No.21–思いも寄らぬ衰弱の速さ-介護期間は決して長くない

杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

「毎日6~7時間歩いても、疲れた様子もないのです。食欲は私よりもあります。とても86歳とは思えない元気さです。事故が起こってはと思って一緒に歩いているのですが、私の体がもちません。この状態がどれくらい続くのでしょうか」

「食事のとり方が悪くなったら、衰弱が急速に進行して、2週間目に亡くなってしまいました。以前、先生から、認知症の人の衰弱の進行は速いといわれていましたが、こんなに速く衰弱が進むとは正直思っていませんでした」

「義母の介護を始めてから17年目になります。話しかけてもうなずくだけで、穏やかな状態です。昔は憎らしかった姑がいとおしくなりました」

認知症の人と家族の会などが行う、介護者のつどいでは、このような会話が日常的に交わされている。

「認知症の人の老化の速度は非常に速く、認知症のない人の2~3倍のスピードで進行する」という特徴がある。私はこの特徴を、「衰弱の進行に関する法則」と名付けている。

高齢者を四つのグループに分け、それぞれのグループの年ごとの累積死亡率を5年間追跡調査した結果(長谷川和夫前認知症介護研究・研修東京センター 長)によれば、認知症高齢者グループの4年後の死亡率は83.2%で、正常高齢者グループの28.4%と較べると約2.5倍になっていた。

さらに、認知症グループホームなどの利用者の変化をみると、はじめは元気で行動的であった人が、数年経過すると動きが悪くなって通所できなくなる例や、買い物、配膳などの共同生活ができていた人が室内に閉じこもるようになり寝たきりになる例などは決して少なくない。

したがって、何年何十年にわたって介護し続けなければならないのかと思い悩んでいる家族に対して、私は次のように説明することにしている。

「同じ年齢の正常な人と比べると、認知症の人の場合、老化が約2~3倍のスピードで進むと考えて下さい。例えば、2年たてば4~5歳年を取ったと同じ状態になりますから、看てあげられる期間は短いのです」

ただし、アルツハイマー病でも非常に速く進行する例もあれば、20年間にわたって穏やかに進行する例もあるように疾患そのものの性質によって変わっ てくるし、落ち着いた環境で適切な介護によって経過がゆっくりすることもあるのでこの特徴はすべての認知症に当てはまるわけではない。


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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