どうするつもりか介護保険法=次期改正の動きレポート#17

介護保険・社会保障専門委員会

 はじめに

 第91回厚生労働省「社会保障審議会介護保険部会」(部会)は、7月27日午後2時から4時まで、WEB会議形式で行われ、会議時間中に限りYouTubeで配信されました。

議題は(1)地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律(令和2年法律第52号)について(報告)(2)基本指針(案)について (3)「介護保険制度の見直しに関する意見」を踏まえた医療療養病床等から介護医療院等への移行の扱いについて (4)匿名要介護認定情報等の提供に関する専門委員会(案)の設置について (5)「要介護者等に対するリハビリテーションサービス提供体制に関する検討会」報告書について(報告)です。

「重層的支援体制整備事業」~社会福祉法等の一部を改正~

来年4月に施行予定の「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」とは、「地域共生社会」の実現をめざして、「地域住民」の多様な支援ニーズ、つまり従来のように「子ども」「高齢」「障害」「生活困窮」といった分野ごとの支援体制から「属性を問わない支援体制」に作り替え、それぞれの制度が持つ補助事業を一体的に「執行」できるようにする。そのために「相談支援」+「参加支援」+「地域づくりに向けた支援」を組み合わせた「重層的支援体制整備事業」を市町村の「手上げ方式」による任意事業として創設。さらに「地域の特性に応じた認知症施策」「介護サービス提供体制の整備等の推進」「医療・介護の データ基盤の整備の推進」「介護人材確保及び業務効率化の取組の強化」「社会福祉連携推進法人制度の創設等の所要の措置」が、趣旨として列記されています。

この「法改正」で、認知症施策に関しては…

「国・地方公共団体の努力義務として、地域における認知症の人への支援体制の整備や予防の調査研究の推進等の認知症施策の総合的な推進及び認知症の人と地域住民の地域社会における共生を追加」また 『介護保険事業計画の記載事項として、他分野との連携など、認知症施策の総合的な推進に関する事項を追加』されましたが、来春の法施行後に「努力義務」がどのように果たされるかを注視していく必要があります。

花俣ふみ代副代表の発言要旨

 今回も膨大な資料を読み込みながら、WEB会議のため5~6分という限られた発言時間を駆使して行われた発言を要約してお伝えします。文中の「資料」は、このレポートの最後に記されたURLでご確認ください。

資料1 地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律(令和2年法律第52号)について(報告)

 重層的支援体制整備事業について

資料1の報告事項 2ページにある「社会福祉法に基づく新たな事業の創設」として、「属性や世代を問わない相談」にするため任意事業が創設されることになっています。縦割りの個別分野でも8050問題やダブルケア、ごみ屋敷など相談や対応、あるいは支援が困難な事例がたくさんあり、多様な困難に対して、「属性や世代を問わない相談」が整備されることは理想ですが、体裁だけを整えるのではなく、実質をともなう相談体制を整えるために、急ぐことなく、地道な準備と構築への道筋をつけること。合わせて7ページの衆議院附帯決議にあるように、「必要な予算」は別に確保していただけるよう切に希望します。

また、重層的支援体制整備事業に交付金を用意することになっていますが、介護保険料の投入も予定されていると思います。現在、地域支援事業では総合事業サービスとして、要支援1と2の人たちに訪問型サービス、通所型サービスが提供されています。要支援認定のみなさんのホームヘルプ・サービスとデイサービスが給付からはずれ、総合事業サービスへの移行の検証もまだないなかで、新たな任意事業にお金がまわされて、事業費が削減されることも危惧します。(*ゴシック部分は、時間配分上割愛した予定発言です=以下同じ)

資料2 基本指針(案)について

介護保険事業計画について

来年度からの第8期(2021~2023年度)の介護保険事業計画のガイドラインは、被保険者にとっても介護保険料がいくらになるのか、サービスがどのくらい整備されるのか、関心をもつべきものだと思います。

4ページに今期、第7期の基本指針のポイントが示されていますが、特に「4.介護を行う家族への支援や虐待防止対策の推進」、「5.『介護離職ゼロ』に向けた、介護をしながら仕事を続けることができるようなサービス基盤の整備」は3年間でどのくらい進めることができたのでしょうか?

今年は新型コロナウィルスの流行があり、九州では豪雨被害が広がっていますが、いわゆる災害において高齢者はハイリスクを抱えることになります。リハビリテーションが大切であっても、介護保険では、閉じこもり気味になったり、病気や障害が重くなっている人たちへの支援が欠かせません。充分に目配りをしていただきたいと思います。

基本指針(案)の新旧対照表について、いくつか申しあげたいと思います。

54ページに「訪問型サービス等の総合事業については、地域において、NPOやボランティア、地縁組織等の活動を支援していくことが重要である」とあります。

訪問型サービスが研修を受けたホームヘルパーではなく、ボランティアで代替できるような表現であることに危惧を抱かざるを得ないこと、また、前段に記載のある「介護人材~」とはあくまでも専門的な職業であり、ボランティアで代替できる仕事はないこと、今まさにコロナ禍のさなかにあっても介護現場で働いておられる方々の名誉と尊厳のために、あらためて強調しておきます。

