どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#29【介護保険部会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~ 社会保障における「地域」とは ~

 

 

5月30日に、第94回厚生労働省社会保障審議会介護保険部会(「部会」)が開催されました。

第94回社会保障審議会介護保険部会|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

議題は、 1.地域包括ケアシステムの更なる深化・推進について

2.介護分野における文書負担等の軽減に係る議論の進め方について
 花俣ふみ代副代表の発言をもとに、審議の問題点を紹介していきます。

社会制度における「地域」とは何か

 「最初の資料の「全世代型社会保障構築会議」の中間整理000943851.pdf (mhlw.go.jp)ですけれども、3ページにある「4 家庭における介護の負担軽減」のところの1つ目の〇印、地域全体の活動、介護離職の防止、認知症としては、ヤングケアラーへの支援の必要性が書かれています。介護する家族にとってとても大事なテーマですが、地域全体の活動が何かぼんやりとしたイメージしかありません。 また、4ページの「6 医療・介護・福祉サービス」でも、「地域完結型」の医療・介護提供体制の構築とありますが、地域完結型というのは何なのでしょうか。社会保障制度における地域とは何か。今後、介護保険部会の議論でも大切なキーワードになると思いますので、これまでにもし規定されたものがあれば、お示しいただきますようお願いしたいと思います。

「地域完結型」の医療・介護提供体制
この「地域完結型」が登場する背景にあるのが「病院完結型」というシステムへの問題意識のようです。2013年頃に、厚生労働省は、「提言型政策仕分け」の中に「医療と介護の連携」というテーマを設定し、地域における取組として「これまでの『医療機関完結型医療』から『地域完結型医療・介護』の流れを作ることが必要である」と述べています。その中「地域において在宅医療と介護をシームレスに連携させる仕組みを面的に整備する」としていますが、今でもこの考え方であれば、介護保険制度を「必要な人が必要なサービスが使え
る制度」にする必要があります。

『骨太の方針や改革工程表に沿って着実に進めていく』のが厚生労働省の方針?

それから、6.の「医療・介護・福祉サービス」ですね。そこには、「これまでの骨太の方針や改革工程表に沿って着実に進めていくべきである」と書かれています。経済財政諮問会議にお任せになっている。経済財政諮問会議の「新経済・財政再生計画改革工程表 2021」では、給付と負担の見直しとして、まさに介護保険部会で継続審議となっている5項目、給付と負担と全く同じものが並んでいます。本日は、給付と負担はテーマではないとのことですが、家賃負担も含めた利用者負担の引き上げ、軽度者と呼ばれる要介護1と2のサービスの削減は、介護のある暮らしに大きな影響を与えるものであり、事務局の厚生労働省の皆様には納得できる議論の素材をきちんと用意してくださいますよう、重ねてお願いしたいと思います。

『給付と負担の見直し』

昨年12月の「改革工程表2021」(内閣府)に加え、今年4月には財務省の財政制度等審議会が出した「提言」の中で、「給付と負担」見直しの方向性を示しました。①利用者負担を原則2割とする、②要介護1と2の訪問介護と通所介護を介護保険から外す、③ケアプラン

の作成を有料化する、④「老健」などの多床室の室料を新設する、というものです。いずれも介護のある暮らしを続けていくことを困難にするものです。「家族の会」は同意できないことを表明していますが、さらに議論を続けるのであれば「納得できる議論の素材」は必要な条件です。

 十分な相談・支援を可能とする「地域包括支援センター」を

 それから、資料5地域包括ケアシステムの更なる深化・推進について(追加資料) (mhlw.go.jp)についてです。19ページ、桝田委員の御意見にもありました、認知症の方やその家族に対応している各機関等の役割と実績等がありますが、地域包括支援センターは5,351か所で、平均職員7.35人とあります。しかし、担当する第1号被保険者数は 3,000~5,999人となっています。センターごとの職員の配置人数や担当対象の高齢者数にも大きな開きがあり、業務負担の相当な差になると思います。地域包括支援センターは、高齢者総合相談窓口であり、高齢者の方や家族が最初にアクセスする大切な入り口です。 特に認知症の人やその家族にとっては、命綱とも言うべきものであり、この表に示されている業務マル1からマル4だけでも容易な業務ではありません。 また、さらに、認知症地域支援推進員の多くは包括に配置されており、職員が兼務している場合もあります。認知症カフェ、ピアサポートと、どの業務についてもそれ相当の時間と労力、加えて、専門性を要する業務と言えます。地域包括支援センターの担当者の負担について、具体的な資料をお示しいただき、職員の過重な業務負担等の課題をしっかりと分析し、十分な相談対応が可能となる体制についても、今後、ぜひ御検討いただきます ようお願いしたいと思っています。

