どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#30【介護保険部会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~“負担増”の議論が始まりました~

 9月26日に第98回厚生労働省社会保障審議会介護保険部会(「部会」)が開かれました。

 議題は「給付と負担について」と「その他の課題について」です。

 3月から再開された「部会」では、この間も「地域包括支援ケア」の在り方や、人材確保の問題など、介護保険制度の運営上重要な議論が行われてきましたが、今回の議題は、介護保険サービス利用者にとって、直接かつ受け入れがたい影響が想定される内容が並べられています。

 資料1PowerPoint プレゼンテーション (mhlw.go.jp)(「給付と負担についての指摘事項について」)

 資料2PowerPoint プレゼンテーション (mhlw.go.jp) (「その他の課題について」)

 資料3 PowerPoint プレゼンテーション (mhlw.go.jp)(「その他の課題についての参考資料」

 今回も、花俣ふみ代副代表の発言要旨を紹介しながら、問題点をお伝えしていきます。

「部会」は25名の委員で構成しています。審議時間2時間半の内、最初の事務局説明の後、残り時間が発言時間になりますが、すべての委員の発言を前提に5分ルールがあり、残り時間直前に「チーン」というベルが鳴らされる、という条件下での発言です。花俣副代表の発言も問題点の全てに言及できない悔しさを秘めながら、より重要と思える点に絞られています。しかも細部にわたるより、原則的な指摘をせざるを得ない現在の状況ですので、このレポートでは、発言趣旨に添いながら補足情報を加えています。

今号から囲み内が花俣副代表の発言です。

なぜ、必要なサービスを減らす議論をしなければならないのか!?

 資料1の2ページに、「75歳以上の高齢者が2030年頃まで増加」とあり、2020年段階で、75歳の人の平均余命男性9年、女性16年と報告されています。(出典: 厚生労働省『2020年簡易生命表の概況』)

 つまり、今世紀のなかばまで、病気や障害をもつ高齢者への対策が、大変、重要なテーマになるであろうと思われます。にもかかわらず、資料1には『骨太方針2018』からはじまった、サービスを制限する提案の数々が、並んでいます。

 まず、長年、抱いている疑問について申し上げておきます。

 なぜ、必要な人に必要なサービスを提供する議論ではなく、必要なサービスを減らす議論をしなければならないのか?

 なぜ、必要なサービスを増やすために、どうやって財源や人材を確保すべきかという議論にならないのでしょうか・・・?

 新型コロナウイルス感染症の拡大により、在宅サービスを利用する人たちが、事業所の都合でサービスを減らした、感染症を恐れて利用を自粛したといった実態が、私たちの調査で明らかになってきています。(HP掲載 出典: 認知症関係当事者・支援者連絡会議『新型コロナウイルス感染症影響下(コロナ下)に関する認知症の人と家族の暮らしへの影響調査』)

まず、介護を必要とする人、家族など介護をする人の立場から、いま、この時期に、「サービス利用を抑制する」制度の見直しが、論点となることに大きな疑問があることを、お伝えし、どうか、介護のまっただ中にいる我々の声に、耳を、心を傾けていただいたうえで、いずれは自分事とし、今後の議論を深めていただくことを切に望みます!

『骨太方針2018』(内閣府経済財政諮問会議「経済財政運営と改革の基本方針」)

 *「社会保障」の項目の中で次のように書かれています。

 「高齢者医療制度や介護制度において、所得のみならず資産の保有状況を適切に評価しつつ、『能力』に応じた負担を求めること を検討する。団塊世代が後期高齢者入りするまでに、世代間の公平性や制度の持続性確保の観点から、後期高齢者の窓口負担の在り方について検討する。介護のケアプラン作成、多床室室料、介護の軽度者への生活援助サービスについて、給付の在り方を検討する。年金受給者の就労が増加する中、医療・介護における『現役並み所得』の判断基準を現役との均衡の観点から見直しを検討する。」

