どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#38【介護給付費分科会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~前2回引き続き、サービスの改定内容の審議~

 

 11月6日午前9時半から12時までWEB会議形式で開催された、厚生労働省社会保障審議会第230回介護給付費分科会(「分科会」)は、第228回、第229回に引き続き、各介護保険サービスの内、訪問介護訪問入浴介護訪問看護訪問リハビリテーション居宅療養管理指導居宅介護支援介護予防支援の改定内容案に加えて、介護人材処遇改善等、新たな複合サービスについて審議されました。その中で、委員として当会より出席している鎌田松代代表理事の発言内容を中心に「分科会」審議の動きをお伝えします。

社会保障審議会介護給付費分科会委員名簿

第230回「介護給付費分科会」の審議対象は以下の内容でした。

資料1訪問介護・訪問入浴介護(改定の方向性)

資料2訪問看護(改定の方向性)

資料3訪問リハビリテーション(改定の方向性)

資料4居宅療養管理指導(改定の方向性)

資料5居宅介護支援・介護予防支援(改定の方向性)

資料6介護人材の処遇改善等(改定の方向性)

資料7複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)

【鎌田代表理事による意見及び質問】(囲み内、下線は脚注用)

訪問リハビリテーションにおける認知症リハビリテーションの推進

 資料3訪問リハビリテーション(改定の方向性)22ページ論点3認知症リハビリテーションの推進について、老人保健施設および通所リハビリテーションで一定の評価がなされていることや、訪問による認知症リハビリテーションの効果に関する報告もあることを根拠に「訪問リハビリテーションにおいても認知症の方に対して、認知機能や生活環境等を踏まえ、応用的動作能力や社会適応能力を最大限に活かしながら、当該利用者の生活機能を改善するためのリハビリテーションを実施した際の加算を新たに設けてはどうか。」との提案が老健局老人保健課長からなされました。

 認知症の人のリハビリテーションについて、自宅で認知機能のリハビリが受けられることは、できることを伸ばし、まだ使ってない力を生かすことになり、本人の自信になります。介護者にとっても介護負担を軽くすることになります。できることが増えるのは本人だけでなく、家族の喜びでもあるので、進めていただきたいです。質問ですが、この効果を調査した老健事業のN数(調査サンプル数)が少なく、リハビリの効果について、これで効果があるというふうに判断できるのでしょうか?また、認知症の人のリハビリに対して、多分医師の指示が必要になり、ケアマネジャーがケアプランに載せていかないといけないと思いますけども、医師やケアマネジャーにこの調査結果の周知がどこまで行われているかということを質問させていただきます。

老健事業

「訪問による効果的な認知症リハビリテーションの実践プロトコルの開発研究」令和4年度R4purotokoru 0420 .pdf (jaot.or.jp) 13頁

 鎌田松代代表は、認知機能にアプローチするリハビリテーションを自宅で個別に提供してもらえることにつながる訪問リハビリテーションの新たな加算ついて、賛成意見を述べました。しかしながら、提出された資料『訪問による認知症リハビリテーションの効果検証』(資料3訪問リハビリテーション(改定の方向性)23・24ページ参照)における調査サンプル数がかなり少ないことから、データ上、効果があると判断してよいのかとの疑問を投げかけたと同時に、大きく関係する医師やケアマネジャーに当該調査結果を周知しているかを質問しました。

<老人保健課長の回答メモ>

 鎌田松代代表は、認知機能にアプローチするリハビリテーションを自宅で個別に提供してもらえることにつながる訪問リハビリテーションの新たな加算ついて、賛成意見を述べました。しかしながら、提出された資料『訪問による認知症リハビリテーションの効果検証』(資料3訪問リハビリテーション(改定の方向性)23・24ページ参照)における調査サンプル数がかなり少ないことから、データ上、効果があると判断してよいのかとの疑問を投げかけたと同時に、大きく関係する医師やケアマネジャーに当該調査結果を周知しているかを質問しました。

