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必ず受けよう!医師の診断
医師の診断が必要なわけ
だからちょうどその頃に開業したA先生との出会いは助けになりました。先生は認知症と見分けなければならない病気についても調べてくれました。頭を打った後にじわじわと血の塊が出来て、脳を圧迫する慢性硬膜下血腫や、体液のバランスの変化など、私たちが気づかないことを検査してくれました。認知症の種類によってその後の生活の注意点や治療の方法が違ってくることも大切なポイントです。たとえばアルツハイマーの場合には、「空間失認」といって、目では見えているのに脳では認識できないことが特徴で、その兆候は母にも現れました。そのことを知って家の危険な部分を改修すれば、母の不自由を補えますからね。
そうそう、「家族の会」の出版物の中に次のような心構えが載っていました。
受診するときの家族の心構え
医師の診断には、ふだんの本人の様子を知っている家族の話が役立ちます。付き添う家族は、次のことをあらかじめ紙に書いて整理しておくとよいでしよう。
■もの忘れは、日常生活に支障をきたすほどのものか
■最初の異変は、いつとはなしに出てきたのか、突然に出てきたのか
■この半年の間に症状は進行したか
■本人のこれまでの病気について
これらは、認知症の原因や進行を診断するときに参考になります。
(出典:「家族の会」編 新ぽけの人の生活と対応)
何科の医師が良いか
妻と私の場合、心から信頼できたA先生は内科医でした。「どの科の先生が一番いいのか?」って話し合いましたが、神経内科や精神科、心療内科、脳外科など、認知症を理解してくれる科目はたくさんあります。でも、うちは母をいつも診てくれるA先生を通じて神経内科と精神科に行ったのが良かったと思います。母には被害感が出てきました。それも一番愛情を持って介護してくれる妻に対して「財布を盗った」って。
懸命に介護してくれる妻の気持ちを思うと……。私が診察室で思わず涙を見せたためA先生は精神科に相談してくれました。
その後、バーキンソン症状のひとつである「すくみ足」が出たときにも神経内科を紹介してくれました。そこで私は「認知症の人をずっと診ている医師が必要に応じて専門医を振り分けることが大切」と気づいたのです。
受診を嫌がる人の場合には、「ものわすれ外来」や地域の保健所の高齢者相談などを活用するのも良い方法です。うちもA先生から紹介されて家族だけが保健所に相談に行ってから、何をすればよいのか少しわかりました。
ともに共感してくれる「家族の会」のことも教えてくれました。その時かな、真っ暗なこの先に少し光が差し込んだように感じました。各支部のつどいに参加して、会員の皆さんに病院のことなども聞いてください。
こうして診断されます
認知症の精密な検査にはA先生が紹介してくれた病院の「ものわすれ外来」を受診しました。それまで認知症って症状だけで診断するのだと思っていたのですが、精密な脳の検査、MRI※1やCT※2で実際の脳変化を見るのです。「ものわすれ外来」の先生は「認知症は脳の器質性(形が変化する)の病気なので、画像診断せずに症状だけで推測するのでは不十分です」って教えてくれました。
※1 MRI:磁気共鳴画像
※2 CT:コンピュータ断層撮影
ほかにも検査があります
認知症を知るために「100-7はいくらですか?」などと質問する長谷川式認知症スケール検査などもおこないます。母も時々検査を受けていました。でも、A先生も含め、あまり頻繁には検査しないのです。私は一度、精神科の先生にどうして毎回検査しないのか聞いたことがあります。すると先生は「時々ならいいのですが、繰り返し検査すると本人が傷つく場合がありますから」といわれました。認知症が進んでいても心がちゃんと反応しているんですね。その点への配慮も家族に出来ることだと気づきました。今は事実を確認しすぎず、母の心を大切にしています。
経過を見るときの家族の心がけ
A先生から紹介された「ものわすれ外来」に行くとき、母はずいぶん嫌がりました。早い診断と対応が大切だと思い、私も辛い気持ちを抑えて待合室で待っていました。最初に向き合わなければならない心がけは、現実から目をそむけようとする自分自身の心に注意することです。
次に妻と私が直面したのは「告知」のあとの気分をどのように処理するかという問題でした。心理療法や薬などで早期にかかわれば、認知症の経過がより良いことは知っていました。先生は「告知するだけであとのフォローがなければ本当の告知ではありません」と、母や私たちに配慮した告知をしてくれました。でも、いざ告知されると、やはりショックでした。そこでA先生が精神科や「家族の会」を紹介してくれたので、私たちの心のケアができました。特に「家族の会」は同じ立場のみんなが「あなたの苦労を代わってあげることはできないけれど、みんなであなた達を支えてあげるよ」って言ってくれました。子供たちが独立して二人きりになっていた私たちにとって、傍らを歩いてくれる先輩が出来たと思いました。
また「家族の会」の出版物でみた「家族ができる10カ条」もたいへん参考になったので、後でお見せしましょう。
最後にもうひとつ心構えが必要だとすれば、それはたとえ認知症が悪化しても家族が自分たちの介護が悪いとは考えないことです。熱心に介護する家族がいても病気の進行が早い人もいるのですから。精神科の先生もA先生もその点について同じように力説してくれました。「家族が自分たちばかり責めなくていいんですよ」って。