どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#42【介護給付費分科会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに ~令和6年度介護報酬改定に向けた処遇改善加算の一本化や人員配置基準の明確化などの制度改正の提案~

 

 2023年11月30日9:30から12:30まで、東京虎ノ門グローバルスクエアコンファレンスで参集及びWEBによるハイフレックス形式で開催された厚生労働省社会保障審議会第233回介護給付費分科会(「分科会」)は、令和6年度介護報酬改定に向けて、介護人材の処遇改善等、人員配置基準等、介護現場の生産性向上の推進、その他(外国人介護人材、地域の特性に応じたサービスの確保、介護現場における安全性の確保、地域区分)の4項目について審議され、委員からは、処遇改善加算の対象拡大、生産性向上の実現可能性、人員配置緩和に対する慎重姿勢など様々な意見が出されました。

【審議内容】 
議事次第
委員名簿
【資料1】 介護人材の処遇改善等
▼処遇改善加算の一本化について
3種類の処遇改善加算を一本化し職場環境要件も見直す方針が示され、委員からは対象職種の拡大や要件の合理性への意見がありました。
【資料2】 人員配置基準等
▼人員配置基準の明確化について
管理者の責務や兼務範囲、テレワークの取扱いなどについて明確化する方針が示され、委員からは、管理者の負担への配慮やテレワークの適用に慎重さが求められる意見がありました。
【資料3】 介護現場の生産性向上の推進
▼生産性向上について
ロボットやICTの導入による生産性向上が提案され、委員からは、導入の困難さや人員配置緩和への懸念が指摘されました。
【資料4】 その他(外国人介護人材、地域の特性に応じたサービスの確保、介護現場における安全性の確保、地域区分)
▼外国人材の配置基準について
外国人介護職員の配置基準を見直し、6ヶ月未満でも算入可とする方針が示され、委員からは言語面の不安への配慮が求められました。

その中で、委員として出席した当会の鎌田松代代表理事の発言内容を中心に「分科会」審議の動きをお伝えします。

【鎌田松代代表理事による意見及び質問】

 まず資料1の22ページの対応策の2番目、現行のベースアップ加算が3分の2以上を賃金に充てるということですが、これは2分の1に下がるという理解でいいのか。例えば6000円アップと言われた場合これまでは4000円だったのが3000円という賃金になるのですか。
25ページの加算額の配分について、一時金的な手当での支給が増えたが基本給でのベースアップの年々の額が増えない。経営者の説明では、いつこの加算がなくなるかもしれないので、処遇改善加算は手当で反映し、基本給は、最低基準でいきたいというような説明があったという話を聞いたことがあります。やはり基本給が上がるというのが介護職員さんや現場の未来が明るくなり、介護現場に長期の就労となるような給与体系であると思うので、さらにこの基本給への反映を進めていただきたい。

 資料2職員の兼務のところで質問ですが、兼務する管理者の処遇について検討していることがあるんでしょうか。兼務が増えていくと、仕事の負担が大きくなるのではないかと感じますし、管理者がしっかり現場を見ていくことで職員たちも安心して働けるのではないかと思います。
 

 論点3のローカルルールで質問です。21ページで、ローカルルールは必要なものと必要でないものがあるという理解でよろしいのか、後でお答えをお願いします。意見ですが、20年近く訪問介護には、同居家族がいる場合には、生活援助は利用できないというのがあります。ケアプランに、同居家族がいる場合の生活援助は、プラン化する場合の基準が各自治体で異なっています。介護保険制度っていうのは全国どこでも同じ質と量の介護サービスを受けることができると私はずっと思ってきましたが、このローカルルールの差、特に生活援助の場合は私達にとって本当に大変なことでした。このローカルルールということは基準を今回も示されている厚生労働省令ということですが、これを出されていても解釈に差があるということで介護家族は苦労しています。人員配置基準等に限らず、このようなローカルルールについて洗い出し、要不要を再度検討していただきたいと思います。

 論点4のテレワーク、24ページです。質問ですが、介護労働者は対人サービスが基本であり、施設サービスは人員配置基準を超えて配置しないと対応しきれていないというのを先ほども施設の方がおっしゃっていました。今回示されたテレワークの実証実験の速報値では、業務への支障なしということでしたが、事業に参加した職種、示された結果では、この実証実験を勤務している事業所の別室で実施したとあります。利用者の情報などが必要であるし、それはどのように対応されていたのか、個人情報の保護の観点からもですし、何よりこの実証実験の組み立てがこんなものでテレワークの効果があるので進めて良いとなるのかというのには、とても不安を持ちます。全体にテレワークで済む業務であれば、人を減らして良いというようなことに進んでいくのではないかと危惧します。
 

