どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#33【介護保険部会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~「給付と負担」については結論先送りだが、この夏に山場が

 厚生労働省は昨年末の12月20日に、社会保障審議会介護保険部会(「部会」)からの「答申」にあたる「介護保険制度の見直しに関する意見」(「意見書」)を公表しました。

 前日の12月19日に第105回「部会」が開かれました。議題は、12月5日の第104回「部会」の議題でもあった「とりまとめに向けた議論について」ですが、その時に出された「介護保険制度の見直しに関する意見(案)」(「意見書案」)001019807.pdf (mhlw.go.jp)には「給付と負担」の項目のページは空白のままでした。この「意見」は、介護保険制度の改定にあたっての根拠になる文書です。この日の審議には、「給付と負担」の項目にも記載のある意見書案文001025600.pdf (mhlw.go.jp)が出され、最終的なとりまとめのための議論が行われ、20日に公表されました。「給付と負担」に関しては、検討を保留するか結論を先送りするという提案になっています。

 「先送り」と言いましても、次期に向けては粛々と進められており、今年の夏までに一つの山場が想定されます。詳しくは、このレポート後半で説明します。 

 

第104回と第105回の「部会」議事録から、花俣ふみ代副代表の発言要旨を紹介しながら、問題点をお伝えしていきます。(囲み内)

【第104回介護保険部会 2022年12月5日】

 今回の審議はとても慌ただしく、また、認知症の人と家族の会にとって、介護を必要とする人や家族など、介護者に大きな影響を与える論点が多く、ここで申し上げておかなければならない認知症当事者側の必死の思いについて発言する機 会をいただいたことにも重ねて感謝いたします。
 今、認知症施策の推進についてのところで粟田先生から大変ありがたい貴重な御意見を頂戴して、今さら私がというところなのですけれども、介護保険制度というのは自立支援、利用者本位、社会保険方式が基本理念とされているところです。ケアマネジメントでは要介護者の希望等を勘案することも盛り込まれています。地域包括ケアシステムの深化・推進では、給付、 総合事業ともに、どちらかといえば提供者サイドへの提言が多くなっている印象があります。改めまして、ぜひ利用者本位を尊重し、要介護者の希望等を勘案することが介護保険制度の前提であることを盛り込んでいただけるよう希望したいと思います。

栗田圭一委員 東京都健康長寿医療センター研究所副所長    以下は議事録より

『認知症高齢者が急速に増加するということと、意思決定支援あるいは権利擁護の重要性が高まっているということがどこかで触れられている必要がある…』

『ケアマネジメントの質の向上に関しまして…ここでもケアマネジメントの中の意思決定支援ということが非常に重要なので、意思決定支援あるいは権利擁護の確保も含めみたいなニュアンスのことがあるとよいかなと…』

『昨年の国立長寿医療研究センターの実態調査によれば、認知症初期集中支援チームの支援対象者の4割が困難事例ということが明らかになっているのですけれども、このことは、 多分これは氷山の一角なのですが、地域社会の中に必要な社会的支援にアクセスできないで、社会的に孤立して、複雑・困難化する認知症の方がたくさんいらっしゃるということでございます…』

『その多くは、突然、あるいはもともと困難事例だったわけではなくて、もともとは社会 の中で普通に暮らしていた方が、認知機能の低下とともにだんだん社会的に孤立し、必要な支援にアクセスできない状態が長い間続いて困難事例化しているということに注意すべ き…』   

『この方々に認知機能が低下し 始めた初期段階で必要とされる社会的支援にアクセスできるようなサポートができていた ら、あるいは生活支援体制整備事業の中で社会的に孤立しつつあるMCIの方とか軽度認知症の方が必要な社会的支援にアクセスできるような地域社会の構造、ネットワークをつくり上げていたら、こういった方々が困難事例化するリスクを低減させていたかもしれない と考えなくてはいけない』

 提供者サイドへの提言  「意見書」より

 例えば「ケアマネジメントの質の向上」という項では、

『意思決定支援等の重要性の増加』という認識は示されていますが、それをどのような施策で対応するのか明確でなく、提示された多くの項目が、『ICTやデータの利活用』や『ケアマネジャーが十分に力を発揮できる環境を整備』に関わるものです。曰く『ケアプランの作成におけるAIの活用』『ICTの活用状況などを踏まえて更なる業務効率化』『ケアマネジャーに関する資格管理手続の簡素化』等々

 また「科学的介護の推進」では、

 『科学的介護の推進は介護の質向上のために重要な取組であり、令和3年度 にLIFEの運用を開始したところ』『LIFEについては、エビデンスを蓄積する観点から、データを提出する事業所・施設を増やし、収集するデータを充実させる必要があるが、このためには、事業所・施設側の入力負担の軽減を図る』

