杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

「母がデイサービスに行っている間、さみしがっていないかしら、家に帰りたいと言っているのではないかしらと、いつも気になっていて気持ちが落ち着きません」

「初めてショートステイを利用した時、親せきから『老人ホームに預けるなんて、あなたはお世話する気があるの』と激しく非難されました。それ以来、どんなに疲れていてもショートステイを利用しませんでした」

介護保険などの介護サービスが充実しても、それを利用することへのためらい、気兼ね、遠慮といった「心理的ハードル」が高ければ、せっかくの制度も利用されない。

心理的ハードルの高さは、社会的な理解度だけでなく、個人の性格・経験・考え方、第三者によるアドバイスの有無によっても変化する。

川崎市でホームヘルプサービスが制度化されて間もないころ、ある介護者は「ヘルパーさんがくる日は朝早く起きて家の中を掃除しておくのでかえって大変です」と話した。

笑い話のようだが、私が実際に何例も経験したことである。当時は他人が家に入って来る場合、玄関か居間までであって、台所や寝室などに入り込むことに心理的な抵抗感を感じたのだ。

20年後の今日、在宅介護サービスの中で訪問介護は最もよく利用されるサービスになった。介護保険制度になってから特に、訪問介護を積極的に利用し介護の負担を軽減して気持ちの余裕を得ようとする家族が多くなってきた。

親戚の目や世間体を気にし始めると心理的ハードルが一気に高まる。「他人は他人、自分は自分だ」「いずれ皆わたしと同じ経験をするのだ」などと割り切ると楽になる。

知識を豊かにすること、人々とのつながりをもつこと、過去にこだわらないで現在を認めることも心理的ハードルを下げるのに有効だ。一度サービスを使って楽になる経験をすることは、次の利用を後押ししてくれる。

同じ悩みをもつ家族の会に参加して気が楽になり、介護サービスを利用する気持ちになった人もいれば、ケアマネジャーから紹介された介護用品を使いながら介護の負担を軽くした人もいる。

そうした、さまざまな体験を通して、介護者は心理的ハードルを乗り越えながら、上手な介護を続けていくのである。

保健師や医師、サービスを提供するスタッフが勧めることによっても、心理的ハードルを低くできる。サービスの量的・質的充実させることも大事だが、利用しやすい環境作りを配慮しなければ本当の援助にはならない。


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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