どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#27【介護保険部会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~第9期改正の具体的な審議が始まりました~

 

 5月16日に、第93回厚生労働省社会保障審議会介護保険部会(「部会」)が開催されました。前回は、「介護保険制度をめぐる最近の動向」という資料をもとに、「幅広い視点からの意見」(部会長)を出し合いましたが、今回以降は論点を整理しながら審議していくことになります。事務局から示されている「論点」は、①地域包括ケアシステムのさらなる深化・推進 ②介護人材の確保 ③介護現場の生産性の向上の推進 ④給付と負担の4点です。
今回と次回は①について意見交換をすることになりました。

介護保険部会について

 「社会保障審議会」の前身である「社会保障制度審議会」は、その根拠法上『内閣総理大臣及び関係各大臣は、社会保障に関する企画、立法又は運営の大綱に関して、あらかじめ、審議会の意見を求めなければならない』とされていましたが、2001年の「中央省庁再編」に伴い解体され、現在の審議会は、単なる諮問機関という位置づけになっています。とはいえ、政府が介護保険を運営していく上での様々な制度改定を、いわばスムーズに進めていくための“お墨付き”としての「答申」は、軽視できないものですから、そこに私たちの主張をどれだけ反映できるかが、大変ですが大事な所です。「部会」は現在、様々な団体の代表者や研究者などの25名で構成されています。000938168.pdf (mhlw.go.jp) (社会保障審議会介護保険部会委員名簿) 審議時間は2時間で、通常は冒頭で事務局説明が数十分あり、審議中委員からの質問に事務局が応答する時間を加味すると、委員の発言時間は一人3~4分になります。さらに、発言のタイミングも深慮する必要があり、花俣副代表の苦労がしのばれる所です。
 今回のレポートは、6月23日に公表された議事録をもとに、花俣副代表の発言を中心にお伝えします。000955333.pdf (mhlw.go.jp)(第93回介護保険部会議事録)

在宅介護が成り立つのは介護家族による無償のケアがあるから

「本当にたくさんの御意見が既に出されたところですけれども、中でも小林委員や染川委員のほうからも既に同様の論点について御意見があったと存じますが、一応私どもの立場から再度御意見を申し述べたいと思います。
 資料2の20ページでは、居宅介護サービスの利用者が7割なのに、給付費は5割とあります。施設サービスでは、利用者が2割弱で給付費は3割を超えている。施設サービスと地域密着型サービスは、利用比率より給付費の割合が高くなっている。居宅サービスとの差、正しくは利用者が占める割合に比べて給付費の割合の差ということになりますけれども、これは施設や居住系では24時間ケアが提供されているためと思われます。
 そうすると、居宅サービスの給付費が低いのは、要するに介護する家族が無償で担当している、あるいは放置されている可能性さえもあるということになります。
 昨年来、小学生から大学生までのヤングケアラーが、介護保険だけでなく保育や障害福祉サービスなど が届いていない家族のために無償のケアを担当していることがクローズアップされています。
 介護保険制度の見直しでは、地域包括ケアシステム推進の名の下に、居宅サービスの中でも特に需要の高いホームヘルプサービスやデイサービスを要支援認定者は給付から外す、あるいは生活援助についてはケアマネジメントを通じて削減するといった見直しが行われてきました。
 これは必要な給付を減らしてしまった結果、中高年の独居やひきこもりの人、そしてヤングケアラーの問題を顕在させたのではないでしょうか。」

介護にかかる費用は介護保険サービスの利用料だけではありません。
少し前の調査研究ですが、認知症の人の介護にかかるインフォーマルケアの試算があります。1週間の介護時間や内容を介護サービスの単価を基に算出。さらに介護のために働けない経済的損失を、性別、年代別の平均賃金を参考に試算した結果、要介護者1人あたりのインフォーマルケア時間は24.97時間/週で、インフォーマルケアコストは総計で約6兆1,584億円と推計されました。(2015年慶応義塾大学佐渡充洋助教など)

 「相談支援体制整備」だけでは家族の負担は軽くならない

 「相談支援体制が 整備されたとしても、給付の充実がセットでなければ、家族の負担は半永久的に軽くならないのが現実とも言えます。 全世代型社会保障構築会議が、家庭における介護の負担軽減を取り上げてくださっているのは大変ありがたいことですが、一方で、医療・介護・福祉サービスについて、これまでの骨太の方針や改革工程表に沿った取組をするとしています。
 改革工程表をチェックしている経済財政諮問会議では、財政制度審議会財政制度分科会の資料が取り上げられ、そこには軽度者へのサービスの地域支援事業への移行等があります。軽度者とは要介護1、 2の人を指し、サービスとは訪問介護、ホームヘルプサービスとデイサービスです。
 本日の資料でも、22ページ、ホームヘルプサービス、25ページ、デイサービスの利用の約7割が要介護1、2の人たちと記載されています。 自宅で居宅サービスを利用しながら暮らすことができるのは、財務省がおっしゃるとおり軽度者の人たちなのです。
 本当であれば、利用者の多くはというよりも、要介護状態になろうとなるまいと、人は誰でも最期まで自宅で暮らしたいと思うのが当然でしょう。しかし、家族に過大な負担がかかるからという理由で、24時間介護職員がケアしてくれる居住系サービスや施設サービスに移るのです。
 ここにおられる委員の皆様も、御自分でちょっと考えていただけるといいかなと思います。 特に軽度者とここで言われる要介護1、2の認知症の人の場合、常に目を離すことができないという過重な負担が生じます。2019年の当会が行った実態調査において、1日の介護時間が昼夜を問わず24時間と答えた方は24%と最も多くなっています。
 需要の高い居宅サービスの給付削減は、介護離職ゼロどころか、介護離職やむなしを加速させ、さらにはヤングケアラーをも増やしていくことになりかねません。現行の居宅サービスを利用しても、なお夜間の対応はほとんどの場合介護家族が負担せざるを得なかったり、その結果として睡眠不足や鬱、持病の悪化等々を抱えることになってしまいます。」