サービスを制限する提案

  今年(2022年)の4月には、財務省の財政制度等審議会が「提言」を出しました。

 介護保険の「給付と負担」に関しては、主に次のような項目を並べています。いずれも前期改正審議で継続になった項目です。

 1 介護保険サービスの利用者負担を原則2割とすることや2割負担の対象範囲の拡大を図る

 2 9期介護保険事業計画期間から、ケアマネジメントに利用者負担を導入すべきである。

 3 介護老人保健施設・介護医療院・介護療養病床の多床室については、室料相当額について、第9期介護保険事業計画期間から、   基本サービス費等から除外する見直しを行うべき

 4 要介護1・2への訪問介護・通所介護についても地域支援事業への移行を検討

「負担能力」の評価は、高齢者の経済状況を示す具体的な資料に基づく議論をすべき

 資料1には、厚生労働省の参考資料がありません。

 しかし、「(2)補足給付に関する給付」、「(3)多床室の室料負担」、「(4)ケアマネジメントに関する給付」、「(5)『現役並み所得』『一定以上所得』の判断基準」の4項目は、すべて被保険者、あるいは認定者、利用者が、どのくらい負担ができるのかに、係る項目です。

 国民生活基礎調査をみると、2019年段階で、75歳以上の平均収入は半数以上が150万円未満です。つまり、介護保険サービスの利用者負担が増えれば、必要があっても、サービスを減らさざるを得ない人が増えることが推測されます。また、今年公表された基礎調査では、高齢者の半数、50.4%が「生活が苦しい」としています。

 10月1日からは後期高齢者医療保険の利用者負担が引き上げになり、さらに介護保険の利用者負担が引き上げになることには、大きな不安があり、それは制度への不信につながります。

 家計のほとんどを年金収入に頼る後期高齢者にとって、負担できるのかどうかをどのように判断されるのかは、文字通り、死活問題になります。

 厚生労働省のみなさんには、高齢者、とくに後期高齢者の「負担能力」について、被保険者が納得できる資料、現実的な議論の素材を出していただくことを強く要望します。

 国民生活基礎調査2019(厚労省)Microsoft Word – 00 19表紙1(公表資料).docx (mhlw.go.jp) 
  この調査によると、所得が「公的年金・恩給」のみの高齢者世帯は48.4%、「公的年金・恩給」が所得の8割以上を占める世帯を含 めると60.9%になります。貯蓄は、高齢者世帯平均1213万円と算出されていますが、貯蓄ゼロという高齢者世帯が14.3%、500万円未 満の世帯が25.2%で、「ゼロ」を含めれば、約4割の世帯が500万円未満です。介護のある暮らしは、介護保険サービス利用料だけが 介護費用ではありません、おむつ代一つとっても暮らしへの負担は大きくなっています。さらに加えて医療費や通院費用、先行きの 不安がつのる中での負担増の論議は、説得力のあるものを望みます。

「軽度者」とレッテルを貼れば、サービスを減らせるかのような“粗雑な審議”は避けるべき

 資料1の「(5)軽度者への生活援助サービスに関する在り方」ですが、ここで「軽度者」と言われているのは、要介護1、要介護2の人です。認知症介護では、まだ、身体的に元気な人たちへの支援に、家族だけでなく、介護現場のみなさんにもご苦労をしていただいています。

 「軽度者」とレッテルを貼れば、サービスを減らせるかのような、私たちからみれば粗雑な審議は、絶対に避けていただきたいと思います。

 また、「生活援助サービス」と書かれていますが、ホームヘルプ・サービスは、在宅サービスのなかでも歴史も長く、必要とされてきたものです。「身体介護」さえあればいいといわんばかりの主張は、家族など介護者に「生活援助」の負担を増やせと言っているようなものです。そうでなくて、介護保険制度がはじまって以来、「生活援助」は抑制が続きホームヘルパーの確保ができない事態に陥っています。

 介護保険料を払い、サービスが必要と認定されても、在宅で暮らすことができない人をこれ以上、増やさないでいただきたい!「ごみ屋敷」や「孤立死」を増やさないでいただきたい!!

