どうするつもりか介護保険=改正の動きレポート#28【介護給付費分科会編】

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~介護現場の「生産性向上」って?~

 

 7月5日に、第211回厚生労働省社会保障審議会介護給付費分科会(「分科会」)が「持ち回り」形式で開催されました。議題は「テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について」です。6月27日に担当事務局より本部あてメールにて「開催案内」があり、同時に7月5日12時締切にて「特段のご意見がある場合には第211回意見調書にご記入を」と併記されていました。メールに添付された配布資料は 介護現場における生産性向上に向けた取組 (mhlw.go.jp)  です。分科会を構成する委員の名簿は000926453.pdf (mhlw.go.jp)を開いて確認してください。委員の鎌田松代理事・事務局長の「意見書」を中心にレポートします。

 【鎌田松代理事・事務局長の書面による意見】(下線は脚注用)

1「生産性向上」の言葉は“尊厳ある人生”に結びつかない

今回の実証事業「テクノロジーの活用」※1で利用者や介護職員の安心と安全が確保され、介護職員の負担が軽減され、サービスの質が向上されるのなら、次期の介護報酬・基準の改定にあたって、「テクノロジー活用」が検討されるのは歓迎することです。

しかし、生産性の向上」※2の取組に係る効果検証と標題にあるように、人を対象にした介護にこのような「生産性の向上」の言葉は馴染まず、この実証事業やそもそも「テクノロジーの活用」が介護の負担軽減をはかりながら、サービスの質 ※3の向上をめざし、その先にある利用者の介護を受けながらも尊厳ある人生を送ることが出来ることにつながるのか、この「生産性の向上」の言葉からは目標とする尊厳ある人生には結び付きません。製造現場でのもののように見られているようにしか、介護家族は受け止めきれません。検討をお願いします。

また、「テクノロジーの活用」と人員・運営基準の緩和がセット ※4であるのも、人員の配置基準の緩和ありきのようで、不安を隠しきれません。介護職員の介護負担の軽減や効率的な業務が進められることは、介護職員の働き甲斐にもつながり歓迎ですが、このところの流れである「テクノロジーの活用」イコール人員配置基準の緩和のように見受けられることを危惧します。

※1「テクノロジーの活用」

  ここでいう「テクノロジー」とは、「見守り機器、インカム、記録ソフト等のICT、移乗支援機器」を指しています。「活用」の目的を配布資料2頁では、「介護人材の確保と介護現場の革新」というテーマの一つとして、次のように述べられています。

 『テクノロジーの活用や人員基準・運営基準の緩和を通じた業務効率化・業務負担軽減の推進

・見守り機器を導入した場合の夜間における人員配置の緩和

・会議や多職種連携におけるICTの活用

・特養の併設の場合の兼務等の緩和

・3ユニットの認知症GHの夜勤職員体制の緩和』

「見守り機器」は、夜勤での有効性が期待され、介護の質よりも人員削減が目的化している印象です。今回の検証項目(=期待される効果)は、『転倒の予防・早期発見/訪室の優先度把握/見守り業務の質の向上を踏まえた夜勤業務の効率化/夜勤職員の精神的負担軽減』です。

 「インカム」は、「インターコミュニケーションシステム」の略で無線機器の一種です。施設内での業務連絡を複数人と同時にとれ、無線機と違い電話のように同時会話ができます。

 「記録ソフトなどのICT」は、ICTとは「情報通信技術」を意味する英語表記の頭文字で、介護施設などでの「ソフト」としては、記録業務、情報共有業務、請求業務などを一括して行い、介護職員の負担軽減が期待されています。

 「移乗支援機器」は、介護ロボットや移動用リフトなどに代表されるものです。期待される効果として配布資料10頁に『日中ベッド上で過ごしている利用者の行動範囲を拡充』による『自立支援』などが挙げられています。

