介護保険・社会保障専門委員会

はじめに

 

第185回厚生労働省社会保障審議会給付費分科会(分科会)は、9月14日午前9時半から12時までの予定でオンライン会議が行われ、会議中の時間帯のみライブ配信という形で公開されました。議題は、令和3年度介護報酬改定に向けて(自立支援・重度化防止の推進)でした。内容は、1介護の質の評価と科学的介護の推進 2リハビリテーション・機能訓練等 3口腔・栄養 4重度化防止の推進について、の4項目でした。

以前にも説明しましたが、この審議会は26人で構成し、時間が2時間(今回は1時間半)しかないため、冒頭の事務局説明を除けば意見交換は概ね90分、一人3分の持ち時間での発言ですから、「要旨」に成らざるを得ません。今回も、その「要旨」に注釈を添えながらのレポートになります。

鎌田松代事務局長の発言要旨 

1.最初に申しあげたいのは、「地域包括ケアシステムの推進」にある「在宅介護の限界点」についてです

在宅介護をする家族は、毎日がぎりぎりの生活です。

しかし、「限界」を問われれば、まだ、続けられるのではないか、だいじょうぶではないか、あるいは本人が施設や居住系サービスを嫌がっているのだから頑張らなければ、と繰り返し考え、悩みます。「在宅介護の限界点」の引き上げるには、在宅サービスの充実が必須条件で、ホームヘルプ・サービスやデイサービス、ショートステイなど基本的なサービスを安定的に提供することで、そのために介護スタッフを増やすことだと考えます。

【注】「在宅介護の限界点」は、介護家族によって様々なわけですが、「施設入所」や「介護離職」等を選択せざるを得なくなる状況にある、という事でしょう。2017年には、『介護離職の観点も含めた介護サービスの在り方の把握方法等に関する調査研究事業』で在宅限界点の向上のための支援・サービスの提供体制の検討」が行われました。

 

しかし、現在、厚生労働省は、要介護認定になっても、ホームヘルプ・サービスとデイサービスの個別給付をすることなく、総合事業に留めていいという省令改正を予定し、9月23日までパブリック・コメントを募集していました。

私たちは、本当に驚きました。

総合事業は要支援認定を受けた人が対象で、提供されているのは訪問型サービス、通所型サービスです。市区町村の事業なので、事業所を選ぶことはできず、必要な回数を求めることもむずかいしいという声が届いています。新型コロナウイルスの流行では、代替サービスなく休業しているところもあると聞いています。

残念なことに、総合事業の調査は今年度に実施され、全国的な状況がわかるのは来年とうかがっています。実態を確かめないままの改正には疑問を持たざるを得ません。

この省令改正では、要介護認定の人が総合事業を利用するのは、「利用者が希望した場合」あるいは「市区町村が判断した場合」としています。しかし、ひとたび、市区町村の判断で、個別給付しなくていい、市区町村が運営する総合事業でいいとなれば、「在宅介護の限界点」にあっという間に到達してしまう危険性が高いと思います。

また、省令改正で、認定を受けても個別給付しなくていいというのは、介護保険の根幹に関わることではないでしょうか?

【注】要介護認定の人が総合事業を選択した場合、被保険者としての権利である「保険給付」を受けられない可能性が生じます。それは、総合事業が、上限のある予算の範囲内で、市区町村の判断で運営されるため、「保険給付」のように義務的保障では無いためです。

「家族の会」は省令改正に反対であることをまず、申し上げます。

【注】「家族の会」は、9月18日に『要介護認定者の総合事業移行は絶対に認められない~要介護者の介護保険外しに道を拓く「省令改正」は撤回すべき~』という声明文を田村厚生労働大臣に提出しました。 http://www.alzheimer.or.jp/?p=36268  (PDFダウンロード:https://bit.ly/2RAyuu3

2.「自立支援・重度化防止の推進」で、要介護度の改善にインセンティブ導入には違和感

要介護度が改善するのは本人、家族にとっても嬉しいことです。

しかし、高齢期に介護が必要になり、近い将来の看取りを意識しながら暮らしている人たちに、サービス提供事業者が良くなることを競うことには、違和感があります。

特に認知症は進行性の疾患であり、要介護度の改善にはなじまないと考えます。

 