もうひとつ、生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)と就労的活動支援コーディネーター(就労的活動支援員)に言及がありますが、このふたつのコーディネーターは専門職の位置づけなのか、ボランティアの位置づけなのか、確認をさせてください。これは質問です。

【この質問に対して担当者の回答(厚生労働省HPの議事録P28-29より)】

 生活支援コーディネーターや、今回の就労的活動支援コーディネーター、この方々が専門職なのかボランティアなのかという御質問をいただきました。 結論からいえば、この方々、市町村に配置をされる専門職の方々ということになります。 この指針の案の53ページ、54ページが総合事業の部分になりますが、その中 で、生活支援コーディネーターさんなり、就労的活動支援コーディネーターさんが出てくるのは、こういった方々の活動を通じて、地域でどのようなニーズがあるのか、地域でどのような資源があるのか、こういったものをしっかり把握した上で地域支援事業をやっていただきたい、総合事業をやっていただきたい、そういう文脈で出てきているものでございます。 実際に、御利用者といいますか、住民の方々の個別の生活支援を行うというのは、また、専門のヘルパーの方もおられますし、その人の状態によっては、 ボランティアさん、そういった方を活用することもできると、そういう趣旨で、両者が同じ位置に書かれているということでございます。 説明は、以上になります。

事前に用意していたが、時間の関係で発言に至らなかった内容

総合事業サービスについて

57ページの最終段落に、「市町村の判断により、希望する居宅要介護被保険者が総合事業を利用することは可能」とあります。この「居宅要介護被保険者」というのは、要介護認定(要介護1~5)のみなさんを指すのでしょうか? 

また、市区町村が、要介護認定のみなさんを給付の対象としなくてもいいということなのでしょうか?

*発言できませんでしたので、この問いに対する回答もありませんが、この問題を日本医師会の石澤委員が発言していますのでご紹介します。

<江澤委員発言より抜粋>

今回の総合事業において、介護の認定が出た後も、引き続き利用者の希望に応じて総合事業のサービスを利用することが可能となるという旨が決まっております。 それを踏まえて、こちらに介護保険給付と総合事業を組み合わせたケアプランの作成も含め、ケアマネジャーによるケアマネジメントを通じて適切な事業の利用が確保されることが重要であると書いてありますけれども、これは、本来、要介護認定になったということは、何らかの状態の悪化があったということでございますので、この辺りは慎重に、本人の自立支援と尊厳の保持という介護保険の目的に向けて本人に必要な介護保険の給付サービスが当然必要でありますので、ここで、当然、慣れ親しんだコミュニティのできている総合事業を引き続き使うことは、本人の希望によって、これは尊重すべきでありますけれども、本来は、やはり介護保険サービスを使って、またお元気になっていただくということが重要でございますので、これを積極的に行うというよりは、御本人の希望によって、たまたまあるというケースではないかと議論もなっていたと思いますので、その辺りは、よろしくお願いしたいと思います。

コロナ禍の影響を配慮しての実態把握を

「指針の見直し」、96ページには、各サービスにおいて、「現に利用している者の数」を勘案するとしています。が、2020年は新型コロナウィルスの影響により、利用控えをしている利用者が相当数いると思われます。この特殊な事情について、2021年度からの計画においては、きちんと配慮されることを希望します。

最後に、認知症施策の推進に関してはP17・60・90それぞれに新設の項目が記載されています。

特に60ページ中ほど、(一)普及啓発・本人発信支援の ロ)には*世界アルツハイマーデー(毎年九月二十一日)及び月間(毎年九月) などの機会を捉えた認知症に関するイベント等の普及啓発の取組実施(認知症の人本人からの発信の機会の拡大も含む)とあります。

世界アルツハイマーデー/月間は、認知症に関わるすべての人のものです。

当会では、1994年世界アルツハイマーデー制定以来、既に25年にわたり認知症の普及啓発活動に取り組んでおります。家族の会は特別な人々の代表としてこの席にいるわけではなく、誰でもが私と同じ立場になる可能性大と捉えていただき、今一度自分事としてこの機会を利用し、認知症の理解を深め、正しい知識を学び、介護家族と本人への支援を考えていただきたいと願っております。                  以上   

「訪問介護職等のための感染防止対策動画」について

 現在、ホームヘルパーやデイサービスの職員のみなさんは、不安を抱きながら、介護が必要なみなさんを支えてくださっています。

 医療とは違い、介護労働者は利用者の生活を支える専門家であり、感染症などには無防備な面もあります。22ページにあるように、ていねいな感染防止対策動画を制作されたことで、安心できたホームヘルパーも多いのではないかと思います。

 ただし、ひとつの作業を終了するたびに手洗いをするのでは、滞在時間が足りないという声も聞いています。

 介護保険部会のテーマではないかも知れませんが、訪問介護の滞在時間を増やす必要があることを指摘しておきたいと思います。

(*残念ながらこの発言もできませんでしたが、大事な指摘だと思います)

資料等の情報は以下のURLでご確認ください

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126734.html

  (まとめと文責 鎌田晴之)

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