<老人保健課長の回答メモ>

認知症リハビリテーションの効果検証については一定の知見が得られたが、N数(調査サンプル数)がさほど多くなく、この調査自体については一定の限界があるところで指摘の通り。他方、認知症リハビリテーションについては現在、老健施設および通所リハビリテーションでの実施が行われており、現場においてノウハウや知見は一定程度積み重なっている背景もあわせて議論いただきたい。また、今後も訪問リハビリテーションによる認知症リハについては効果検証を行ってまいりたい。

認知症リハビリテーションの課題について 

 通所リハビリテーションには、認知症短期集中リハビリテーション実施加算があります。しかしながら配置医師に関して認知症専門医及び認知症サポーター医等の算定要件から、算定事業所は認知症短期集中リハビリテーション実施加算Ⅰ2.66%(214事業所/全国)、算定事業所は認知症短期集中リハビリテーション実施加算Ⅱ0.39%(31事業所/全国)(【出典】厚生労働省「介護給付費等実態統計」令和4年4月審査(令和4年3月分)及び介護保険総合データベース(令和4年3月分)を元に老健局老人保健課で集計)となっています。この数値からも、通所リハビリテーションは身体リハビリテーションを実施する事業所がほとんどで、認知機能へアプローチするリハビリテーション提供事業所が極めて少ないことを示唆しています。訪問リハビリテーションにおいてもこの傾向は同じと想定できます。その中で、認知機能へアプローチするリハビリテーションの実施訪問リハビリ事業所を認知症リハ加算新設により評価する重要性はあるものの、認知症要介護者やその介護家族にとっては、認知機能へアプローチするリハビリテーション提供事業所数が増えることと、そのサービス量の確保に関心のある所ではないでしょうか。

訪問介護と通所介護を組合せた新たなサービス類型(複合型サービス)の提案

 資料7複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)について、訪問介護と通所介護を組み合わせた地域密着型サービスとしてはどうか。訪問介護と通所介護を一体的にサービス提供することにより、訪問と通所における利用者の対応を把握した上で情報共有ができ、この利用者の状況やニーズに即応したきめ細かなサービス提供により、機能訓練等を通じて生活機能の維持向上が図られ、要介護者の自立した在宅生活継続のためのサービス提供を行ってはどうか。

 現行のサービスと同様に居宅介護支援事業所のケアマネジャーのケアプランに基づきサービス提供を行ってはどうか。

 基本報酬については、利用者の状態の変化等に応じて時間区分にとらわれないない訪問、通所のきめ細かなサービス提供を行う観点から、円滑なサービス提供を行いかつ自己負担の変動を回避するため包括払いとしてはどうか。

 以上の提案及び説明が認知症施策地域介護推進課長よりありました。

 複合型サービスの新設については課題が多く、効果が少ないと考えます。コロナ禍での通所介護事業所からの訪問を行った事業所は少なかったと報告を聞いています。しかし、今回の資料(資料7複合型サービス(訪問介護と通所介護の組合せ)10ページ)では、とても効果があったような報告が掲載されていることに少し疑問を感じました。ケアマネジャー変更しなくて良いのは認知症の人や家族にとってはありがたいです。しかし、小規模多機能居宅介護でも訪問介護は制限されている現状があると報告があります。指導を受けた話も聞いております。既に通所介護と訪問介護を組み合わせた事業で、訪問介護が制限されている現状があるのに、このサービス利用で、利用前の訪問介護の回数や内容でのサービスが提供されるかは危惧いたします。前回のときも意見しましたが、包括報酬はサービスの選択の自由が制限されるのではないかというふうに思います。外付けのケアマネジャーが必要とみなす回数が事業所の体制などで制限されるという小規模多機能型居宅で起こっていることが今回の複合型サービスの利用で起こることを心配いたします。通所介護の職員の待機時間に訪問介護のサービス提供をすることを想定されているようですが、通所介護の職員に待機時間があるとは思いません。整容、入浴、送迎、昼食の介助、機能訓練、レクレーションなどを利用者に渡す記録など、いつ行っても忙しく職員さんはされています。質問です。この事業を検討するにあたり、通所介護の職員の待機時間など、職員の動きでの調査をされたのでしょうか?ページ13に、訪問介護員の人手不足の現状が示されていますが、複合型の創設により、どのぐらいの人手不足が解消されるのでしょうか?試算などされているのでしょうか?デイサービスの介護職員が訪問介護の応援をすれば、今のヘルパー不足が解消されるとはとても思えません。複合型サービスの構想で、在宅介護の大問題が解決できるという根拠をぜひ示していただきたいと思います。