 同じく論点6の人員配置基準時での両立支援への配慮ですが、一般労働者でも育児や介護での両立が困難な要因の一つに、職場での代替要員の確保ができないことがあります。今回の対応案での配慮だけではなくて、具体的な代替要員確保の対策も必要だと思いますので、そのあたりも具体的に入れて、行っていただきたいと思います。今回の対応案でそれまでは週32時間で常勤職員とカウントしていたということですが、30時間でということは、働いてる職員が2時間減った形で現場の職員配置がされるというふうに思います。利用者にとってはやはり職員がいないというのはとても不安ですので、この辺りはどうなっているのかなと思っています。資料3の介護現場の生産性の向上のところですが、先ほどから何人かの方がおっしゃっていましたが、職員の業務負担軽減とケアの質に資する生産性向上は、分けて考えなければいけないと思います。そこが資料のタイトルでは、介護現場の生産性の向上であって、その中には説明として、職員の業務負担の軽減とケアの質の向上ということになっていますが、そこを目指すのであれば、最初からその二つをタイトルにあげた方が良いと思います。私達家族としては自分の家族が、物品のような存在で見られていると、ここで何度も申し上げているんですが、やっぱり大変な違和感があります。介護保険ではその人の尊厳を保持した介護ということを理念にあげていますが、そういう中で、このケアの向上のところに製造用語である生産性の向上は、ふさわしくないと思います。
 

 資料3の論点2の介護ロボットICTなどのテクノロジーの活用促進ですが、今回出された効果測定事業は、ページ17以降のサンプル数が少なく、このデータをもとにしての議論は難しいと私は思いました。その上効果があったとの結論で人を減らすというところに持っていかれているということには、家族の不安が大きいですし、数字の根拠も乏しいと思います。

 資料3、論点3の先進的な特定施設における人員配置基準の特例的な柔軟化というところで、介護職員はテクノロジーの活用により余裕ができた時間を利用者とのコミュニケーションなどに使える、人手の足りない時間に回すことができると評価しているということで、人配置基準を緩和するとなっていますが、これはロボットとかICTを活用したことで人を減らしていけば、またコミュニケーションの時間がなくなって、ずっと介護現場は人手の足りない状況、ゆとりのない現場になっていくのではないかと思いました。聞いた話で私はぞっとしましたが、ある特養に行ったら車椅子に乗った人たちがリビングに集まって、笑い声や楽しい声が聞こえたので行ってみると、それはテレビの音であった。車椅子の人たちの周りをロボットのPepperくんが動きまわり話しかけていたが、そこには職員は誰もいなかったという話を聞いて、これが介護の現場のICTロボットを活用した未来像なのかと思うと、不安というか恐ろしさというか、やはりこれは何かケアの質の向上というところが抜けていて、ロボットの活用というものになってきているのではないかという危惧を大変大きく持ちます。再度このICTとかロボットの活用っていうものが目指す方向性が人員の削減だけではなく、ケアの質の向上、職員の負担の軽減であるということをきちんと見据えた形での検証事業とか、報酬の改定とかになっていかないと、現場が間違ったままに行き着いてしまうのではないかと思っています。私の方からは以上です。

【厚生労働省(老人保健課長)からの回答メモ】

 まず資料1の処遇改善についての質問ですが、新加算Ⅳの2分の1以上を月額賃金にということで提案しています。これまでとの関係で言いますと、この月額賃金、いわゆるベースアップに充てる要件は昨年10月からのベースアップ等支援加算についても設けていました。資料の13ページをご覧いただきますと、従前のベースアップ等加算は訪問介護を例として記載をしておりますが、加算率2.4%のうち3分の2以上を月額賃金にあてるという整理でした。それに対して、今回の提案は14ページが新たな加算の体系ですが、同じく訪問介護のものを例として記載していまして、新加算Ⅳの12.4%、これは加算率となりまして、これの2分の1以上月額賃金ということですので、基本的には全体を通しますと月額賃金に充てる割合を、少し高めていこうていった考え方ですのでご理解いただければと思います。

 二つ目ですが、管理者の要件と管理者の兼務の関係、併せて管理者の処遇について検討をというご質問でした。そこについては、基本的には、加算などの対応というよりは労使の中で業務に見合った報酬を検討していただくと考えています。

 3点目のローカルルールについて、必要なものと必要でないものがあるのかとのご指摘です。ローカルルールにつきましては、22ページ資料2の22ページに記載している通り、例えば人員配置基準等については従うべき基準ということで国が示しており、自治体はその範囲の中で実情に応じた条例の制定また運用が可能とされていますので、必要ないということではありません。実態としてローカルルールというのは設定できる建付けとなっています。ただ、やはり不合理な上乗せ規定などがないように、そういったものが求められた場合には、その当該ルールの必要性を説明できるようにすることなどを求めていってはどうかという提案でして、検討していきたいと思っております。

 あと、テレワークの関係です。ご指摘のテレワークに伴い人員を減らして良いとかいったことを我々はもちろん考えていません。他方、様々調査研究事業などを行っている中で、ご指摘のような課題もあるという認識ですので、ヒアリングの結果なども合わせ、特に利用者の方の安全性が損なわれないような形を、しっかり示していきたいと考えています。

【厚生労働省の回答に対して、鎌田松代代表理事の追加発言】

 はい、ありがとうございます。もう一つだけですが、この効果実験検証のデータを示されるときには、やはり職員さんの声を一緒に出していただかないと、数字だけが独り歩きしてしまって、先ほど言われたように、何か本当に現場の実態を示さない形のまま走っていくかなと思うので、データを出すときには職員や利用者・家族の声もとってもいただきたいと思いますし、必ずデータとして示していただきたいと思います。以上です。

 最後に、このリポートが、審議の全てをお伝えするものになりえないことをご理解いただき、今回のテーマを含め、取り上げていない問題にも、意見・質問がございましたらお寄せください。

(まとめ 文責  介護保険社会保障専門委員会 鈴木森夫)

 

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