 *「科学的介護」とは「科学的裏付けに基づく介護」(厚生労働省)とされるもので、要介護者の医療と介護の情報(リハビリ情報・本人の状態やケアの内容)を集積して介護プランを作り   プラン実施後の効果を評価し、その評価に基づいて新たな介護プランを進める、この情報収集と評価のフィードバックシステムを「LIFE」としています。「科学的介護推進体制加算」も設定されています。本資料におけるスライドタイトルの記載部分 (mhlw.go.jp)


在宅サービスの基盤整備、14ページの通いの場、一般予防事業には新型コロナウイルス感染症の影響について言及があります。在宅サービスでも訪問介護は減少気味で、通所介護は明らかに利用者減となっていますが、その実態がはっきりしておりません。既に第8波に入っている中、在宅介護を支えるために、複合的な在宅サービスの整備とともに、訪問介護、通所介護の給付がしっかり維持されることを希望したいと思います。
 

通いの場 この「意見書」では

「通いの場」とは『年齢や心身の状況等によって分け隔てることなく、誰もが一緒に参加し、認知症予防、多世代交流や就労的活動など、地域のニーズ に応じた多様な機能を有する場』としています。また『通いの場が住民主体であることや、専門職が限られていることにも留意しつつ、更に質を高めるために、自治体と地域の職能団体が連携することなどにより、医療や介護の専門職の関与を推進することが必要』としています。住民主体をめざすとはいえ、自治体の関与は不可欠だと思いますが、2021年度の老健事業(厚生労働省)「通いの場づくり等に係る市町村支援に係る調査研究事業」(NTTDATA)では『市町村職員は数多くの制度や事業を担当しており、目前の業務の推進自体が目的化し、住民・地域の課題に目を向けられていないことが多い』という総括文での指摘は「通いの場づくり」の今後の課題が示されていると思います。r03_80jigyohokokusho.pdf (nttdata-strategy.com)   


介護現場のタスクシェア・タスクシフティング。介護助手に切り分け可能な業務や切り分けたときに効果が高いと見込まれる業務の体系とありますが、介護助手が施設サービスで働く人を想定しているのであれば、単に介護助手と書くのではなく、可能であれば「施設サービスにおける介護助手」としていただくことを希望したいと思います。
 

介護現場のタスクシェア・タスクシフティング

「介護現場における業務の明確化と役割分担を進め、いわゆる介護助手の方が現場の担い手の一員として存分にその役割を果たしていただくために、その確保も含めて、どのような方策が考えられるか」という問題意識で、『いわゆる介護助手』とは『身体的介護以外の業務や介護専門職のサポート等の比較的簡単な作業を行う』人としています。(第99回「部会」資料「介護人材の確保・介護現場の生産性向上の推進について」)スライド 1 (mhlw.go.jp)介護人材の不足状態が続く中、『専門職をできる限り有効活用するという観点から、介護職員が行うべき業務の切り分けを積極的に進める必要がある』としています。モデル事業を実施した ある施設では、業務を「ケア」と「作業」に「切り分け」ました。

「ケア」を「食事介助」「排泄介助」「移乗介助」とし、「作業」を「入浴介助」「食事介助」「リネン交換」「掃除」「配膳」としました。

「施設サービスにおける介護助手」

“施設サービスにおける”と限定を求めたのは、在宅サービスも「切り分け」が行われた場合、訪問介護の持つ「見守り・ふれ合い・家事援助というトータルなケア」が実施できなくなり、特に認知症の人の在宅介護は不安定なものになる恐れがあるからです。

  ➡12月19日に示された最終まとめでは、『花俣委員のご指摘を踏まえて』として、『この実証事業の対象としては施設系のサービスが対象であるということを明確化してございます』という条件付きの表現になり、予断を許さない対応でした。

【第105回介護保険部会 2022年12月19日】

 もはや修正の段階ではないというふうに思っていますが、利用者や介護する家族の立場から気になる点について、成文には入らないとしても、確認の意味も含めて3点申し上げさせていただきます。
 4ページに総合事業の推進があります。ここでは地域の中に住民主導のものを含めた様々な社会資源があり、これらについて生活支援コーディネーターが発掘を行うとともにとあります。社会資源というのは 広い意味を持つそうですが、ここで言う社会資源とは、住民主体の活動やサークルなどを指すことになるかと思うのですが、もしそうだとすれば、地域で地道に、あるいは自発的に活動を続けている皆さんを発掘するという表現にはいささか違和感を覚えるということをお伝えしておきたいと思います。

