No.32–理解の深さで関係が変化-最終ステップは「受容」

杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

介護者がたどる4つの心理的ステップとその特徴をみていく。

最後の第4のステップは、認知症に対する理解が深まって、認知症症状を呈している認知症の人の心理を自分自身に投影できるようになり、あるがまま家族の一員として受けいれることができるようになる段階である。

この段階を「受容」と呼ぶ。介護というきびしい経験を通して、人間的に成長をとげた状態といってよい。

第1ステップ、第2ステップでは、認知症の人を見る介護者の目が異常な言動にばかり向いていたのが、第4ステップでは残された能力や優しい表情などのよい点に向くようになる。

そこに至ると、「わたしが赤ちゃんのときには、夜泣きしておっぱいをせがんだり、おしっこやウンチを好きな時にした。また、はいはいが始まったとき 目を離せなかったものだ。よく考えれば、今のお母さんの夜間不眠、失禁、室内徘徊と同じこと。お母さんは文句も言わず私を育ててくれたのだから、今度は私 がお世話してあげよう。認知症の人を二度童子(わらし)と呼ぶけれど、本当にそのとおりだ」ということに気がつく。

4つのステップの特徴を認知症の理解という観点から考えると、それぞれのステップで質的な変化をみることができる。

認知症の症状は第1ステップ「戸惑い・否定」にある人にとっては「奇妙で不可解で縁遠いもの」。第2ステップ「混乱・怒り・拒絶」に進むと、「異常で困惑させられる行動の連続」と受け止めるようになる。

第3ステップ「割り切り、あるいはあきらめ」では「年をとってきたためのやむをえない言動」としてとらえるようになる。

第4ステップでは、「いろいろな症状を示す本人の気持ちがよく分かる。自分も認知症になるかもしれないので、その時のことを考え、一生懸命介護してあげたい」と言えるような「人間的、人格的理解」に到達する。

つまり認知症への理解の深さが、認知症の人と介護者との関係を質的に変化させるのである。

認知症の人と介護者の関係を固定的に考えたり、介護の難しさは「認知症評価スケール」で表わされるような知的機能の低下の程度と比例すると考えてたりする人は少なくないと思われる。しかし私にはそれが正しいとは思えない。

認知症の理解と援助の輪という要因に影響されてたどる心理的ステップのどの段階にいるかによって、介護者の混乱は軽くにもなるし、重くにもなる。そう考えるのが正しいのではないだろうか。


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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