し、2027年度の前までに結論を得ます。検討の軸として、負担上限額を設けずに2割負担の対象を限定する案と、一定の負担上限額を設けた上でより広い範囲を対象とする案があります。
3割負担(現役並み所得)の判断基準: 「現役並み所得」を有する方の3割負担の判断基準(合計所得金額220万円以上かつ年金収入+その他合計所得金額340万円以上(単身世帯の場合))について、医療保険制度との整合性や利用者への影響を踏まえつつ、引き続き検討を行います。
第1号保険料の多段階化: 制度の持続可能性確保のため、所得再分配機能を強化する観点から、第1号被保険者間の保険料負担について、国の定める標準段階を9段階から13段階に見直し、高所得者の標準乗率の引き上げ、低所得者の標準乗率の引き下げ等を行うことで、低所得者の保険料上昇を抑制します(令和6年改正(第9期)で実施)。
金融所得・金融資産の反映: 負担の公平性を高めるため、保険料や窓口負担割合の算定に、税制における確定申告の有無による不公平な取り扱いを是正し、金融所得や金融資産の保有状況を反映させる在り方を検討します。


制度間の公平性等を踏まえた給付内容の見直し
ケアマネジメントに関する給付の在り方(利用者負担の導入): 制度創設時より10割給付(利用者負担なし)とされてきたケアマネジメントについて、利用者負担導入の是非を包括的に検討し、2027年度の開始までに結論を出します。慎重論・積極論の両意見が存在します。
軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方: 要介護1・2の者に対する訪問介護等の生活援助サービスについて、総合事業への移行(給付範囲の見直し)を包括的に検討し、2027年度の開始までに結論を出します。介護人材不足や重度者への給付重点化の観点から移行を求める意見と、認知症高齢者の重度化防止の観点や地域での総合事業の整備状況のばらつきを理由に反対する意見があります。
施設における多床室の室料負担: 在宅でサービスを受ける者との公平性を図るため、介護老人保健施設および介護医療院の多床室の室料負担について、更なる見直しを含めて検討を行います。一部施設(「その他型」及び「療養型」の老健施設、「Ⅱ型」の介護医療院)については、2025年8月より新たに室料負担(月額8千円相当)が導入されることが決定しています。
補足給付に関する給付の在り方: 低所得者を対象とした居住費・食費の負担軽減策(補足給付)について、給付の実態やマイナンバー制度を活用した資産把握の在り方を踏まえ、引き続き検討を行います。
その他の中長期的課題
被保険者・受給者の範囲: 第2号被保険者(40歳~64歳)の対象年齢を引き下げるか、あるいは第1号被保険者(65歳以上)の年齢を引き上げるか、さらに介護ニーズの普遍化を図るべきかなど、被保険者範囲・受給者範囲の変更について、引き続き検討を行います。
介護現場の生産性向上と人材確保: 制度の持続可能性を確保するため、介護人材の確保・育成、職場環境の改善による離職防止、介護職の魅力向上、外国人材の受け入れ環境整備など、総合的な対策を継続的に実施します。また、テクノロジー活用、タスクシェア・タスクシフ
ティングの推進、経営の大規模化・協働化を通じて生産性向上を図ることも重要視されています
4.その他

以上、第127回社会保障審議会介護保険部会(令和7年10月27日開催)の概要になります。引き続き、「認知症の人と家族の会共同代表・和田誠からの意見・質問」、「担当者からの回答」を介護保険次期時期改正の動きレポートに掲載しているのでご覧ください。                           

 

 

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