発掘するという表現

 この指摘に対して、菊池馨実座長(早稲田大学理事・法学学術院教授)から事務局に向けて、   『私もこの発掘というのは、地域住民が主体であるならば、その主体を発掘するというのは、すごく違和感がある。そういう趣旨の発言を以前もさせていただきましたけれども…』とあり。

結果➡『地域の中に住民主導のものも含めた様々な社会資源があり、これらについて生活支援 コーディネーター等が 発掘等を行うとともに、…』という所が『…生活支援コーディネーター等がこうした多様な主体による多様なサービスの提供体制を構築するとともに…』、と変更されました。

地域包括支援センターの体制整備等のところなのですけれども、終わりのほうです。モニタリングの期間の延長に
関しては、利用者に説明し、合意を得てという我々の立場を少し盛り込んでいただけるとありがたいなと、これを追記していただけないかなというふうに感じております。

「意見書案」では、

『総合事業において、従前相当サービス等として行われる介護予防ケアマネジメントAについて、利用者の状態像等に大きな変化がないと認められる場合に限り、モニタリング期間の延長等を可能とすることが適当である。』

公表された「意見書」には太字の部分が加筆されました。

『総合事業において、従前相当サービス等として行われる介護予防ケアマネジメントAについて、利用者の状態像等に大きな変化がないと認められる場合に限り、利用者に説明し、合意を得てモニタリング期間の延長等を可能とすることが適当である』


これは7項目の中で次期計画、2024 年以降に向けて結論を得ることが適当とされているのが1番目の1号保険料負担の在り方と2番目の一定所得の判断基準、そして3番目の多床室の室料負担の3項目です。40ペー ジには遅くとも来年夏までに結論を得るとあり、継続審議となっています。介護保険料利用者負担、室料ともに、被保険者、認定者、利用者に大きな影響を与えるものです。厚生労働省の皆様には、大変御多忙なこととは存じますが、どうすべきなのかきちんと判断できる資料に基づいて審議されるようにお願いしておきたいと思います。 また、10期の計画期間、つまり2027年度の前に結論を出すということU、そして軽度者への生活援助等に関する給付の在り方が挙がっています。皆さんの御努力によって拙速な結論にならなかったことを心から感謝申し上げます。しかし、介護を必要とする人たち、家族など介護者たちは、少し猶予期間が設けられたとはいえ、介護の重圧、疲労に加え、サービスの利用が続けられるのかという不安を抱く日々が続くことになることをお伝えしておきたいと思います。

①1号保険料負担の在り方

「1号被保険者」=65歳以上の人が負担する保険料の「在り方」です。

現在、厚生労働省(厚労省)から、所得に応じた9段階が示され、第5段階の金額を「基準額」としています。保険者ごとに段階設定が異なり、私の暮らす長野県諏訪広域連合は14段階にしています。今期の基準額全国平均は6014円、ちなみに私の所は5450円です。厚労省からは、“所得の高い人はより多く、低所得の人にはより少なく”という「方向性」が示されています。

②一定所得の判断基準

介護保険サービスの利用料負担は、1割負担を原則としていましたが、2015年に2割負担、2018 年には3割負担も導入されました。この「一定所得の判断基準」とは、2割負担者の基準金額です。被保険者の所得上位20%を対象としているとされ、「年金収入とその他の合計が、単身で280万円、二人以上世帯で346万円以上」の人が2割負担です。見直しにより、基準額が下がれば2割負担者が増える、という事になります。2割負担になるという事は、介護保険サービス利用料負担が倍になるという事ですから、サービスの利用控えによる状態悪化も懸念されます。「家族の会」は“原則1割”の維持を求めています。

③多床室の室料負担

「多床室」とは、施設の「相部屋」(多くは4人部屋)のことで、介護老人保健施設・介護医療院・介護医療型医療施設の、いわゆる介護保険三施設を対象としています。

現在、特別養護老人ホーム(特養・老人福祉法の「介護老人福祉施設」)の「多床室」は2015年から、一定所得以上の利用者に室料が加えられました。この三施設は、医療的なケアを必要とし、かつ在宅復帰を目指す人たちによる利用がほとんどです。「特養」の室料導入の根拠とされた「死亡退所が多く、事実上の生活の場として選択されている」とは異なります。「家族の会」は室料導入に反対しています。

遅くとも来年夏までに結論を得る

「来年夏」とは、今年の夏です。夏が何月から何月までなのかわかりませんが、①②③の項目は、2024年度から始まる第9期介護保険事業計画の作成段階までに決めておく必要があるからです。この3項目は介護保険法の改正によって決める必要はなく、「部会」とは別の介護給付費分科会(「分科会」)の審議を受けて厚生労働大臣による「省令」か、内閣総理大臣による「政令」によって決める事ができます。