<認知症施策地域介護推進課長回答メモ>

 新たな複合型サービスの提案が訪問介護の人材不足にどの程度効果があるかの試算等については、残念ながら、難しいと考えている。また我々としては、この提案だけで訪問介護の人材不足が全て解決すると考えているわけではない。

まさに、1人で利用者宅に訪問することの難しさ等、現状の訪問介護の課題に対して、例えばこの複合型の提案によって、通所介護と訪問介護をそれぞれ馴染みの関係のもとでやっていくということであれば、一定の効果が見込まれると考えているし、またそうした事業所において通所介護と訪問介護のそれぞれを経験するということが、職員の人材育成上のメリットもあると考えている。繰り返しですが、この課題全てをこの提案だけで解決しようと考えてるわけではなく、それぞれ一定の効果があると考えて提案している。通所介護の待機時間等の指摘については、少し調べてみたいと思う。

〈付記〉 

 社会保障審議会介護保険部会および介護給付費分科会で、老健局の担当者がことあるごとに「一定の効果」「一定の成果」を言葉にしますが、少し気になって調べてみました。

<一定の効果>

 多くの場合、効果が計量不可能である場合や、漠然としている場合、どうにでも考えられる場合などに、はぐらかし的に使うことのできる便利な表現だと思います。

<一定の成果>

 “一定”は第一義的には定まっていて変化しないという意味であるから、コンスタントに成果が上がっているということかと思えば、そうではなくて程度を漠然とさす意味合いで使われていて「一定の成果」とは、広辞苑によれば、十分ではないがそれなりのという意味とあります。

その他の委員が次のような発言をしました。その他の委員の発言の一部を紹介します。

<委員発言メモ>

●日本介護支援専門員協会副会長 濵田和則 氏

 複合型サービスについて、中山間地や人口減少によって介護サービス事業者が撤退したり確保困難な地域、小規模多機能居宅介護事業所の整備が進まない地域における安定的なサービス確保ができる体制を期待したいと考えている。なお、事業者によっては事実上、同一建物の利用者のみへの介護サービス提供が行われる体制も散見されているので、本サービスが地域包括ケアの目指す在宅限界点の引き上げという目的に合わせた提供が行われるよう、創設の際には配慮検討いただきたい。

●NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事 石田路子 氏

 訪問介護と通所介護を複合的に提供するという場合に人材不足が際立って問題となっている訪問介護サービスについて懸念があり、ここについても効率化とか生産性向上を理由として、マンパワーの削減や、サービス提供量が減少されることがないようにぜひ配慮していただきたい。

●大分県国民健康保険団体連合会副理事長(中津市長) 奥塚正典 氏

 地域密着型サービスとして、複合型サービスの創設について意見を申し上げたい。在宅サービスを支えるホームヘルパーの高齢化や人材確保については、非常に深刻な問題である中、日本ヘルパー協会の「朝のケアや帰りのケアを通所介護の中で、訪問介護でできれば人員を確保できる」といった意見を踏まえ、複合型サービスを創生する方向については賛成をいたします。介護人材の有効利用や、効果的かつ効率的なサービスの提供ができることを期待する。一方で、地域密着型サービスとなると、市町村が指定権限を有し、指導監査についても市町村が行うこととなります。また原則として指定した市町村の被保険者のみが利用できることになりますが、特例として、事業所の所在市町村長等の同意により、他の市町村の被保険者の利用も可能となっている。

