どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#25【給付費分科会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~~利用者の負担増につながる岸田内閣の目玉政策~

2月28日に、第208回厚生労働省社会保障審議会介護給付費分科会(「分科会」)が「持ち回り」形式で開催されました。議題は「令和4年度介護報酬改定に係る諮問について」です。

諮問内容は、岸田内閣が成立直後に強調した目玉政策の一つ、「看護・保育・介護」職の報酬増政策に係るもので、介護職員の給与引き上げ※を目指して、これまでの「介護職員の処遇改善加算」に新たな「加算」を新設する事の是非を確かめる諮問です。「持ち回り」という事で、厚生労働省からは、ホームぺージの資料を閲覧した上で、書面による意見提出をするよう求められました。以下に掲載した囲みの文書が、委員として参加している鎌田事務局長による意見書です。利用者の負担増につながる新たな「加算」については、条件付きの「賛成」をした上で、施策結果の検証と必要な見直し求めました。また、利用者負担軽減のため介護保険財政への公費割合増加を求めました。

※介護職員の給与引き上げ  

介護職が組織する「UAゼンセン日本介護クラフトユニオン」が3月23日に公表した2020年の調査結果によると、月給制で働く職員の年収平均が363万円。処遇改善などの効果か、3年前の調査時より13万円増えているが、全産業平均が459万円であることから依然として年収約100万円の落差があります。また、時給・非常勤の介護職員の時給平均額は1130円です。これには、東京都の最低賃金が1041円ですから驚かされます。

 

【鎌田理事・事務局長の書面による意見】 

 介護サービス利用者(以下利用者)や家族は今回の介護報酬臨時改定(※1)が介護人材確保やケアの質向上につながるであろう、という期待をもち賛成します(※2)

 この改定は政府方針の「収入を3%程度(月額 9,000 円)引き上げる」ことが目的となります。介護職員処遇改善加算Ⅰ~Ⅲを取得している事業所であること、事業所の介護職員以外の処遇改善にも充当できるという条件があり、本来の介護職員の給与引き上げにどのくらい貢献するのか検証を行い、課題がある場合は見直しの検討を行うことを要望します。

 介護報酬は利用者の自己負担と給付費で構成され、引き上げの臨時改定により、利用者の自己負担額が引き上げになります。また、給付費は公費と介護保険料を財源とするため、臨時改定の引き上げ分は、1号介護保険料(※3)の第9期(2024~2026年度)に確実に反映されると考えます。多くの高齢者は、年金収入で生活を維持しています(※4)。国民年金の水準が下がるなか、第1号介護保険料と自己負担の増加は、過酷な事態を招く恐れがあります。

 2021年には、施設サービスの食費と家賃を補助する特定入所者介護サービス費の条件が厳しくなり、高額介護サービス費も自己負担上限額の引き上げがあり、用者の負担は増加したばかり(※5)です。

 特に、臨時改定による自己負担の増加について、負担できないためサービスをあきらめる要支援・要介護認定者(※6)をこれ以上増やすことの無いよう、新たに税金を投入した負担軽減策を早急に検討することを要望します。

 また、第9期の検討にあたっては、介護保険財源構成の内、介護保険料の負担割合を引き下げ 、公費の割合を増やすことを強く求めます。

※1 介護報酬臨時改定

  この改定は、昨年11月に閣議決定された「コロナ克服新時代開拓のための経済対策」に基づいて決められた「介護職員処遇改善支援補助金」(一般財源の公費)を、今年の9月までに期間限定して、10月からは介護報酬により賄う事にするためのものです。