※2 生産性の向上

 厚生労働省が使用する「生産性」という言葉の意味は、同省のホームページ生産性の向上 (mhlw.go.jp) によれば、『「生産性」は、一言でいえばモノやサービスなどの価値をどれだけ少ない労力や資源の投入によって効率的に生み出しているかという指標です。「生産性」にはいくつかの種類がありますが、一般的には、「付加価値労働生産性」のことを指します。この「付加価値労働生産性」とは、労働者1人あたり(または労働者1人が1時間あたり)、どれだけの付加価値を生み出したかという数字です』

  また、内閣府の「生産性向上国民運動推進協議会」(総理大臣他経済団体などの代表で構成)生産性向上国民運動推進協議会 – 内閣府 (cao.go.jp)では、「介護サービス事業の生産性向上に向けた調査事業」の報告や、「日本在宅介護協会」「全国老人施設協議会」代表者による「好事例」報告が行われています。

「製造業」を介護現場に置き換えた場合の「付加価値」なるものを確かめたい所です。

※3 サービスの質

  配布資料6頁の「想定する調査項目」の中に、「ケアの質」について書かれています。

  『ケアの質が適切に確保されているかどうか(利用者のADL、認知機能、意欲等に関する評価、ケア記録内容等』という事ですが、ADL(日常生活動作)はまだしも、「認知機能」や「意欲」の「テクノロジー活用効果」についての、検証後の説明には興味深いものがあります。

※4 人員・運営基準の緩和がセット

 (一社)日本経済団体連合会(経団連)は、今年の1月、医療・介護に関する「提言」経団連:Society 5.0時代のヘルスケアⅢ (2022-01-18) (keidanren.or.jp)を発表しました。『介護施設人員基準 3:1の見直し 利用者にとっての品質確保、職員の負担軽減が図られ、テクノロジー・データ活用による業務時間の削減効果が認められる場合、その改善効果の範囲で配置すべき員数を見直すべきである』としています。この審議会にも経団連から委員が参加しています。 

 経団連提出の「意見書」には「介護の質および職員の負担軽減を担保した上で、見守り機器の活用により…」と、上記と同様の主張を述べていますが、経団連の考える「介護の質」とはどのようなものか気になります。

2「活用」にともなう、想定されるリスク対応の検討と報告を

「テクノロジーの活用」においては大きな懸念があります。大規模地震や線状降水帯など自然災害が多いなか、今年は「電力需給ひっ迫注意報」や通信機器障害も発生しています。近日に発生したみずほ銀行の大規模なシステム障害が記憶に新しいところです。介護家族にとって「テクノロジー活用」により、このようなトラブルが発生し、利用者の安全やすぐに必要な介護が受けられないなどの悪影響が及ぶことが、最大の不安です。実証事業ではインシデント対応 ※5の検討やリスク評価はしないとのことですが、事業実施のなかで気づきがあった場合や、このような想定できる災害、システム障害、電力需給問題などの時の対応方法なども検討していただき、ていねいな報告をお願いいたします。

※5 インシデント(Incident)

  「事故」を意味するアクシデントほどではないが、起こることが「好ましくない事」

  厚生労働省はインシデントについて、日常診療の場で、誤った医療行為などが患者に実施される前に発見されたもの、あるいは誤った医療行為などが実施されたが、結果として患者に影響を及ぼすに至らなかったもので、ヒヤリハットと同義と定義しているようです。(「ナーステートHP」)

3 数値による評価では、要介護者への影響がわからないのでは?