 要介護別の包括払いとのことですが、利用者にとってこれまでの各サービスの利用料に比べて、できる限り負担が増えることがないようにしっかりと検討してもらいたい。

 事業者が参入しやすいよう、できる限り簡素化とわかりやすい介護報酬体系を考えていただきたい。市町村の立場からの意見です。

●健康保険組合連合会常務理事 伊藤悦郎 氏

 複合型サービスの組み合わせや、機能役割基準の考え方に異論はない。報酬の考え方については、要介護度別の月額包括払いとするという対応案について、事業者の自己負担額の変動を回避するといった観点からは理解をしていますが、訪問回数や通所回数等のサービス状況の違いにより、現行に比べて利用者にとって損得の状況が起きてしまうことも考えられるので、サービス実態を踏まえた評価範囲設定については慎重にご検討していただきたい。

●全国健康保険協会理事 鳥潟美夏子 氏

 新しい複合型サービスの創設について創設そのものについては反対ではないものの、例えば小規模多機能型介護との違いが明確でない中、制度の複雑性を招くのではないかと危惧している部分もある。すべてにおいて丁寧な議論の上、いろんな疑問点が解消されることを期待している。

●全国老人保健施設協会会長 東憲太郎 氏

 訪問介護と通所介護を組み合わせる目的が、訪問介護の人材不足の対策であるとするならば、新たに複合型サービスを作り、制度を複雑化するのではなく、現存の通所介護事業所が訪問介護もできるというような規制緩和はいかがか。

 既存の通所介護事業所が訪問介護もやろうとする場合、一旦通所介護事業所を廃止して新たな地域密着型サービスの指定を取り直す。これは大変手間がかかる。ご存知のように地域密着型サービスというのは身近な市町村の単位でサービス運営を行うことが基本になっている。その観点から、今回提案された地域密着型サービスにおける新たな複合型サービスというのは、既存の通所介護事業所や、既存の訪問介護事業所が移行するということがあまり想定されていないと思っている。新規に事業所を開始する場合にはこの制度が利便性の高いものになるかもしれませんが、この新たな制度の恩恵を受けるのはむしろサ高住等(サービス付き高齢者向け住宅)の集合住宅ではないでしょうか。利用者が一つの建物に住んでいるため、地域密着型サービスに移行してもなんら問題がないからです。

 この新しい複合型サービスは、既存の訪問介護事業所の人材不足の対策をとなりうるというのはちょっと厳しいかなと考えている。

●慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科 堀田聰子 氏

 私自身はこの新類型を作っていくというのは複雑化していく、今回の新設の目的に対応すると必ずしも言えない趣旨の観点から今、新類型を作るということは慎重に考えるべきだと思っている。

 より複雑化困難化に繋がるというような観点からも本当は必要ではないと思っている。とはいえ宿題なのでどうしても今回作っていくということであれば、地域密着型サービスで包括報酬だけれども、ケアマネジメントは内部ではなくて外部でいいのかというところは検討の余地が大きいと考えている。併せて地域密着型サービスの場合に市町村が指定をしてことになるが、もう既に複数の小規模多機能であるとか定期巡回であるとか、地域密着型サービスがあるわけで、生活圏域の中で過度な競争を生まないようにといったような工夫も必要ではないかなと思っている。

 各委員の新たな複合サービスに対する多くの慎重意見などをもとに現時点での内容を検証すると、新たな複合型サービスは利用者にとっても提供する側にとっても、あまり有用なサービスとはなりえない印象です。また、訪問介護の人材不足解消には到底及ばず、認知症要介護者が必要とする訪問介護のサービス量確保は不安定なままになると想定できます。皆様はどのようにお考えでしょうか。

 最後に、このリポートが、審議の全てをお伝えするものになりえないことをご理解いただき、今回のテーマを含め、取り上げていない問題にも、意見・質問がございましたらお寄せください。

(まとめと文責 介護保険・社会保障専門委員会 志田 信也)

 

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