どうするつもりか介護保険制度=「改正」の動きレポート#54
第124回社会保障審議会介護保険部会(令和7年9月8日開催)

第124回社会保障審議会介護保険部会は、2025年(令和7年)9月8日(月)に参集とWebのハイブリット形式で開催されました。
主な議題は以下の通りです。
「人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築」論点
• 人口減少・地域類型化:中山間・人口減少地域を中心に、サービス基盤維持のための柔軟な制度設計が多数提案されたが、サービスの質や国民の納得感、財政負担への配慮も強く求められた。
論点① 地域の類型の考え方
2040年を展望し、全国を「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」の3類型に分け、高齢化や人口減少のスピード、サービスの需給構造に応じた対応が重要としています。中山間地域や離島など人口密度が低く交通不便な「特別地域加算対象地域」では、制度や支援の柔軟化を図り、サービス基盤の維持を図る必要性を強調しています。今後も各地域の人口構造変化に応じて、都道府県・市町村はサービス需要の変化に注視しながら、地域の実情に合った対応・計画策定が求められます。
論点② 地域の実情に応じたサービス提供体制の維持のための仕組み
中山間・人口減少地域などでは、人員基準を満たすことが困難なケースが多く、現行の基準該当サービスや離島等相当サービスなどの特例を活用しています。たとえば、季節ごとに職員を異なるサービス間で融通したり、条例により緩和された基準を運用する例もあります。今後は、これらの特例枠組みの拡充や、広域化・サービスの多機能化による効率化、事業所間の連携による人員配置基準の弾力化など、サービスの継続・質の維持を両立する仕組みづくりが課題です。
まず、冒頭申し上げますが、これ以上給付を縮小する方策は控えていただきたいということが第1点です。もともと介護保険制度は、保険料を負担する被保険者が要介護認定を受けた後に全国共通サービスを利用できることを基本とする仕組みではなかったでしょうか。その点を踏まえていただきたいと思います。 今回の論点1と2です。地域の線引きが不明確なままサービス提供体制を検討するということは、疑問を抱かざるを得ません。対象地域を定めて特例介護サービスを拡張するのではなく、全国どこで認定を受けても必要な給付が提供される体制の構築を全力で検討していただきたいと思います。
他の委員からの発言
| 委員名 | 主な発言要旨 |
| 及川委員 | 地域分類や配置基準の緩和は必要だが、サービス品質や職員負担にも配慮すべき。訪問介護の移動負担や事業所連携の可能性について言及。 |
| 小林(広)委員 | 中山間・人口減少地域での柔軟な枠組みを支持。サービス基盤が崩れるとケアマネジャーのシャドーワーク増加につながると指摘 |
| 津下委員 | 地域類型化や特例サービスの拡大を評価。一方、地域の変動に応じた柔軟な基準見直しの頻度や研修・記録の担保が必要と主張 |
| 山際委員 | 介護以外の生活サービスとの連携、省庁横断の取組、公的施設のシェア化、災害時の柔軟対応の必要性を強調 |
| 山田委員 | 一般市でも中山間・人口減少地域を含むエリアがあり、地域ごとの柔軟な対応が必要。特別加算の対象拡充や報酬体系の見直しを提案 |
| 東委員 | 3つの地域類型を想定し、必要な施策を複数組み合わせて対応することの重要性を強調。柔軟な運用にも賛同 |
| 伊藤委員 | 対象地域の明確化や丁寧な検討が必要。制度的な持続可能性も意識した議論が求められると指摘 |
論点③ 地域の実情に応じた包括的な評価の仕組み
訪問介護などの報酬は現在「出来高制」が主流ですが、利用回数や時間に左右されない月額定額報酬(包括的評価)の導入も検討されています。事業者が収入を見通しやすくなり、経営安定化が期待できますが、利用者負担やサービスの質確保といった課題も指摘されています。特に移動時間がかかる中山間・人口減少地域では、報酬体系や支援体制の改善が重視されています。
報酬・評価制度:包括的な評価(定額報酬)の導入には賛否が分かれた。メリット・デメリットを明示した上での慎重な検討が要望された。
論点3の包括的な評価の仕組みについてです。2006年度改定以降、介護予防訪問介護、介護予防通所介護が月単位の定額報酬となった際には、要支援者認定者は必要な回数、時間に応じた利用ができず、それ以前の出来高報酬の範囲内でしかサービスを利用できなくなってしまいました。さらに、小規模多機能居宅介護のように、事業所の恣意的なルールにより要介護度別に提供回数を定めてしまう事態なども想定されます。訪問介護事業所に出来高報酬と月単位の包括的な支払いの選択を認めるとのことですが、事業者は収益が高くなる方式を選択するのが自然な流れです。利用者は出来高か包括報酬かを選べない立場であり、1回当たりの単価が上がるなど、極めて不利になり得ます。今回も月単位定額制が導入されれば、実質的に出来高報酬の範囲内でしか給付が保障されないおそれが高いと考えます。以上により、包括的な評価の仕組みには反対させていただきます。
他の委員からの発言
| 委員名 | 主な発言要旨 |
