どうするつもりか介護保険制度=「改正」の動きレポート#45の2 【介護保険部会】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~「総合事業」の今後の方向性に疑問と不安~

 前号に続き、12月7日に開催された第109回社会保障審議会介護保険部会(「部会」)の後半を報告します。「前半」は介護保険サービス利用料の2割負担の「判断基準について」審議されましたが、結論の方向性も出せないまま、事務局による来年度予算編成過程での検討に委ねることになりました。「後半」は、報告事項として用意された1「『介護・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会』の中間整理及び総合事業の充実に向けた工程表について」及び2「改正介護保険法の施行等について」の報告と意見交換が行われました。
 報告事項の1は、昨年末「部会」がまとめた「介護保険制度見直しに関する意見」で、次々期(2027年からの第10期)の「計画期間開始までに結論を得る」とされた【軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方】具体的には「要介護1、2の人の生活支援サービス等の総合事業への移行」を見据えて、「部会」に設置された「介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会」(「検討会」)による「中間整理」です。
今回も、花俣ふみ代副代表理事の発言要旨を紹介しながら、配布資料及びYouTube配信に視聴参加した際のメモなどをもとに、「報告事項1」に関して「介護保険改正」の動きをお伝えします。(囲み内が発言要旨、下線は脚注用)

(囲み内が発言要旨、下線は脚注用)

写真 朝日新聞デジタルより

【開催案内】
第109回社会保障審議会介護保険部会の開催について|厚生労働省
第109回介護保険部会議事次第
介護保険部会委員名簿(R5.12.7)

【資料】 
資料1 給付と負担について
参考資料1-1 給付と負担について(参考資料)
参考資料1-2 全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)について(素案)(令和5年第16回経済財政諮問会議資料)
参考資料2-1 「介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会」の中間整理及び総合事業の充実に向けた工程表について(報告)
参考資料2-2 介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会中間整理
参考資料3-1 改正介護保険法の施行等について(報告)
参考資料3-2 介護予防・日常生活支援総合事業の上限制度の運用の見直しについて(報告)

石田委員 提出資料

 

【第109回介護保険部会 2023年12月7日】
・資料2-1に従って、事務局からの報告のあと、菊池馨実座長の指名により、「検討会」の座長でもある、粟田圭一委員(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所副所長)より次のような補足説明が行われました。
・総合事業を、地域共生社会を実現するための基盤と位置づける。
・自立とは、公的社会的支援を利用しながらも、行為主体として独立していること、あるいは地域社会の中で主体的に自由に暮らし方を選べることというふうに捉えている。
・運営する市町村の立場からではなく、地域に暮らす高齢者の立場から、地域での様々な取り組みを連動させて充実させていく。
・この中間整理は大きな発想の転換による、総合事業のフルモデルチェンジを促すものと考える。
・高齢者が元気なうちから地域社会や医療介護専門職と繋がり、社会活動を続ける事で、介護が必要となっても支援を受けながら、自分らしく暮らし続けられる地域共生社会の実現に繋がるのではないか。

【花俣ふみ代副代表の発言要旨】
粟田先生ご説明ありがとうございました。趣旨については頷けるところ理解できるところではありますけれども、フルモデルチェンジをされたこの中身は、別のツールも厚労省から下ろされているのではないかなというふうに思いました。資料2-1の3ページのまとめはまさに基本法の理念はこうしたものでありますが、 総合事業 にはまだまだ課題も多くあるというふうに思っています。資料2-1の4ページの「総合事業の充実のための対応の方向性」の➀要介護や認知症になっても総合事業を選択できる枠組みの充実とあります。資料2-1の5ページの「総合事業の充実のための具体的な方策」には、継続利用要介護者が利用可能なサービスの拡充とあります。介護保険制度は認定を受けた人に給付するのが原則ですが、この文章を拝見すると、介護になっても、給付の対象とはならず、継続利用要介護者として総合事業サービスに留め置かれるのではないか、総合事業と給付が曖昧になるのではないかという不安があります。認定を受ける人の中には要支援からスタートするケースがかなりあります。であれば、要介護認定になって、きちんと給付と総合事業サービスの説明をされたとしても、利用する方々にとって十分な理解が可能なのかどうかも心配なところです。現に要介護認定の皆さんへの総合事業サービスと給付の違いを理解されている方はほとんど見受けられません。これでは最初から総合事業サービスという市区町村事業を提供され、事業に留め置かれてしまうのではないかと危惧を抱きます。ホームヘルプサービスの重要性を繰り返し申し上げていますが、要介護認定の皆さんや要介護認定を受けた方の在宅生活がどうなってしまうのか、大変心配されます。
今日の新聞では、介護職初の離職超過との見出しがありました。担い手不足が危機的等の報道もあり、訪問介護の危機的な人材不足についても若い世代、ホームヘルパーを増やす施策を検討していただき、要介護になった場合には安心して訪問介護が利用でき、施設や病院に入らなくて済む支援を充実していただくことを切に望みたいというふうに思っております。以上です。