したがって「部会」の動きと同時に「分科会」の動きも注視しなければなりません。現在地方自治体では3月議会が開かれています。厚労省はいつも「自治体の意向を尊重して」と言っていますから、保険者である市区町村にも「意見書」の提出を働きかけています。

きちんと 判断できる資料

厚労省が被保険者の負担をテーマにする時に用意する資料は、同省を含め総務省などが出している統計資料です。所得や貯蓄の金額、さらに不動産まで対象にする動きもあります。介護のある暮らしは、それまでの生活に介護費用が加わるわけですし、介護保険がカバーしない負担もあり、要介護者が複数いるケースも多く、その「負担能力」を表に出た金額だけで決めつける事をすべきではありません。少なくとも、介護のある暮らしをしている人たちの実態が統計的に見える資料を作成して欲しいのです。

➃ケアマネジメントに関する給付の在り方

「給付の在り方」とは、現在ケアプラン作成の際に利用者負担が無いわけですが、それは保険から10割「給付」されている事によるからで、これを問題にしているわけです。具体的には1,2,3割負担を導入する、という事です。

10割給付としてきた理由は、「要介護者が積極的にサービスを利用できるようにする観点からの例外的取り扱い」(財政制度等審議会)としていますが、いまでもこの観点は必要です。ケアプランはサービス利用の入口です。有料化による利用控えは状態悪化が懸念されます。「家族の会」はこの有料化に反対しています。

➄軽度者への生活援助等に関する給付の在り方

「軽度者」とは、要介護1と2の人に意味づけています。私たちは要介護1と2の人を「軽度者」とは考えません。要介護1と2の人には認知症の人が多いと言われていますが、本人にとっても介護する側にとっても、重度化しないために手厚い、専門性のある介護を必要とする状態にいると言えます。要支援1と2の人は2015年度から「訪問介護」「通所介護」が介護保険給付から自治体の地域支援事業に移行されていますが、要介護1と2の人も同様に移行するという方向性を示したのがここで言う「給付の在り方」です。「家族の会」は、保険給付という権利を無くし、全国一律の基準で行われるサービスから自治体の裁量にゆだねるサービスに移行させることに反対しています。

 

「意見書」の概要版介護保険制度の見直しに関する意見(概要)① (mhlw.go.jp)を見ると、今後の検討課題が一覧できます。全29目の内「給付と負担」に関しては7項目で、22項目は介護保険サービスにかかわる人材やケアの質、介護事業所の運営など介護現場の課題が並べられています。いずれも「部会」では、基本的方向性が出され、「分科会」では介護報酬との関係も含め具体的な方向性が出されます。「分科会」には現在、鎌田松代理事・事務局長が委員参加しています。

 上記7項目の内、ここで取り上げなかった項目は⑥「補足給付に関する給付の在り方」と ⑦「被保険者範囲・受給者範囲」です。⑥は所得の低い人への支援策で、今回も基準額の変更に加え、不動産担保での貸付も検討しています。⑦は、第2号被保険者(40歳~64歳)の対象年齢を下げるか否か、サービス利用可能年齢(原則65歳以上)を上げるか否か、つまり「入り」を増やして「出」を減らす策と思われます。いずれも「引き続き検討」という 取り扱いになりました。また、「利用料3割負担」の基準である「現役並み所得」の検討に関しては、取り扱いが示されていません。

 「部会」では夏までにとされた項目に方向性を出すための審議が行われています。また、③は「部会」ではなく「分科会」での検討事項で、「必ずしも夏までという事ではない」との事務局説明もありましたが、いずれにしても①②③は、来年度から始まる第9期での実施をめざしています。統一地方選挙前には「負担」の問題を出さないだろうという想定されますが、審議会(「部会」「分科会」) の動きを注視しながら、時期を逸せず声を挙げていく必要があると思います。

最後になりましたが、昨年9月から3か月間、「安心しできる介護保険制度を求める」署名活動を署名用紙とネット署名とを併用して行い、11万筆の賛同を得る事ができました。「給付と負担」の審議が行われる最中の11月末に、その時点で集まった署名を厚生労働大臣に提出しました。また、自治体からの意見書提出を求める首長宛への要望や議会への陳情・請願の取組も行いました。結果として、一部が来期(2024年度から)、残りは次々期(2027年度から)という取り扱いになり、「負担増と給付削減」の動きに少しブレーキをかける事ができましたが、より大きい成果は、特にネット署名を通じての問題意識の広がり、自治体への働きかけにより介護保険の問題を、特に議員の皆さんに知って頂いたことなど、安心しできる介護保険制度を求める上で、今後の力になると思います。署名にご協力いただいた方々には、今場を借りてお礼申し上げます。有難うございました。

                                              (まとめと文責  鎌田晴之)

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