No.16–No.三者の関与で解決する-「業務」という理解も必要

杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

「洗面・洗髪、入浴を嫌がり、家族がどんなに説得しても聞き入れないのです」「大事な年金を使い込んでいると言って一日中私を非難します」など、認知症の人のこだわりに、家族では対応できない場合がある。

このような時には「第三者に登場してもらう」のがよい。「身近な人に激しい症状を示し、他人にはしっかりした言動をする」という認知症の特徴を応用するのだ。

家に閉じこもっていて、数ヶ月間入浴や洗髪をしない女性がいた。家族が「お風呂に入らないと病気になるよ」と勧めても入ろうとしないし、無理に入れようとすると大暴れする。家族から相談をうけて私が訪問診療をすることにした。

しばらくすると私の訪問を心待ちにするようになった。すると、訪問診療の前日には、入浴して清潔な下着に着替え、さらに美容院にも行くようになった。薬を処方した訳でもないのに、見違えるような変化に家族は驚いた。

高齢者は律義な人が多い。身奇麗にして診察を受けなければならないという思いを持っている。認知症になってもこの気持ちが働いて、診察の前に身奇麗にするという行動に結び付いたのだろう。

認知症相談に26年間携わってきた。当初は入浴拒否の相談が多かったが、最近はずいぶん少なくなった。デイサービスや入浴サービスでスタッフがかかわることで入浴する人が多くなったためであって、認知症の人が全員、風呂好きになったのではないと思っている。

着物がひどく汚れているので、お嫁さんが新しい着物を買ってきて勧めても、絶対に着替えようとしない人がいた。

実家を訪ねてきた娘に「お母さんに似合う着物を買ってきたので、着てみてね」と勧めてもらったら、同じ着物を抵抗なく着て、以後着続けたという。

「年金が無断で遣われている」と思い込んでいる本人に対して、当事者である家族が通帳を見せながら、「1円も引かれていないでしょう」と説明しても信じない。

しかし、郵便局員や銀行員が「大丈夫ですよ」と言うと安心する。いわゆる社会的権威者や目上の者などのいうことは受け入れやすいので、そのような人物が登場する場面を作ることで、こだわりが軽くなるものだ。

認知症の人が今後激増するのは間違いないので、郵便局員も銀行員もお巡りさんも病院の先生も「認知症の人と上手に付き合うことも業務の一つ」として理解してほしい。


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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