「重層的支援体制整備事業」に使われる介護保険料はいくらか

 1点だけ質問ですけれども、資料6地域共生社会に向けた取組事例について (mhlw.go.jp)重層的支援体制整備事業を任意事業とされていますが、交付金の今年度の予算は約232億円となっています。包括的相談支援事業、地域づくり事業、多機関協働事業も含めて、第1号保険料も支出されています。第1号保険料の支出が幾らになるのかというのを教えていただければありがたいと思います。

この質問に対する回答は以下の通りです。

唐木地域共生社会推進室長

『地域共生社会推進室長でございます。 御質問いただいたものとしては、重層的支援体制整備事業交付金、令和4年度232億円の中で、1号保険料が当たっている額は幾らかということだったかと思います。こちらお示 ししております包括的相談支援事業分の147億円、地域づくり事業分の58億円は国費であり この外数として、地域づくり分の老健局で言うところの介護予防日常生活支援総合事業分の23%と、包括的支援事業分についてのこちら1号保険料分は、23%が1号保険料を所掌しているところになっておりますが、今、具体的な数字はちょっと持ち合わせていませんので、財政構成としてはそうなっているという御説明でございます。

『重層的支援体制整備事業』
 地域住民が抱える課題が複雑化・複合化する中で、「高齢」「障害」「子ども」「生活困窮」など従来の属性別支援体制では対応できない要支援者支援を可能にするため、属性を超えてそれぞれの制度の関連事業を一体的に執行していこうとする事業です。「高齢」以外は、すべて国費が充てられていますが、並列される事業にもかかわらず、「高齢」だけは、介護保険料
の一部が使われています。しかも「一般介護予防事業」(介護保険外)と「生活支援体制整備事業」のそれぞれから支出されます。納得しにくいお金の使い方への疑義を込めて、まず具体的な金額を確かめたわけです。

人員配置基準の「柔軟化」が人員を減らすことであれば、強く反対する

 あと一点だけです。資料8介護分野における文書負担等の軽減に係る議論の進め方について (mhlw.go.jp)です。4ページに、「特定施設(介護付き有料老人ホーム) 等における人員配置基準の特例的な柔軟化」とあります。規制改革推進会議では、介護職員の負担軽減、処遇改善を図るための介護付き有料老人ホーム等における人員配置基準の特例的な柔軟化が提案されています。デジタル活用による生産性の向上などに期待が集まっているようですが、人員配置基準の柔軟化とは、基準以下でも基準以上でもいいということなのでしょうか。また、施設の利用者の家族は、面会のたびに、忙しそうな介護職員の姿を見ています。職員数が足りないのではないかといつも心配しています。柔軟化が介護職員を減らすということであれば、特例的であろうとも、大変心配になります。5月24日には横浜市の特定施設で、認知症の利用者がおむつ交換を嫌がり、つねるなど抵抗するため、暴力を振るってしまった介護職員に懲役2年の判決が出ました。また、27 日には、都内の特定施設で、床ずれなどの予防措置義務違反で約2,100万円の賠償命令が出ています。高齢者虐待防止の調査を見ても、特別養護老人ホームが減少傾向にあるのと交代するように、特定施設の虐待事例が増えています。介護職員にゆとりがなければ虐待の防止にならないことは明らかです。例えば、御自身が心身ともに疲弊しているのに、他者に優しくすることができますでしょうか。想像力を働かせて実態を知るというのはそういう事ではないでしょうか。人員配置基準の柔軟化が人員を減らすことであれば、強く反対であることを申し添えておきます。 時間もないので、以上とさせていただきます。ありがとうございました。

『人員配置基準の柔軟化が人員を減らすことであれば、強く反対である』

現在の介護付き有料老人ホームの配置基準は、入居者3人に対して職員1人を基本としています。内閣府の「規制改革推進会議」(夏野剛議長)は、今年5月27日に『規制改革推進に関する答申』 を公表しました。資料220527general_02.pdf (cao.go.jp)に整理された「主な実施事項」の中に「介護施設の入居者に対するケアの質の確保を前提に、介護職員の負担 軽減・処遇改善を図るための、介護付き有料老人ホーム等における人員配置基準の特例的な柔軟化。【遅くとも令和5年度結論・措置】」とあります。「ケアの質の確保を前提に」としていますが、どのようにこの前提条件を確かめるのでしょうか。同会議は昨年末、介護ロボットなど導入している大手の有料老人ホーム運営会社から、人員削減可能性の提案を受けています。厚生労働省が進める介護施設大規模化の動きと合わせて、「ケアの質の確保」が危惧されます。

(脚注・まとめの文責  鎌田晴之)

 

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