どうするつもりか介護保険法=次期改正の動きレポート#9

介護保険・社会保障専門委員会

今回は、第86回、第87回介護保険部会をまとめて報告します。

はじめに…「取りまとめ」に向けた議論重ねる

●第86回「厚生労働省社会保障審議会介護保険部会」(部会)は、11月27日に「ベルサール神田」(東京都千代田区)で午後4時から行われました。

議題は(1)「社会福祉法人の事業展開等に関する検討会」の検討状況(報告)、(2)「介護福祉士養成施設卒業生に対する国家試験の義務付け(報告)」、(3)「保険者機能 」、(4)「論点ごとの議論の状況」、でした。

●第87回「部会」は12月5日に「ベルサール神田」で午前10時から行われ、

議題は(1)「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」中間取りまとめ報告、(2)「論点ごとの議論の状況」でした。

「論点」とは、2月の部会で示された➊介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)、❷保険者機能の強化(地域保険としての地域の繋がり機能・マネジメント機能の強化、 ❸ 地域包括ケアシステムの推進(多様なニーズに対応した介護の提供・整備)、❹ 認知症「共生」・「予防」の推進、❺持続可能な制度の構築・介護現場の革新、の5項目です。

 

社会福祉法人の「大規模化」!?

第86回議題(1)の「検討会」は今年の4月に設置されたもので、「厚生労働省社会援護局福祉基盤課」が担当しています。これは、昨年6月21日の閣議決定「成長戦略フォローアップ」で「社会福祉法人の事業の協働化・大規模化の促進方策等について、有識者による検討会を開催し、2019年度中に結論を得る」とされているものです。すでに医療では「地域医療連携推進法人」という制度が進められており、ここでも、出どころは「経済財政諮問会議」や「未来投資会議」なる首相官邸筋で、発想は「給付削減ありき」の印象を受けます。(2)の報告には、「介護ニーズの多様化・高度化の進展に対応できる資質を担保し、社会的な信頼と評価を高める観点から」国家試験義務化が示されていますが、これはすでに2012年度から実施予定であったものをこれまで延期してきたものです。自由民主党の関連委員会では、外国人人材確保の観点もあって義務化は資格取得のハードルが高くなるとして「見直し」が検討されていると伝えられています。他方、日本介護福祉士会は、「社会的評価向上」等の観点から「資格取得の一元化」=「国家試験」を主張し、その義務化を主張しています。それが介護福祉士の待遇に反映されればいいのですが。

むりやりな「年末とりまとめ」

(3)で言う「保険者機能の強化」とは「給付削減」への貢献度を「機能強化」と言い換えているように読めます。(4)では、「制度の持続」をテーマとして「負担と給付に関する「検討項目」が、これまで出された意見をまとめる形で示されました。改めて列挙します。①被保険者範囲・受給者範囲(*2号被保険者年齢引き下げ?)、②補足給付に関する給付の在り方(*預金条件の金額引き下げ、不動産も条件化?)、③多床室の室料負担(*個室の利用料を上げる事に?)、④ケアマネジメントに関する給付の在り方(*公的な相談業務を有料化?)、⑤軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方(「自立支援」の解釈変更?)、⑥高額介護サービス費、⑦「現役並み所得」「一定以上所得」の判断基準(基準作りの恣意性?)、⑧現金給付(*介護の社会化は?)(*印は筆者感想)

いずれの項目も、当然のこととして立場の違いにより意見の一致はありません。世論を読み取りながらまとめていくのでしょうか。

なお、①と⑧については、見送る動きが伝えられています。

「利用者・介護者にも事務負担軽減を」

87回議題(1)は「介護分野において、国、指定権者・保険者及び介護サービス事業者の間でやり取りされている文書に関する負担軽減を主な検討対象とする」専門委員会の報告でした。主要文書以外の押印廃止といった「簡素化」と「標準化・ICTの活用等」が方向性として示されています。

この報告に対する花俣副代表の発言要旨です

介護を必要とする人、介護をする家族にとっても、契約にもとづきサービスを利用するためにさまざまな書類が求められ、もう少しコンパクトにできないのだろうかという声を聞く。ぜひ、エンドユーザーとも呼ばれるが、利用者や介護者のための文書負担の軽減も今後、ご検討いただきたい。

