どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#40【介護給付費分科会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~施設サービス等の報酬改定議論と事業所などの経営状況報告~

 

 厚生労働省社会保障審議会第231回介護給付費分科会(「分科会」)は、11月16日午前9時半から12時まで、WEB会議形式で開催されました。議題は、『1 令和6年度介護報酬改定に向けて、2 令和5年度介護事業経営実態調査の結果について』です。

 議題1の細目は、1介護老人福祉施設、2介護老人保健施設、3介護医療院、4特定施設入居者生活介護、5高齢者施設等と医療機関の連携強化、6福祉用具・住宅改修の6分野です。議題2は、「分科会」に付属する「介護事業経営調査委員会」社会保障審議会がまとめた『各サービス施設・事業所の経営状況を把握し、次期介護保険制度の改正及び介護報酬の改定に必要な基礎資料』である調査結果が提示されました。

 審議冒頭に事務局から示された各分野の「改定の方向性」と「対応案」をもとに行われた介護報酬改定の具体的な審議の動きを、委員である鎌田松代代表理事の意見及び質問を中心にお伝えします。

議事次第 001168116.pdf (mhlw.go.jp)

委員名簿 001168117.pdf (mhlw.go.jp)

資料は以下の通りです。

議題1

 資料1介護老人福祉施設・ 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護 (改定の方向性) 001168118.pdf (mhlw.go.jp)

 資料2介護老人保健施設(改定の方向性) 001168119.pdf (mhlw.go.jp)

 資料3介護医療院(改定の方向性) 001168120.pdf (mhlw.go.jp)

 資料4特定施設入居者生活介護・ 地域密着型特定施設入居者生活介護(改定の方向性) 001168446.pdf (mhlw.go.jp)

 資料5高齢者施設等と医療機関の連携強化(改定の方向性) 001168123.pdf (mhlw.go.jp)

 資料6福祉用具・住宅改修(改定の方向性) 001168124.pdf (mhlw.go.jp)

議題2

 資料7令和5年度介護事業経営実態調査結果の概要(案) 001168125.pdf (mhlw.go.jp)

 資料8令和5年度介護事業経営実態調査結果(案) 001168126.pdf (mhlw.go.jp)

【鎌田代表理事による意見及び質問】(囲み内、下線は脚注用)

1 介護老人福祉施設・ 地域密着介型護老人福祉施設入所者生活介護(改定の方向性)

  いわゆる「特別養護老人ホーム」についてです。

論点①【緊急時の医療提供体制の整備等=配置医師緊急時対応加算の見直し】について

事務局から示された「対応案」 (資料1の10頁)

『協力病院との連携強化により24時間の往診等の体制が検討されている一方で、これまで配置医師が担ってきた日中の急変対応を評価する観点から、現行、早朝・夜間及び深夜にのみ加算することとされている配置医師緊急時対応加算について、配置医師が、日中であっても、通常の勤務時間外に急変等に対応するために駆けつけ対応を行った場合について、報酬上一定の評価を行うこととしてはどうか』

配置医師は利用者の病状を良く知ってくださっていますので、その医師が動きやすい状況をつくっていただけるのはありがたく利用者・家族は安心ですので、賛成です。

配置医師

 『特別養護老人ホームには、人員基準として入居者の健康管理及び療養上の指導を行うために必要な医師と、設備として、医務室(医療法に規定する診療所の扱い)の設置が必要です。「配置医師」は、定期的な入居者の診察(回診)を行うことを主たる業務としています。これは介護保険で、「基本サービス費」として評価されていますので、配置医師がクリニックの診療報酬として算定することはできません。配置医師となった先生は、特別養護老人ホームと契約し、契約(委託)料を頂くことになります。』(佐々木総研HP)

医療体制加算2、3の要件

_「医療連携体制加算Ⅱ,Ⅲ」については「資料1」9~10頁参照

論点⑤【ユニットケアの質の向上・普及促進】について

事務局から示された「対応案」の三番目 (資料1の34頁)

『引き続き入居者との「馴染みの関係」を維持しつつ、柔軟なサービス提供によりより良いケアを提供する観点から、必要に応じて、職員の主たる所属ユニットを明らかにした上で、ユニット間の勤務が可能であることを明確化してはどうか。』

先ほどの現場の実態のご説明がありましたが、それをお聴きしていますと、現場の人材不足の観点が抜けているように思います。人がいないので2ユニットを1名で見なくてはいけない状況があるのではないでしょうか。人員配置の緩和につながる今回の対応案には反対です。昼間は活動的な生活をしたい・してほしいが利用者・家族にはあります。8名の利用者を一人の職員でも大変な状況と、家族がユニットに入所している介護家族の私は思っています。