総合事業
 総称は「介護予防・日常生活支援総合事業」といい、自治体が事業主体となり、自治体の「基本チェックリスト」で対象になった人や介護保険制度の要介護認定で要支援とされた人に、訪問・通所等のサービスを提供しています。予算は介護保険財政からあてられ、事業はその予算の範囲内でのみ行われ(裁量的予算)、サービス内容なども自治体の裁量で決められています。例えば、報酬額や、介護職の資格要件など自治体の裁量ですから、介護保険サービスのように、全国一律の基準によるものでありません。「安上がりで、量も質も保障できない」という印象を持たざるを得ません。

要介護や認知症になっても総合事業を選択できる枠組み
2020年に厚生労働省は介護保険法の施行規則を「省令改正」(国会の議決を要しない所管大臣による決定)で、これまで要支援認定者のみであった「総合事業」の利用者に要介護認定者も追加しました。『要介護や認知症となると(総合事業が使えなくなり)地域とのつながりから離れてしまう』(資料2-1の4頁)「つながりを継続するため」に、「本人の希望を踏まえて利用できるようにする」という事です。問題になっている“要介護1と2の人の生活支援などの総合事業への移行”とは、少し意味が違います。この「改正」は、要介護認定者の全て、つまり1から5までの人を想定している、という事です。次々期までにとりあえず要介護1と2の人を移行しようという事でしょうか。

介護保険制度は認定を受けた人に給付するのが原則
 保険者である自治体には、要介護認定された被保険者にサービス利用の費用を給付しなければならない「給付義務」があり、当該被保険者にはそれを受け取る「受給権利」を持つという権利・義務関係を原則としています。資料2-1の4頁にある『要介護や認知症となっても総合事業を選択できる枠組みの充実』という『方向性』には、「総合事業」利用者にはこの「受給権」がありませんから、ないがしろにされるのではないか、という危惧を感じます。

総合事業サービスと給付の違い
 「総合事業サービス」とは、自治体が直接運用する予算で行われるデイサービス等のサービスを利用する“機会”を意味し「受給権」ではありませんから自治体にも「義務」は無い事になります。「(介護保険)給付」は、要介護認定された被保険者個人に、介護度に応じた「限度額」の範囲内ですが、サービス利用ごとに利用者負担を除いて支給する自治体の義務です。

*以上の脚注4項目は、「ハスカップ・レポート2000-2021 介護保険の20年」(市民福祉情報オフィス・ハスカップ発行)を参考にしました。

介護職初の離職超過
 『厚労省の雇用動向調査によると、入職率から離職率を引いた「入職超過率」は22年に介護分野でマイナス1・6%に。マイナスは「離職超過」を意味する。慢性的な人手不足が続いてきた分野だが、離職超過となったのは今の方法で調査を始めた09年以来、初めて』
護現場、働き始める人を離職が初めて上回る 担い手不足が危機的:朝日新聞デジタル (asahi.com)

【このテーマに関する委員の発言要旨を視聴メモから発言順に紹介します】

【橋本康子委員 日本慢性期医療協会会長】
 総合事業というもの自体があまりピンとこないというか…いわゆる介護予防とか生活支援のサービスなので、今後どんどん必要になってくるだろうなとは思うが…医療関係者でも実際どうやって使ったらいいのか、どんな種類があるのか、介護保険を取ったらもう使えないのか、そのあたりのことも全然あんまりわかってない。