 介護者からみれば、過重な介護負担で、高齢者虐待をはじめ介護心中、介護殺人などの悲劇を増やさないでいただきたい!ヤングケアラーなど子どもの負担を増やさないでいただきたい!!と切に要望いたします。

 生活援助」は抑制が続き

  2006年度から 生活援助の90分以上加算の廃止、保険者判断による「同居家族」がいる場合利用できない制限拡大

  2018年度から 厚生労働省が定めた「生活援助」の「通常かけ離れた利用回数」を超えるケアプランは事前に届け出ることが義務         化され、その内の、保険者が指定するケアプランを地域ケア会議にかけ、場合によっては是正を求められる。

  「通常かけ離れた利用回数」 要介護1=27回 2=34回 3=43回 4=38回 5=31回

  厚労省は「回数制限を主旨とするものではない」としていますが、現場のケアマネージャーには十分ブレーキの役目を果たしてい る報告もあります。

 ホームヘルパーの確保ができない事態

  厚労省によると、2019年度のホームヘルパーの有効求人倍率は約15倍としています。一人の応募者に15の事業所が勧誘するという 事態です。平均年齢が54.3歳、65歳以上の人が39.2%を占めます。

  介護労働者の組合である「日本介護クラフトユニオン」の2021年調査000926449.pdf (mhlw.go.jp)によると、ホームヘルパーの平均 時給は1258円です。同年の東京都の最低賃金は1041円ですから、専門性を要求される仕事の賃金レベルとは言えないと思います。時給制組合員の30%が「主たる生計維持者」と答え、その平均月収は約13万円です。

要介護認定の見直しは、きちんとした在宅高齢者の実態調査から

 要介護認定の第一の目的は、介護保険のサービスが必要かどうかの判断です。

介護を必要とする人、家族など介護する人にとっても、利用限度額や利用できるサービスが決められる重要なしくみです。

 また、要介護認定の一次判定は、『高齢者介護実態調査』にもとづく、「介護の手間」にかかる時間を計算して設定されています。『高齢者介護実態調査』は2007年に調査して以来、15年間、実施していないと思います。また、調査対象になっているのは、要介護3以上が8割で、施設サービス利用者がほとんどです。

 認知症の人や家族からは、認定が軽く出る、認知症の人にふさわしいスケールになっていないのではないか、という疑問が常に寄せられ続けています。 認定の見直しを検討するのであれば、在宅高齢者の実態調査をきちんと行っていただくことを、希望します。

 2007年に調査untitled (mhlw.go.jp)(2019年第3回要介護認定調査検討会資料)

  要介護認定基準のための調査ですが、対象は「介護老人福祉施設」(特養)「介護療養型医療施  設」「介護老人保健施設」の三施設、合計3519人で、施設での生活者が97%(2%が家族同居、グループホームと独居が合わせて1%)です。80歳以上が75%、要介護3以上が78.8%。

  一人につき48時間の「調査期間」の結果算出された「1日当たりケア時間」は、要介護1=約45分、2=60分強、3=80分強、4=約110分、5=120分(いずれも数値ではなく棒グラフ)とされており、「利用限度額」設定の根拠にしている数値です。

 介護保険サービスは、要介護者を対象とするので施設入居者を調べれば必要な介護時間が判る、という事なのでしょうが、在宅要介護者の実態を調査すれば、在宅での介護のある暮らしは、介護のための環境を整えた「施設」とは全くと言っていいほどの違いが判ります。施設調査でのみ算出した「1日当たりケア時間」を当てはめることは非現実的でありサービス利用者や家族等の安心につながらないと思います。

 審議では、多くの団体から「改正」予定項目を疑問視する意見等が出されました。

 サービス利用料負担の増額案に対しては、花俣副代表と同じように「高齢者の負担能力を示す資料を提示してほしい」という要望が出されました。

 要介護1・2の人を地域支援事業に移行する考えに対しては、「要支援1・2の利用状況の検証が不十分ではないか」「要介護1・2を移行する受け皿として実施事業所が不十分・不安定ではないか」「要介護1・2の人には認知症の人も多く、専門性のあるケアを必要としている」など反対含みの意見が出されました。

 詳しい内容は、後日公開される「議事録」をぜひお読みください。

 社会保障審議会(介護保険部会)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 

(脚注・まとめの文責  鎌田晴之)

 

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