どうするつもりか介護保険制度=「改正」の動きレポート#51
【介護保険部会】編
介護保険・社会保障専門委員会
~認知症の人と家族の会 共同代表 和田誠 からの意見・質問~
高齢者を中心とした単身世帯の増加に伴い、相談支援機能の強化は必要不可欠です。しかし、資料に記載されているように新たな専用窓口を設けず、既存の地域包括支援センター等で対応するという方針には大きな懸念を抱いています。すでに地域包括支援センターの現場職員は過大な負担を抱えており、さらなる負担増は持続可能ではないと考えます。人材確保の目途が立たない中で、現場職員にこれ以上の負担を強いることはできません。
資料のチャート図では、「生活支援ニーズ」が「地域マネジメント」の領域に、「医療ニーズ」が「個別マネジメント」とされています。しかし、訪問介護に見られる「生活支援ニーズ」への支援は、利用者一人ひとりの個別性が非常に高いものです。現在、訪問介護事業所の空白自治体が増加し、ホームヘルパー不足が報道されています。これにより、介護を必要とする本人や家族は不安な思いを抱えています。「医療ニーズ」が強化されても、「生活支援ニーズ」の下支えがなければ、介護のある暮らしを続けることはできません。訪問介護を維持・強化するための方策についても、ぜひご検討いただきたいと考えています。
高齢者虐待の相談・通報件数が増加している現状は非常に深刻です。特に注目すべきは、2023年の虐待判断件数において、介護職員によるものが1,123件であるのに対し、家族によるものは1万7,100件に上り、介護家族による虐待が施設職員の15倍にも達しています。家族など介護者による虐待の背景には、介護による寝不足や疲労、束縛感などがあり、これが「介護疲れ」や「介護ストレス」として現れるケースが多いと考えられます。特に近年では、「老老介護」と呼ばれる高齢者同士の介護が増加しており、介護保険制度内での介護家族への支援策はまだ十分とは言えません。 介護家族同士が相談できる場や、家族交流会・ピアサポートの場、見守りなどの精神的な支援はもちろん、介護家族の身体的な疲労を軽減するための介護保険給付の充実を強く希望いたします。
2028年4月1日から全市町村で介護情報基盤の本格運用を開始するという方針に賛成します。この方針は、介護サービスの質向上や効率化を目指すものであり、全国的な統一的にシステムの整備が求められています。特に、11ページに示された自治体アンケート調査によると、介護保険事務システムの標準準拠システムへの移行には一定の時間を要することが明らかになっています。特に人口規模の大きい自治体では移行が遅れる傾向が見受けられ、この現実を考慮すると、2028年4月1日を本格運用開始の時期とする設定は、現実的かつ適切な目標であると評価します。
介護情報基盤の整備は、業務の効率化や情報共有の促進といった大きなメリットをもたらすことが期待されています。具体的には、各自治体が持つ情報を一元化することで、利用者やその家族が必要な情報を迅速に取得できるようになり、サービスの質が向上する可能性があります。また、介護従事者の負担軽減にも寄与することが期待されます。
一方で、利用者がマイナポータルを通じて情報を確認する仕組みについては、特に認知症や身体障害をお持ちの方々にとって、大きなハードルとなり得ます。このため、現場の実態に即した配慮が必要です。具体的には、ケアプランデータ連携システムの普及促進や、情報基盤の統合に関する運用面でのさらなる工夫を強く要望します。利用者が安心してサービスを利用できるよう、情報の提供方法やサポートの充実を図る必要があります。
次に、資料4の「要介護認定」について述べます。前回の部会では、一次判定に関して「在宅実態調査」を行うとの報告がありました。しかし、私たちが長年最も強く感じている課題は、現行の一次判定が現実の介護の手間を十分に反映できていない点です。在宅介護における生活実態が十分に評価されていないという指摘は、現場の実感とも一致しています。
特に認知症の方の場合、身体介助の時間は少なくても、見守りや声かけ、行方不明時の対応、不安や混乱への寄り添いなど、精神的・肉体的に拘束される時間や心理的負担が非常に大きいのが実情です。しかし、現行の一次判定では、こうした「見えない手間」が十分に評価されていません。過去にも在宅介護を対象とした調査が行われましたが、データの精度等の課題から、一次判定ロジックへの反映には至っていませんでした。
このような状況を踏まえ、2025年度に在宅・通所介護サービス利用者のケア時間やケア内容の調査が実施され、その結果を一次判定プログラムの見直しに活かす方針は、極めて重要な取り組みであると考えます。調査では、サービス提供時間だけでなく、家族によるケアの内容や時間も調査対象とされると伺っております。特に、認知症に伴う周辺症状など、身体介助には現れない介護者の「実際の手間」を、今度こそ一次判定ロジックに反映し、介護現場の実態、とりわけ在宅ケアの負担感を正確に評価する制度となるよう、強く要望いたします。
調査結果がまとまり次第、速やかに本部会で詳細な報告と具体的な議論を開始していただきたいと考えております。これにより、現場の声を反映した制度改正が進むことを期待しています。
最後に、要介護認定が単なる画一的な基準ではなく、本人と家族の現実、特に認知症という疾患の特殊性や介護に伴う多大な負担を、より正確かつ温かく理解・評価できる仕組みとなることを切に願っております。現場の声を真摯に受け止め、真に利用者本位の要介護認定制度の実現に向けて、今後の議論と取り組みに大いに期待しております。。
「今後も介護保険制度から一般財源化される事業費が増えていくのか?」に対する南 社会・援護局地域共生社会推進室長の説明
質問に対する社会・援護局からの説明では、重層的支援体制整備事業についての現状が説明されました。この事業は、高齢者、障害者、子供、生活支援の4つの分野における支援を統合的に行うことを目的としています。具体的には、これらの分野の予算を一本化し、自治体に配分する仕組みが導入されています。
財源の一本化
現在の制度では、各分野の相談事業と地域づくり事業は法律に基づき一体的に実施される必要があります。したがって、交付される一本化された交付金は自由に使えるものではなく、特定の目的に沿った形での使用が求められます。各分野の特性を考慮しながら、必要なサービスを提供することが重要です。
支援の実施
例えば、介護に関しては、生活支援体制整備事業や総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)が実施されており、これに基づいて交付金が配分されています。この仕組みにより、各分野の機能を維持しつつ、より一体的な支援が可能になります。具体的には、課題を抱える世帯に対して、複数の支援を統合的に提供することで、効果的な解決策を見出すことが期待されています。
今後の展望
今後、重層的支援体制整備事業が増加すれば、交付金の財源も増える見込みです。しかし、この増加が各分野の相談機能や地域づくりの機能の喪失につながることはないとされています。財源が増えることで、より多くの支援が可能になり、各分野のサービスが強化されることが期待されています。
このように、重層的支援体制整備事業は地域の多様なニーズに応えるための重要な仕組みであり、地域住民の生活向上に寄与することが求められています。
(まとめ・文責 介護保険社会保障専門委員会 志田信也)