【花俣ふみ代委員 認知症の人と家族の会常任理事】(上記)

【笹尾 勝委員  全国老人クラブ連合会常務理事】
総合事業の需要と供給のアンバランス、市町村間の事業の格差がある。人口減少や社会資源がないと
いう地域もあるわけで、単独の市町村だけでやれる事業であるのか、限界がある地域もある。財源のありようも含めて今後の検討課題としてぜひ中最終報告に盛り込んで欲しい。

【小林広美委員 日本介護支援専門員協会副会長 】
地域共生社会を具体化する上で、地域作りの基盤構築ということについては賛同する。担い手として
期待される若年高齢層の就業率が高まっている、一方で支援対象となる85歳以上の高齢者も、急増し
ていくということにギャップもあり、様々な活動の継続性も含めて、このギャップを乗り越えていくよ
うな方策の発案も必要と考える。

【幸本智彦委員 日本商工会議所社会保障専門委員会委員】
 地域共生社会の実現のために経済産業省と連携し、健康寿命の延伸に効果が出ている健康経営と総合
事業を何らかの形で連携させてはどうか

【座小田孝安委員 民間介護事業推進委員会代表委員】
自治体によっては総合事業は形骸化している状況もあると聞いている。従前相当サービスの多さを打
破していくために、地域住民のNPO活動など、多様な主体の参画を積極的に進めていくよう、自治体への働きかけも含めて環境整備を。

【井上隆委員 日本経済団体連合会専務理事】
 このテーマについては発言無し

【田母神裕美委員 日本看護協会常任理事 】
 このテーマについては発言無し

【小泉立志委員  公益社団法人全国老人福祉施設協議会副会長】
 総合事業を3年かけて見直すということだが、市町村の独自性の発揮しやすい枠組みが必要。基本は機能重視で利用者本位の事業とすべき、共生社会を念頭に、自由度の高い制度設計を行うべきであると。

【及川ゆりこ委員 日本介護福祉士会会長】
今後も高齢者のみ世帯、特に独居高齢者が増加することが想定される中、現在の総合事業の仕組では介護福祉の専門職が関わりづらい側面がある。総合事業に介護福祉の専門職が関与しやすい仕組みの整備を。

【平川参考人 全国老人保健施設協会会長】
後期高齢者健診いわゆるWeb検診の結果をより有効に活用する必要がある。区市町村の縦割りの行政が障害となって検診機関が生かされてない。ぜひ活用していただきたいと思います。総合事業への参加意識を高める方策として、かかりつけ医の活用がある。総合事業に専門職がもっと関わることが必要。

【江澤和彦委員 日本医師会常任理事】
このテーマについては発言無し

【石田路子氏委員 高齢社会をよくする女性の会】
 大きな発想の転換によるフルモデルチェンジを促すのはこれまで以上に重要。総合事業がうまく進んでいかない、これは自治体の側から使い勝手が悪い、事業者の方はもう事業は続けていけない、利用者の方は様々な心配、ボランティアで十分なのか心配。総合事業のある意味での大きな可能性も感じており、ここからがスタートラインである。

 「総合事業」の在り方検討は、「第10期計画期間までに結論を得る」とされている、「軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方」(=要介護1と2の人の生活援助等の総合事業への移行)と関わる問題であることをご理解いただけたでしょうか。残念ながら、花俣ふみ代副代表理事以外の委員からこの問題への指摘はありませんでした。要介護1と2の人は「軽度者」ではありません。むしろ認知症の事をよく理解した専門性のある介護を必要としていますので、総合事業にある問題として、「受給権」の問題と同時に、サービスの質が危惧されます。「家族の会」は、「総合事業」のサービスを含むすべての「介護サービス」を介護保険給付に一本化することを主張しています。 サービスの質を担保するために。

 最後に、このレポートが、審議の全てをお伝えするものになりえないことをご理解いただき、今回のテーマを含め、取り上げていない問題にも、意見・質問がございましたらお寄せください。            

(まとめと文責 介護保険・社会保障専門委員会 鎌田晴之)

あなたも「家族の会」の仲間になりませんか?無料で資料をお送りします。