| 井上委員 | 包括的な評価の導入は事業者の安定化に資する可能性があるが、利用者負担や保険財政への影響も慎重に検討すべき |
| 小林(広)委員 | 出来高・定額報酬の選択制導入でケアマネの負担増やサービス量の制限を懸念 |
| 小林(司)委員 | 包括的な評価のメリット・デメリット双方を明示し、慎重な検討が必要と主張 |
| 染川委員 | 包括的な評価の仕組みは慎重に検証し、慎重に導入すべき。職員負担にも十分配慮を |
| 野口部会長代理 | 医療のDPCとの違いに留意しつつ、サービス標準化や質の確保の視点も重要と補足 |
論点④ 介護サービスを事業として実施する仕組み
市町村自身が介護サービスを「事業」として柔軟に実施できる枠組みの可能性が議論されています。民間事業者がサービスを維持するのが難しい地域でも、市町村が自ら事業化することで必要最低限のサービス基盤を確保できる制度設計が必要です。この場合、財源や人材確保、住民への公平なサービス提供などの課題に配慮した慎重な検討が求められています。
- サービスの維持・運営:特例サービス拡大や事業費支払い方式には期待が寄せられる一方、持続可能性や現場負担への懸念も根強い。
論点4、介護サービス事業として実施する仕組みですが、給付に代わる新たな事業の創設ということが示されていますが、既に給付に加えて地域支援事業というものがあります。地域支援事業とは別立てで新たな事業を創設するというのは、給付の一層の縮小につながりかねないため、反対します。加えて、地域支援事業のメニューは増え続けており、これを十分に理解している被保険者は多くありません。利用者本位の介護保険制度とするのであれば、被保険者に分かりやすい仕組みの改善を継続していただきたいと考えます。仮に新たな事業を実施する場合でも、市町村の介護保険財政に過度の負担をかけないよう、国や県による大幅な助成を講じるなどの工夫が必要だと思います。
他の委員からの発言
| 委員名 | 主な発言要旨 |
| 粟田委員 | 特例サービスの枠組み拡大や連携強化の意義は認めつつ、現行制度の周知・活用支援も必要 |
| 石田委員 | 給付に代わる事業創設は既存の総合事業とのすみ分けや利用者負担の具体像を明確化すべき |
| 多田参考人 | 市町村丸投げ型の事業委託は持続可能性に疑問。実現可能性や財政負担の検証が必要 |
| 河野参考人 | 事業費支払い方式は安定化に資するが、保険料への影響や市区町村の負担も明示すべき[1]。 |
| 尾﨑参考人 | 離島等相当サービスや加算は現場の経営維持に有効だが、準備期間や周知徹底の重要性を指摘 |
論点⑥ 地域の実情に応じた既存施設の有効活用
利用者減少で空床が生じ始めた施設を、他分野(障害、児童など)の福祉施設やサ高住などに用途転換する仕組みを拡充しようとする議論です。国庫補助金の返納要件など規制を緩和し、地域のサービス需要の変化に柔軟に対応できるよう、既存施設を有効活用するための制度設計が必要です。特に中山間・人口減少地域では、地域住民・関係者の合意形成のもと、施設の機能変更や統廃合を進めることが求められています。
2. 介護情報基盤・被保険者証の見直し
介護情報基盤・保険証
ペーパーレス化やマイナンバーカード活用には情報弱者への配慮と段階的な移行、現場サポートの充実が不可欠との意見が集中。
保険者や事業所の事務負担の軽減、簡素化そのものに反対するものではありません。現場の負担が減り、必要な支援が滞りなく届くということは、当事者家族にとっても非常に重要です。 しかしながら、介護保険証のペーパーレス化、すなわちマイナンバーカードの活用ですとか、スマートフォンによるマイナポータルへのアクセスを前提とする仕組みは、認知症の方やその家族、高齢者、身体障害などのある方、いわゆる情報弱者にとって、必ずしも優しい制度設計とは言えないのではないでしょうか。操作や管理の難しさ、端末や通信環境の有無、紛失、ロック等のリスクは、日常の不安や負担を増やすことにつながりかねません。 制度上は紙の被保険者証かマイナンバーカードかを被保険者が選択できると伺っておりますが、とはいえ現場でマイナンバーカードをお持ちでないと負担軽減ができません、手続が遅くなりますなどと、実質的な闇の圧力というか、実質的な圧力や利用者側の遠慮が生まれてしまうことが強く懸念されます。保険者、地域包括支援センター、ケアマネジャー、事業所のいずれにおいても、そのような空気が生じれば、当事者や家族が後ろめたい思いを抱き、必要な支援の利用をためらうという事態が起きかねません。つきましては、誰一人取り残さない移行のため、以下の点、丁寧に御説明をお願い申し上げます。
| 委員名 | 主な発言要旨 |
| 山田委員 | 保険証交付のタイミング変更は合理的だが、高齢者の理解促進・サポート体制の充実が必要 |
| 小林(司)委員 | 災害時の特別措置や認定スピード向上の必要性を指摘 |
| 多田参考人 | ペーパーレス化の現実性や現場負担を考慮し、過渡期の運用設計を明確化すべき |
| 染川委員 | マイナンバーカード取得・運用の実態に合わせた配慮と、機器導入への財政支援も検討すべき |
| 鳥潟委員 | 医療との連携を強化し、マイナポータル等のデータ活用推進を要望 |
| 石田委員・津下委員 | 保険証交付の実務や本人確認の運用、国民への周知プロセスについて細かく質問 |




