No.19–一手だけ先手を打つ-介護負担を軽くしよう

杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

激しい症状であっても数回で終わってしまうものなら、介護者の混乱は軽くてすむ。対応しても効果がなく、しかもいつまで続くか分からない場合には混乱と悩みが深くなる。「こだわりの法則」への理解が重要になる。

第6番目の対応の仕方は、「一手だけ先手を打つ」という方法である。具体的には、症状を抑えることができなくても、症状からくる介護負担を軽くするため「手をうつ」こと。

失禁が始まると、介護の手間が飛躍的に高まる。畳の上で大便をされたら後始末に非常に手間がかかるだけでなく、再び失敗されたらたまらないという精 神的なストレスが高まる。私は介護者に、「タイミングを合わせてトイレに誘導することは介護の視点では良いことですが、24時間一人で実行することは大変 です。それでも失敗が起こることがあります。畳の上に水を通さない上敷きを敷いたらどうでしょう。始末が楽になりイライラが軽くなりますよ」と話してい る。失禁という症状を抑え込むことができなくても、後始末が簡単だと思えるだけで精神的なストレスは軽くなるものだ。

手に付いた大便をトイレの壁やタオルなどの塗りつけて汚すことを、弄便という。「便を弄ぶ」と書くが、認知症の人がわざわざもてあそんでいるのでは ない。手にべっとりした物が手に付くと、誰でも、思わず手を拭ってしまうものであるが、同じように、手に付いた便を、便と理解できないままぬぐっただけの ことだ。介護者にいじわるするために行っているのでは決してない。叱っても効果がないし、「そんなことをした覚えがない」と否定されると介護者の怒りが増 すだけだ。トイレの壁に紙を張っておき汚されたら取り換える、汚されてもよい布やペーパータオルを掛けておき、家族が使うタオルは別に置いておくようにし たほうがよい。紙の張替などの手間がかかるが、汚れた壁を雑巾で拭き取るよりも断然楽である。

郵便物をしまいこむ症状がある場合、大事な郵便物を紛失されると大変だ。対応法としては、郵便が届く時間を計って大事な郵便物を取り出す(不要なものは残しておいて)、郵便受けを別に設置するなどの対策をとるのがよい。

「先手をうつ」という方法は、症状を直接直すのではないので、歯がゆく感じるかもしれない。いずれにしても「症状はいつまでも続かない」ので、最も現実的な方法のひとつと言えよう。


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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