2ユニットを1名で

 『夜間及び深夜については、二ユニットごとに一人以上の介護職員又は看護職員を夜間及び深夜の勤務に従事する職員として配置すること』(運営基準 資料1の36頁)

2 介護老人保健施設=いわゆる「老健」(改定の方向性)
 論点③【リハビリテーション機能強化(認知症リハビリテーション実施加算)】について
 事務局から示された「対応案」(資料2の18頁)
『認知症短期集中リハビリテーション実施加算について、認知症を有する利用者の居宅における生活環境に対応したサービス提供   が行えるよう、当該利用者の居宅を訪問し生活環境を把握することを要件として はどうか』

短期集中リハビリテーション実施加算
 『生活機能の改善が見込まれる認知症入所者へのリハビリテーションの実施に対する加算。入所の日から起算して3月以内の期間に限り, 1週に3日を限度とする』(資料2の16頁)

賛成ですし、ぜひ速度を速めて行っていただきたいです。その際には現状の中にある学習療法や記憶訓練に比重が置かれている内容を、廃用予防や活動・参加につながるような訓練をしていくとの現状の反省を踏まえたリハビリが行われることを更に進めてください。老健のリハビリ職員が在宅での認知症の人の生活実態と改善についての知識が、不足しているように感じています。認知症の人の在宅での生活・機能評価と改善に向けた内容での研修会をお願いします。在宅の生活を知らない施設リハビリ職員がまだ多いし、また福祉用具のアドバイスにおいても古い機種が紹介され、家に帰りもっと良い商品があったことが判ったということも聞きます。

学習療法

 『音読と計算を中心とする教材を用いた学習を、利用者とスタッフがコミュニケーションを取りながら行うことで、利用者の認知機能やコミュニケーション機能、身辺自立機能などの前頭前野機能の維持・改善を図るもの』(白十字会HP)だそうです。

認知症の人の在宅での生活・機能評価と改善に向けた内容

 10月2日の第226回「分科会」で行われた「関係団体」ヒヤリングにおいて、リハビリ三団体(理学療法・作業療法・言語聴覚療法)が提出した「資料」001151951.pdf (mhlw.go.jp) にある作業療法士協会の同資料9頁から15頁に『認知機能低下による生活行為の障害に焦点化したリハビリテーション』の取り組みが説明されています。

在宅の生活を知らない施設リハビリ職員がまだ多い

 『令和5年度の改定検証調査では、介護老人保健施設における認知症短期集中リハビリテーションを実施するために自宅の状況を確認している施設の割合は70.2%であった。』 (資料2の18頁)

3高齢者施設等と医療機関の連携強化(改定の方向性)

 論点①協力医療機関との連携体制構築 論点②入院時の医療機関への情報提供

 事務局から示された「対応案」(資料5の9頁)

介護保険施設(特養・老健・介護医療院)において、施設内で対応可能な医療の範囲を超えた場合に、 協力医療機関との連携のもとで適切な対応が行われるよう、在宅医療を担う医療機関や在宅医療を支援する地域の医療機関等と実効性のある連携体制を構築することを念頭に、1年間の経過措置を設けた上で、 以下の要件を満たす協力医療機関を定めることを義務化してはどうか。 ①入所者の急変時等に、医師又は看護職員が夜間休日を含め相談対応する体制が確保されていること。 ②診療の求めを受け、夜間休日を含め診療が可能な体制を確保していること。 ③当該施設での療養を行う患者が緊急時に原則入院できる体制を確保していること。 ※複数の協力医療機関を定めることにより①~③を満たすことも可能としてはどうか』 その他4項目。

 協力医療機関との連携がより良好になることで、安心して適切な医療が受けられるのは利用者・家族にとっても進めていただきたい内容です。その際の受診・入院・退院での利用者の情報提供が不十分な状況があるからですが、その情報は口頭なのでしょうか。家族が面会に行った際に違う情報が提供されていることがありましたので。口頭もあるようでしたら、文書での連携があるほうが、伝達での情報のゆがみのような間違いがないと思います。

4 福祉用具・住宅改修(改定の方向性)

 論点② 一部貸与種目・種類における貸与と販売の選択制の導入

 事務局から示された「対応案」(資料6の12頁)

 「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」において取りまとめられた次の事項に係る対応の方向性を踏まえ、一部貸与種目・種類における貸与と販売の選択制を導入することとしてはどうか。 ・ 選択制の対象とする種目・種類 ・ 選択制の対象者の判断と判断体制・プロセス ・貸与又は販売後のモニタリングやメンテナンス等のあり方

