どうするつもりか介護保険制度=「改正」の動きレポート#48

【介護保険部会】編

介護保険・社会保障専門委員会

はじめに~2割負担の対象者拡大は第10期介護保険事業計画へ先送り~

 

 12月22日に、第110回社会保障審議会介護保険部会(「部会」)が開催されました。会場は「主婦会館プラザエフ 7階 カトレア」で15時から16時まで、会場参集とWEB参加のハイブリッド形式でした。「給付と負担について」の項目では、前回の介護保険部会にて予算編成過程に異例の棚上げとなった「利用者負担が2割となる『一定以上所得』の判断基準の見直しについて」の大臣折衝等の報告、第1号保険料に関する見直しの成案(標準9段階から標準13段階への見直し)、介護保険法施行規則の改正等。(報告)の項目では「地域包括支援センターにおける柔軟な職員配置について(案)」、「総合事業における継続利用要介護者の利用可能サービスの弾力化(案)」また、「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する中間とりまとめ(案)」が議論されました。


 前回、「一定所得以上の見直し」=2割負担者の対象拡大については、昨年末の「部会」がまとめた「介護保険制度見直しに関する意見」では今年の夏ごろを目途に結論を得るとされてきましたが、6月16日に「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)が閣議決定され、この件は本年末までに結論を得るとされた事を受けての審議でしたが、結論への方向性がまとまらず、「来年度予算編成過程で検討する事としてはどうか」という事務局の意向を了承する形で終わり、その後12月18日~19日にかけ自由民主党「社会保障制度調査会介護委員会」や財務省、厚生労働省の大臣折衝で現下の経済状況に鑑み今回は範囲を広げないと結論付けられました。

 今回は蓑原哲弘介護保険計画課長の説明と花俣ふみ代副代表の発言要旨を紹介しながら、配布資料及びYouTube配信に視聴参加した際のメモなどをもとに、問題点をお伝えしていきます。(囲み内が発言要旨)

朝日新聞デジタルより


1 開催案内
2 第110回介護保険部会議事次第
3 介護保険部会委員名簿

【資料及び参考資料】
  資料1 給付と負担について
  参考資料1 給付と負担について(参考資料)
  資料2 介護保険法施行規則の改正等(報告)
  資料3 「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に 関する検討会」中間とりまとめ(案)

 第1号保険料に関する見直しの成案(標準9段階から標準13段階への見直し)について【蓑原哲弘介護保険計画課長の説明】(視聴メモより)

 第1号保険料に関する見直しの成案という部分でございます。一つ目の丸のところは以前この部会でもご議論いただいておりました通り、今後の介護給付費の増加を見据えまして1号被保険者間での所得再分配機能強化とそれに応じまして、低所得者の保険料上昇を図るというような形で検討をさしていただきました。

下の方の図の方で赤字のところで書かせていただいておりますところがですね、具体的に乗率等として決定し、決めさせていただいた点でございます。(中略)下の方に1234というふうに小さい字で書かしていただいておりますがこの境界ごとの区分の間の境界の幅に関しましては100万円ずつの刻みというふうにさせていただく形にさせていただいております。(中略)低所得者の軽減を強化をするということに伴いまして現行公費で行っております低所得者の負担軽減に関する公費の一部に関しまして、現場の従事者の処遇改善を初めといたします介護に係る社会扶助の充実、介護報酬改定の財源として活用するという形の方向でご議論させていただきましたが、結果といたしましては、公費ベースで約382億円、国費で言いますと191億円に関しまして、介護報酬改定の財源という形で活用させていただくという形にさせていただきたいということでございます。ちなみにR5年度予算は低所得者の負担軽減として、国費ベースで786億円を措置させていただいとりますけれども、R6年度といたしましては191億円が減というか、その分は、介護報酬改定の財源に活用させていただきますので、6年度予算の低所得者の負担軽減としては国費として595億円という形になるということでございます。
「利用者負担が2割となる「一定以上所得」の判断基準の見直しについて」【蓑原哲弘介護保険計画課長の説明】(視聴メモより)

 この検討の方向性に基づきまして予算編成過程で調整をさせていただきました二つ目の丸のところが結果でございますけれども、結論といたしましては第9期におきましては2割負担の対象については拡大をしないということを確認した上で、この二つ目の丸のところで書かしていただいてる内容について財務大臣、厚労大臣の間での大臣折衝の中で、確認をさせていただきました。
 利用者負担が2割となる一定以上所得の判断基準の見直しについては、以下の内容につき引き続き早急に介護サービスは医療サービスと利用実態は異なること等を考慮しつつ、改めて総合的かつ多角的に検討を行い、第10期介護保険事業計画期間の開始、2027年度の前までに結論をうるということでございます。

 
(ⅰ)利用者負担の一定以上所得いわゆる2割負担の判断基準に関しましては、以下の案を軸としつつ検討を行うということでございます。具体的には

 ア案)直近の被保険者の所得等に応じた分布を踏まえて、一定の負担上限額を設けず、負担増に対応できると考えられる所得を有する利用者に限って2割負担の対象とするというもの。こちらに関しましては280万円というところの年収要件ございますけれども、それを具体的に280万円から拡大をするという額を移すというような案でございます。

 イ案)は負担増への配慮を行う観点から、当分の間、一定の負担上限額を設けた上で、より広い範囲の利用者について、2割負担の対象とする。その上で、介護サービス利用等への影響分析の上、負担上限額のあり方について、2028年度までに必要な見直しの検討を行うというもの。