「利用者向け調査」ではLIFE情報を活用予定とあります。また、数値による評価では、「テクノロジー」の導入が、介護を必要とする人たちにどのような影響を与えるのか、わからないのではないかという不安があります。
2021年度実証事業では、「見出すことができた」、「把握された」、「可能であると考えられる」、「伺えた」など推測の報告しか見出すことができません。
今回の実証事業においては、可能な限り具体的な報告を希望します。その数値の意味が裏付けされるような、数値だけでなく具体的な内容も併せて付記される報告もお願いします。

4 介護者からの意見・感想を確かめる項目の追加を

実証事業では、介護家族など介護者の意見や感想を※6聞く項目がありませんが、とくに認知症の人の場合、介護者などが心情や反応を汲み取って伝えることがたびたびあります。介護者にもぜひ、意見や感想を聞く項目を追加することを検討してください。「生産性の向上」の言葉もそうですが、例えば介護家族によっては移乗リフトなどの活用では「荷物のような扱い」とその効果より別の感情をいだく場合もあります。聴くことが可能であれば利用者の声の反映もお願いします。
「生産性の向上」の中にある「業務の効率化」が優先され、「サービスの質の向上」が置き去りにされないか、この実証事業の計画の枠組みを見ていると介護家族は不安が増します。

※6 介護家族など介護者の意見や感想を

 日本医師会の江森和彦委員もこの件に関して「ケアを受ける側の利用者や家族の視点や印象が重要であり、実証における透明性の更なる確保のため、その確認にあたっては、施設の職員などの関係者ではなく、第三者による聞き取りもしくは回収が求められる」という意見を提出しています。

 日本看護協会の田母神裕美委員は、「利用者への直接的なケア(見守りを含む)に関わる内容については、利用者・家族への十分な説明と同意の取得とともに、利用者・家族が実施を拒否する機会の保障、実施後に同意を撤回する機会を保障することが不可欠である」という意見を提出しています。

 24人の委員のうち16人が「意見書」を提出しましたが、「家族」に言及した委員は、この二人だけでした。

5 介護業務の「切り分け」はどれくらい可能かの十分な検討を

実証テーマのなかに、「介護助手※7の活用」が盛り込まれ、「介護業務の切り分けができるのではないか」と想定されているそうですが、介護助手は科学技術ではなく、働く人間であることに十分、留意することを求めます。
また、実証事業後になると思いますが、介護職員にとって「介護業務の切り分け」がどのくらい可能なのか、十分に意見を集めていだたくことを希望します。

※7 介護助手
  ある介護施設の正規職募集内容の一部です。(2022年7月)
 【応募資格】・未経験・ブランクOK・無資格OK 【歓迎】中高齢者
 【お仕事内容】・食事・入浴・排泄介助・レクリエーション・記録業務 など
 【月収例】・無資格の方月給:196,500円+皆勤手当10,000円スタート


 厚生労働省は、2022年度に「介護助手普及推進員」(仮称)を新設し、自治体などの福祉人材センターなどに配置し、介護助手希望者と介護事業所双方に働きかける計画です。
 年金受給年齢になっても働き続けなければならない社会の受け皿なのでしょうか。
 前期高齢者(64~74歳)を介護助手にと目論んでも、介護職そのものが前期高齢者化している現状があります。市民福祉情報オフィス・ハスカップの小竹雅子さんは「若い人の就労を促進する有効策がない限り、堂々巡りの議論になる」と指摘しています。

6 「テクノロジー活用」費用のきちんとした試算を

「テクノロジー活用」では、安定的な稼働を維持するには、システムや機器の保守、更新、担当する介護職員の訓練や研修が必要になります。コスト削減ではなく、介護を必要とする人たちが安心して暮らすことができる「テクノロジー活用」の費用をきちんと試算することを希望します。                               

以上

 

 「給付費分科会」は、介護サービスの報酬算定につながる具体的な問題について議論する所です。私たちにとっては「負担とサービス利用」に直結する内容ですが、その場で当たり前のように取り交わされる「生産性」なる言葉への、鎌田事務局長の苦言は、政府が「制度の持続可能性」を全面に展開する中で、介護の質に関する議論が軽視されがちであることへの抗議です。

 次回は、5月30日に行われた「介護保険部会」をレポートする予定です。
ご意見・ご質問をお寄せください。 mail office@alzheimer.or.jp fax(075)205-5104  

(脚注・まとめの文責  鎌田晴之)

 

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