「食べることは生きること…」

議題(2)「論点ごとの議論の状況」では、当然のこととして、立場の違いが明らかになる主張が展開されました。

以下、花俣副代表の発言要旨です。

論点❺「持続可能な制度の構築・介護現場の革新」の(2)「補足給付(*施設での食費や部屋代の補助)に関する給付の在り方」での議論で『せめて食費は給付の対象から外すことを検討すべき』との意見がある。食べることは生きることの基本であり、ましてや病気や障害がありながら生きる人にとってはさらに重要なものだと思う。 預貯金の勘案について、「500万円については見直しの余地がある」との意見があるが、本当に500万円の預貯金があれば、補足給付からはずしても大丈夫と言えるのか。その方に伴侶がいれば家族のためには500万円は一切利用できないのは当然であり、ここでも連れ合いの暮らしの手立ては自己責任??また、けがや病気になって医療費がかかっても…あるいは天寿を全うした時点で10年以上の時が経過してしまっていたら…?等々、不安は尽きません!!

「認定を受けても受給できない、介護保険が使えなくなる見直しは認められない」

要介護1と2の人への「生活援助サービス等」を総合事業に移すというテーマですが、改めてうかがいたい。すでに、要支援1と2の人は、認定を受けていても、ホームヘルプ・サービスとデイサービスの給付はされていない。認定を受けていても、ホームヘルプ・サービスとデイサービスに関しては、「受給者」にはなれないことになっている。 以前に厚生労働省が出した資料でも、給付費は認定を受けたひとりひとりに提供されるものであり、総合事業は運営する市区町村に事業費が渡されるものとされていた。総合事業とは、給付ではないという理解でいいか改めて確認をしたい。また、認定を受けなければ給付の対象にならないのに、認定を受けてもなお、必要とされているサービスが給付されないという見直しには反対であることを改めて申しあげる。

「『一定以上の所得』の人たちの負担能力について現実的な調査分析を」

 「能力のある人は負担すべき」との意見があるが、所得や預貯金、あるいは「補足給付」で言われている不動産もふくめて、高齢者にはどのくらい「負担能力」があるのか、はっきりはしていない。とくに「一定以上の所得」とは、すべての高齢者の所得をみて、上から2割の人を「相対的に負担能力がある」と言い、全体からみて所得があるからと言ってはたして「負担能力」があると言えるのか。前回の改定以降、今でさえ1割・2割負担の境界線上にある方にとって、負担増によりサービス利用を控えなければならない、自己負担の割合増により支出が大幅に増え先行きが不安、1割でも大変なのにこれ以上負担が増えると無理!~これがまさに実態と言える。 昨日の報道では、後期高齢者医療保険制度でも「一定以上の所得」がある人は2割負担にすることが検討されているとのこと。介護が必要な人は医療保険も利用しているので、介護と医療、ふたつの社会保険を利用するときの負担が上がることになる。ひとり暮らしの人、高齢夫婦の場合、あるいは介護離職したり、引きこもりになっている子どもを扶養している場合はどうなのか、より丁寧な分析が必要なのは当然と考える。「一定以上の所得」がある人の支払い能力については、きちんとした調査をしていだたくことを希望する。

「認知症予防」を「予防」と言わず「未病改善」という発想で取り組む

 5日の部会では、全国知事会黒岩神奈川県知事の代理出席者である、神奈川県こども未来局高齢福祉課長の山本千恵さんによると、「『認知症施策推進大綱』にある『予防とは認症にならないという意味ではなく認知症になるのを遅らせる、認知症になっても進行を緩やかにする、という意味である』という『基本的考え方』について、神奈川県では『認知症未病改善』と表現して取り組んでいる」とのことでした。県のHPによると、「未病改善とは心身の状態は健康と病気の間で常に連続的に変化するものであり、その状態を『未病』と言います。心身をより健康な状態に近づけていくことを『未病改善』と言います」と説明されています。この取り組みに関する情報欄には「予防」という言葉は見当たりません。

 取組の内容の多くが健康づくりのメニューですが、呼びかけ文の中には、「日本認知症本人ワーキンググループ」が提唱している「備え」という言葉も使われています。

 また、「認知症の人と家族を支えるマーク」をデザイン公募の上作成し、ピンバッジなどにして普及を図っています。このピンバッジの売り上げの一部は「家族の会神奈川県支部」の活動に役立てられています。

次回の「部会」

 次回の「部会」は2019年12月16日に予定されています。(まとめと文責 鎌田晴之)

リンク:厚生労働省(部会ホームページ)

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126734.html

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