No.38–相手の立場で考えよう-「思いやり」の気持ちで

杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

人と人との付き合いは、相手の立場や気持ちをどれくらい思いやれるかによって、うまくいくかいかないが決まってくるものだ。

相手の立場に立ってものを考えるためには、それなりの知識と経験が必要だ。知識と経験の深まりが人間性を高め、人柄を決めるといってよい。

どのように深い知識や経験をもっていても、相手のことをすべて知ることはできない。自分の考え方の枠を押し付けないで、相対的な考え方、つまり寛容さが大切だ。

絶対的に正しい人はいないし、みんなから非難されていようとも、その人なりの理由はあるものだ。

例えば「世の中の人はどうして認知症問題を理解しないのだろう。家族はこれほど苦しんでいるのに・・・」と思う気持ちは分かるが、むしろ「数年前に は自分も全く関心を持っていなかった。以前と比べれば、社会的な関心は高まってきた。『認知症の人と家族の会』の活動を通して、もっと社会に訴えていこ う」と考えたほうがよい。

認知症の人の介護にあたって、理解不足からくる二つの大きな混乱がある。一つは認知症の人と介護者の間の混乱、もう一つは、介護者と周囲の人との間の混乱である。

認知症の人は知的機能の低下によって介護者の誠意や説明・説得を理解できないし、介護者もまた、この連載で取り上げてきた認知症の特徴を理解できないでいる。そのために介護では大きな混乱が生じている。

多くの場合、介護者と周囲の人たちは「認知症の症状はいつも世話する最も身近な人に対してひどく出て、時々会う人には軽く出る」という、「症状の出現強度に関する法則」を知らない。

そのため、周囲の人たちは自分たちが観察できる症状がその人の普段の状態であると思い込んでしまい、介護者の本当の苦労が理解できないという問題が存在する。

こうした理解不足を解消するにはどうしたらよいだろうか。

まずは必要に応じて知識を得ようとする姿勢が大切だ。10数年前と比べたら信じられないくらい認知症に関する書物や記事、ラジオ・テレビの特集が増えているので、気持ちさえあれば正しい知識を得るのは容易だ。

しかし、もっと重要なことは、認知症の人を「二度童(わらし)」として、赤ちゃんと同じように理解し受け入れてあげられる社会全体の寛容な雰囲気づくりであろう。

「思いやり」の気持ちで、「お互いさまです」と言い合えるような人間関係を作り上げたいものだ。


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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