「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」 

 介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会 厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 「利用者等が適切な判断を行うために必要な事前のプロセス」とあるが、「医師やリハビリテーション専門職等の医療職を含めた多職種の意見を反映させる」やサービス担当者会議で検討となっていますが、利用者の意思決定支援が十分にされてからの利用者の判断になります。専門職が占める中で認知症の人が判断するのは難しい場面があります。十分な配慮と、わかりやすい説明となることが何らかの形でわかるようにしていただきたいです。
 購入の根拠となっているデータで長期間の利用が多いとのことですが、適切なアセスメントがされているのかの疑問があります。利用者には現在利用している福祉用具が適切であるのか、もっと良い自分の機能を活かす用具があるのかはケアマネジャーや福祉用具の専門職のアドバイスがあってです。

購入の根拠となっているデータ(資料6の14頁)
 『① 比較的廉価で、②希望小売価格を1ヶ月の貸与価格で除して 算出した月数(分岐
月数)より長く利用している者の割合が相対的に高く(およそ4割程度以上)、③分岐月数よりも平均貸与月数が長い若しくは同等のものを対象とする』➡要するに、買った方が得な人が“多い”と思われる品目「固定用スロープ」「歩行器」「単点 杖」「多点杖」の4つを「購入」か「レンタル」かの「選択制」にする、という「対応案」です。

 今回の流れが福祉用具の貸与原則から、利用者が購入の流れにもっていくような方向性になっているように思えてなりません。
 福祉用具のみの利用の場合にはケアプランのところでも議論があり、全体に福祉用具の利用範囲を狭め給付の削減の流れにもっていくように思っていることが杞憂に終わることを願います。
 利用者の状態に応じて適切な福祉用具の利用ができることで、自立支援が促進されます。自分で出来ることが維持や増えることは認知機能の維持や自己肯定感にもつながります。

ケアプランのところでも議論があり(下記の記事参照)

・福祉用具貸与のみのケアプラン、介護報酬のカットを 財務省 2024年度からの実施を主張 – ケアマネタイムス (care-mane.com)

・ケアマネの役割はどうなる? 福祉用具貸与・販売をめぐる改革見通し – ケアマネタイムス (care-mane.com)

【質問その1】

介護職員の賃金、来年2月から月6000円引き上げ 離職の歯止め措置で補正予算案に盛り込む」(2023.11.07読売新聞)との報道があった。
老健局の「2023(令和5)年度補正予算案の主要施策集」では、介護職員処遇改善支援事業等364億円とあり、「介護職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提として、介護職員等ベースアップ等支援加算に上乗せする形で、収入を2%程度(月額平均6,000円相当)引き上げるための措置を行う」とある。
2024年2月~5月の賃金引上げ分は、補正予算すなわち税金で対応するが、2024年6月以降は介護報酬で対応するという理解でいいのでしょうか

事務局回答要旨

『今後の検討課題になる』

【質問その2】

 ホームヘルパーの有効求人倍率は15倍を超えるという人手不足が報告されているが、経営実態調査では訪問介護事業所の収支差率は+7.8%と報告されています。
 さきほど説明が短くありましたが、ホームヘルパーが確保できないにもかかわらず、事業所の収益が黒字になるのをどのような分析をされていますか。

経営実態調査

『令和5年度介護事業経営実態調査結果(案)』001168126.pdf (mhlw.go.jp)の4頁

事務局回答要旨

『小規模事業所の収支差は上昇し、+6万円増、収入の変化はなく、人件費が減少し、職員一人当たりの給与は増加。職員が減少し厳しい状況ではある』

 11月20日、財務省の財政制度等審議会が「令和6年度予算の編成に関する建議」01.pdf (mof.go.jp)を発表しました。介護分野では利用者負担について、『現在、2割負担の対象は所得上位 20%となっているが、令和4年(2022 年)10 月に後期高齢者医療制度において所得上位 30%の方について2割負担が導入されたことを踏まえ、介護保険における2割負担の範囲拡大についても、ただちに結論を出す必要がある』と述べ、『さらに、利用者負担を原則2割とすることや、現役世代並み所得(3割)等の判断基準を見直すことについても…検討していくべきである』としています。その他介護保険第9期改正の懸案事項(介護保険制度の見直しに関する意見(概要)① (mhlw.go.jp)の②)にも、これまでと変わらぬ主張をしています。この「建議」を受けて、12月7日に開催予定の「介護保険部会」に、厚生労働省がどのような「対応案」を示してくるか注視していきたいと思います。

今回のテーマを含め、取り上げていない問題にも、ご意見・ご質問がありましたらお寄せください。

            (まとめと文責 介護保険・社会保障専門委員会 鎌田晴之)

 

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