※2 期待をもち賛成します

「介護人材確保やケアの質向上につながる」事という条件付き「賛成」です。

「処遇加算」には、➀「処遇改善加算」と➁「特定処遇改善加算」があります。

➀は、2009年に創設された「介護職員処遇改善交付金」(一般財源・月額1万5千円)制度を、2012年から利用者負担による介護報酬に組み替えて引き継いだものです。現在は加算Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの3段階あり、「キャリアパス要件」と「職場環境等要件」の達成内容によってⅠ=3万7千円相当、Ⅱ=2万7千円相当、Ⅲ=1万5千円相当(事業所の総報酬によって加算率が違うため「相当」としている)とそれぞれ金額が違います。

➁は、2019年に創設された制度で、厚生労働省は「介護サービス事業所における勤続年数10年以上の介護福祉士について月額平均8万円相当の処遇改善を行うことを算定根拠に、公費1000億円程度を投じ、処遇改善を行う」としています。資料によると請求していない事業者は30%以上あります。「加算の取得をしない理由」として「賃金改善の仕組みづくりの事務作業が煩雑」「職種間の賃金バランスが取れなくなる懸念」という回答が40%以上あります。

「処遇改善加算」については、令和3年度介護報酬改定について (mhlw.go.jp)及び 000917687.pdf (mhlw.go.jp)をご覧ください。

今回の新たな「加算」が「介護人材確保やケアの質向上につながる」ために、「本来の介護職員の給与引き上げにどのくらい貢献するのか検証」と必要な「見直し」を要求しています。

※3 第1号介護保険料 

65歳以上の被保険者が負担。市区町村により金額が異なります。

第8期の基準額全国平均は月額6014円です。

下記の計算式が保険料基準額算定式です。(法定の第1号被保険者の負担分23%以外は、市区町村ごとの「高齢者福祉計画」による来期3年間の想定数値)

 ➀介護保険給付総額 X ➁65歳以上の負担分(23%) ÷ ③65歳以上の人数

したがって、「加算」等によって➀が増えれば、③が大きく増加しない限り、介護保険料は上がる事になります。

※4 多くの高齢者は、年金収入で生活を維持しています

「2019年度国民生活基礎調査」によると、「公的年金・恩給」のみの高齢者世帯は 48.4%、収入の6割から8割を占めている世帯を加えると75.4%になります。また、高齢者世帯全体の所得の内「仕送り」が収入の2割を占めています。貯蓄は、「無し」が14.3%、500万以下が25.2%ですから、約40%の世帯が500万円以下、という事になります。

※5 利用者の負担は増加したばかり

「特定入所者介護サービス費」は「補足給付」と通称されている制度です。施設利用者から「部屋代」と「食費」を徴収する制度が2005年から始まり、経済的負担の厳しい住民税非課税世帯の利用者を対象に利用料を補助する制度が同時に作られました。これまで預貯金1千万の上限額が、年金額に応じて500万から650万(単身世帯)になり、補助対象外になれば全額自己負担になるため、施設によって異なりますが、最大月額6万8千円の負担増になる、という試算もあります。この制度は昨年8月の利用分から運用されています。

※6 負担できないためサービスをあきらめる要支援・要介護認定者負担できないためサービスをあきらめる要支援・要介護認定者

2018年度の要介護・要支援認定者数は約659万人、その内サービス利用者は約493万人で、未利用者は166万人、25.1%です。(市民福祉情報オフィス・ハスカップ「介護保険の20年」より)。厚生労働省のホームページには、介護保険未利用者の調査に関する資料は見当たりません。自治体の調査の中で、例えば名古屋市の2016年度の調査では、複数回答ながら16%の人が「利用料や食費の負担が大きかった」という理由を選択しています。

 3月24日から、この「給付費分科会」のいわば「親会議」にあたる「介護保険部会」(「部会」)が、次期に向けた審議を始めました。前期からの「継続審議」である、給付と負担の「在り方」が中心テーマになります。「部会」には、花俣副代表が委員として参加していますので、「分科会」の動きと同時並行で情報提供しながら、介護保険制度をより良くすることについて、一緒に考えて行きたいと思います。

(脚注・まとめの文責  鎌田晴之)

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