 先ほどアの案では額を移すということを申し上げましたが、イ案は移す範囲に関しましてはア案よりも範囲方では、より広い範囲を設定をした上で、さらに負担上限額を設けて負担増への配慮を行うというものでございます。
 

 さらにローマ数字の(ⅱ)でございますけれども、今申し上げたそれぞれ2案(ア案、イ案)の検討に当たりましては、介護保険における金融資産の保有状況等の反映のあり方や、きめ細かい負担割合のあり方と合わせて早急に検討を開始するというものでございます。

 金融資産の関係に関しましては従前からの課題となっているところでございますけれども、もう一点観点として追加をされましたのは、きめ細かい負担割合のあり方ということでございまして、この点に関しましては部会の方でもご議論ありましたが、1割から2割ということで非常に負担が一気に拡大するということでまた2倍になるという点がございますので、1割と2割の間という負担割合のあり方もありうるんではないかということも含めまして検討を行うという形に大臣折衝事項の中で確認をさせていただいたということでございます。

 上記説明に対し、花俣ふみ代副代表理事は以下の様に意見を述べました。

【花俣ふみ代副代表の発言要旨】
ありがとうございます。本当に熾烈な攻防を経て、大臣折衝による最終的な結論についてご丁寧に報告の場を設けていただき感謝申し上げます。                                                                              大臣折衝の内容によれば第9期は判断基準の引き下げを行わないけれど、第10期が始まる前までに引き続き検討することというふうに理解いたしました。 認知症の人と家族の会は介護保険制度の創設に期待し、これまで制度のおかげで介護のある暮らしを続けてくることができています。制度には大変感謝していますが介護保険料や利用料、施設サービスなどでは家賃や食費の負担もあり、本当に支払い続けることができるのだろうかと不安を抱えている人も少なくないのです。長く利用料引き上げが審議されるのは、不安を払拭できないストレスにもなっています。制度の持続可能性とは介護をする必要とする人、介護をする人の暮らしの安定を保障することではないでしょうか?                                                                                ぜひ、私達がそれなら払えるよねという合理的で説得力のある調査をしていただき、今後の検討に当たって資料としてお示しいただくことを引き続き要望いたしたいと思います。ありがとうございました。以上です。

と、負担増有りきの議論に合わせたような資料の整合性、合理性等について指摘しました。花俣副代表は前回の介護保険部会でも調査の不十分さについて以下の発言をされています。

【第109回介護保険部会での花俣ふみ代副代表理事の意見】
「75歳以上の世帯の収入と支出の状況年収別モデルが10段階示されています。しかしこの資料では要支援・要介護の認定を受けた方々の収入と支出の状況は把握できません。また、その他消費支出に介護サービスの自己負担分が含まれるそうですが、身の回りの品や、理美容代など諸雑費や交際費、仕送り金なども合計した額ではとても介護保険の自己負担額のエビデンスにはならない、つまり、認定を受けた皆さんの収入と支出の状況が示されない限り、2割負担の方を増やして増やせるかどうかを判断することはできない。納得して受け入れることはできない」

今回、同様の意見として野口晴子部会長代理(早稲田大学理事法学学術院教授)や石田路子委員(高齢社会をよくする女性の会・名古屋学芸大学看護学部客員教授)からも指摘されています。

【野口晴子部会長代理】(視聴メモより)                                                                          やはり国民生活基礎調査この前も申し上げましたけれども、世帯表、均衡表、介護表、所得表と図表とあらゆる面でもう多角的な面で国民を調べている70万規模の非常に大きな枠組みはやはりぜひ利用していただきたいということになります。今までその介護表と所得表と貯蓄表と一緒に取ってなかったんですけれども、ぜひそこを一緒に取っていただくとともに、支出ですね、このまま今まで出された資料っていうのは総務省がやってる家計調査使ってたと思うんですけど、国民生活基礎調査では支出、家計支出の合計額しか聞いてないんですけれども、ぜひそのあたりでちょっと国民生活基礎調査を拡大させる形でですね、基礎資料をちゃんと作るために予算をちゃんと確保して、もう一度で結構なのでちゃんと多角的、多方面からのデータを同じ人について集めて実態がわかるような調査をぜひお願いしたいと思います。
【石田路子委員(高齢社会をよくする女性の会】(視聴メモより)                                                                                 負担増に対応できると考えられる所得を有する利用者これがどのような利用者なのかということについてはより詳細にきちっと実態を調査していただくということとともに、この一定以上所得という表記、これに関して国民全体が本当にしっかり納得しているのかどうか。例えばご本人もさることながらそういった介護サービス利用者の世代を親として持つ世代の方たちも、一定所得ということに関してしっかり納得しているのかどうかこういったこともきちっと調べていく必要があるのではないかなというふうに考え、感じております。

 議論は次の第10期介護保険計画へと先送りされましたが2割負担の範囲拡大の議論が消えた訳ではありません。
介護の社会化として出来上がった素晴らしいこの「介護保険」。現下の年金減額や光熱費、燃料費、食糧品等に至る物価高騰で使いたくても使えない状況にならないように、全世代の全員が納得できるような議論を出来ることを望みます。

 最後に、このレポートが、審議の全てをお伝えするものになりえないことをご理解いただき、今回のテーマを含め、取り上げていない問題にも、意見・質問がございましたらお寄せください。     

(まとめと文責 介護保険・社会保障専門委員会 和田 誠)

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