【注】このテーマのキーワードに、「介護の質の評価」と「科学的介護」があります。  「介護の質の評価」については、2006年から審議課題になっており、最新の2018年審議報告では次のようにまとめられています。 『2020 年度の本格運用開始を目指すこととされているデータベースの構築により、介護の取組とそのアウトカムの関連の分析等を加速し、さらなるエビデンスを集積して、科学的な効果が裏付けられた介護サービスについて、介護報酬上の評価を検討するべきである。』 「科学的介護」については、2017年から厚労省内に「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」が設置され、2019年に「とりまとめ」という報告書が出されています。 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-rouken_485753.html  
また、今回の資料10頁には、2009年の老健事業報告書「介護サービスの質の評価のあり方に係る検討に向けた事業報告書」にある課題が紹介されています。 『③事業所の努力や責任の及ばない要因の影響(例えば、家族や本人の努力)により、高いアウトカムが得られることがあり、アウトカムが事業所のサービスの質を反映しているとは限らない。 ④ 居宅サービスの利用者は、様々なサービスを組み合わせて利用している場合が多く、要介護度や自立度等の指標が改善したとしても、提供される介護サービスの中のどのサービスが効果的であったかの判断が困難である。』 評価基準設定の困難さが伺えます。

3.要介護度の改善にお金を出すということは、サービスが減っても利用料は変わらない、あるいは増えることになります

この点でも、利用者や介護者の納得が得られるのか疑問があり、慎重に議論していただきたいと思います。加えて申し上げれば、年金収入は増えることはなく、特に国民年金のみで暮らし、預貯金も少ない人にとって、介護保険サービスは経済的なハードルが高いものです。

インセンティブの導入に限らず、介護報酬の引き上げの検討は、利用者負担の増加につながります。特に、現在、ぎりぎりの家計でサービスを利用している人たちに対して、補足給付や高額介護サービス費の充実とともに、新たな経済的な配慮もあわせて検討していただきたいと思います。

【注】ニッセイ基礎研究所の調査{認知症介護家族の不安と負担感に関する調査}(2019年、インターネット調査、有効サンプル2000)によれば、「介護資金の出所」として、「月々の生活費の中から」が74%、その他「老後資金」「介護資金」を取り崩している家族も少なからずあり、「自身の生活設計に与える影響が大きい」と報告しています。

 

4.加算について申し上げます。現在のような加算が必要でしょうか

家族・本人からすれば制度を複雑にし、わかりにくくしています。加算は介護サービスの質の向上を前進させるためのものと思っています。しかし、各種の取得率は概ね低く、職員が加算のため、書類作成に追われている現状が見え隠れします。効果測定の際にこの加算とサービスの質の向上を職員がどう思っているのかも調査項目入れていただけると加算の全体が見えるように思います。家族・本人は職員の笑顔が好きです。職員も利用者の笑顔やありがとうを励みに仕事をしていると聞きます。その笑顔が失われるような加算の仕組みでサービスの質の向上が図れるのか疑問です

介護保険制度20年目の今年、この数々の加算の仕組みとサービスの質について見直すべきと考えます。

【注】審議会での意見紹介として(当日資料5ページ) 『ADL維持等加算について、Barthel Indexを評価指標として使っていくことは、介護現場における使用率等からも適当なのかどうか。当該指標には認知症の評価が入っていないため、この点についても検討が必要ではないか。』 Barthel Index(バーセル指標)は、日常生活に必要な動作を10種類に分類し、評価の対象としています。10種類の動作とは、食事、移乗(椅子とベッドの間)、整容、トイレ動作、入浴、移動(歩行や車いす)、階段昇降、更衣、排便自制、排尿自制です。 ちなみに、2019年4月のサービス提供分における「ADL維持加算」の使用率は、通所介護で2.6%、地域密着型通所介護では0.3%です。(介護給付費分科会-介護報酬改定検証・研究委員会 2020年3月26日)

7月17日に発表された「経済財政運営の基本方針2020」(骨太の方針2020)では、「新たな日常に向けた社会保障の構築」をうたっていますが、中身は「骨太の方針2018、2019の内容に沿って」とされており、「制度の持続性」と「給付と負担の在り方」の課題は堅持されたままです。コロナ禍で露呈した、現行介護保険制度の脆弱性をそのままにした「改革」が、私たちの日常を支えるものになるのか疑問だらけの審議が続きます。引き続きご注目下さい。

                (注記、まとめと文責  鎌田晴之)