 2019年の調査では、「介護家族が有する自覚症状」として複数回答ですが、「睡眠不足35%」「肩こり33%」「腰や背中の痛み32%」があり、「介護家族の治療中の疾患数」という問いには「1疾患42%」「2疾患19%」「3疾患11%」という回答がありました。
「認知症施策推進大綱」にもとづく「家族支援」事業は「認知症カフェなど」としか設定されていません。介護家族の身も心も休まり、自分の時間を自由に過ごせる事業が必要です。

「地域包括ケアシステムの深化」には在宅支援サービスの充実を

 「さらに、本日は給付と負担が論点ではないということは承知しておりますが、施設や居 住系は食費や家賃などの負担があるため、一定以上の所得がある人でなければなかなか利用ができないと。居宅サービス、特に日々の暮らしを支えるホームヘルプサービスとデイサービスは、制度として給付をしっかり確保していただきたいと思っています。
  また、今後、高齢者や認知症に罹患する方が増え続けるであろう中で、地域における介護サービスの在り方や、認知症施策の体制整備にしっかりと取り組んでいただきたい。あわせて、例えば地域包括ケアシステムの深化等における看多機とか小多機については、さらなる体制整備の拡充のため、先ほど田母神参考人が御意見をおっしゃっていましたけれども、サービス事業所が何で伸び悩んでいるのか、現状を把握して、きちんと分析して、 課題の解決に向けてしっかりとした検討を重ねていただきたいと思います。
 こうした在宅支援サービスが、利用者家族にとって使いにくいサービス、あるいは事業者にとって提供しにくいサービスとならぬようにするためにも、資料の24ページに示されている訪問看護員の人手不足の現状のところ、特にホームヘルパーを筆頭に介護の人材不足という喫緊の課題については有効かつ具体的な知恵を絞って、きちんと確保されることを切に願っています。大西委員から御意見がありました。ここにおられる委員の皆様にもぜひ御支援いただきたいと思っています。」

スライド 1 (mhlw.go.jp)(配布資料「地域包括ケアシステムのさらなる深化・推進について」)

  24ページを見ると、在宅介護の絶対必要条件である訪問介護員(ホームヘルパー)の有効求人倍率は、実に14.92倍です。一人の応募者を15の事業所が引っ張り合う状況です。しかも2019年の調査(公財介護労働安定センター)では、平均年齢が54.3歳、65歳以上の人が39.2%を占めます。訪問介護においても多様な年齢層はむしろ必要と思いますが、この先を考えると「危機的」な状況ではないでしょうか。

「家族支援」事業などの内容や成果と課題を知りたい

 「あと、お願いが1点あります。資料の167ページ(上記「配布資料」)には地域支援事業による家族支援の市町村実施数が示されていますが、実施事業である介護者教室の開催とか認知症高齢者の見守り事業、あるいは家族支援継続支援事業、その典型的な内容がどのようなものかを含めて、対象者のアンケートなどによる成果と課題についても今後ぜひお示しいただきたいと思っています。 すみません、長くなります。」

「生活支援コーディネーター」の配置についてのデータを

 「あと質問を2点だけ、今日でなくて結構です。 資料の195ページですけれども、生活支援体制整備事業の実施状況、生活支援コーディネーターが示されていますが、生活支援コーディネーターを配置していないのと、1人以上 配置しているという設問になっています。
 1人以上の配置が複数配置なのかどうかということは非常に大きな差になりますので、2人以上の複数配置についてデータがあれば、またお教えいただきたいと思います。」

市区町村へのインセンティブ交付金の評価項目について

 「それともう一つ、227ページと228ページにあります令和4年度の保険者機能強化推進交付金・介護保険保険者努力支援交付金の評価指標概要、これは228ページに指標項目の2の (7)に要介護状態の維持改善状況等や、3の(2)に介護人材の確保がありますけれども、これらは保険者の機能強化あるいは努力で本当に特典としてカウントできるものなの でしょうか。
 項目に設定している理由を、次の回で結構ですのでお教えいただければと思います。 長くなりました。以上になります。ありがとうございました。」

~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~ ~~~

 今回レポートした「議事録」は38ページの量になります。
 それぞれの立場での意見表明には、「論点」のとらえ方や重点の置き方など、当然のこととして違いがあります。
 議論の噛み合う場面は多くありませんが、その中で自分たちの立場を堅持しながら意見表明する大変さと大切さを感じることのできる文書ではないかと思います。
 時間と興味が重ならなければ読むことにはならないと思いますが、ぜひご一読ください。
 ちなみに、今回の資料は、5分冊合計332ページにもなります。介護保険制度のわかりにくさを表すがごとくですが、様々なデータの集積でもありますので参考資料としての有用性はあると思います。ぜひご活用ください。 

(脚注・まとめの文責  鎌田晴之)

 

あなたも「家族の会」の仲間になりませんか?無料で資料をお送りします。