杉山Drの知っていますか?認知症当会副代表理事の杉山孝博Drによる連載です。全52回、毎週日曜日と水曜日に新しい記事を追加します。


公益社団法人認知症の人と家族の会副代表理事・神奈川県支部代表

公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問
川崎幸クリニック院長

杉山 孝博

年とともに物忘れが目立つようになると「自分も認知症が始まったのか」と心配になるように、記憶障害が認知症の最大の特徴であることはよく知られている。そして、認知症には例外なく見られる症状だ。

普通の物忘れと違い、認知症の記憶障害には、「記銘力低下」(ひどい物忘れ)「全体記憶の障害」(体験を丸ごと忘れる)「記憶の逆行性喪失」(現在 から過去に向けて記憶を失っていく)という特徴がある。この3つの特徴を頭に入れておけば、認知症の症状がよく理解できるようになる。

ところで、まず私たちが心得ておかなければならないことは「記憶になければその人にとって事実ではない」ことだ。見知らぬ人から「先日貸した金を返せ」と言われても、記憶になければお金を借りたことを決して認めないだろう。

しかし、交通事故やてんかんの大発作などのため逆行性健忘になり、金を借りたという記憶を失った人は、実際にはお金を借りていても、借りたことを覚えていないため、同じ態度をとるはずだ。

周りの者にとっては真実であっても、本人には記憶障害のために真実でないのが、認知症では日常的であることを知っておくことは大切だ。

今見たこと、聞いたこと、話したことを直後に忘れる、つまりひどいもの忘れが、記憶障害の第一の特徴だ。同じ話を何回も繰り返し話すのは、その度に忘れてしまい、毎回初めてのつもりで話しかけているに過ぎない。

しかし、同じ話を聞かされている者はたまらないので、「何度も同じ話をしないでよ」と言うと、本人は「まだ一言も話してないのに、私が何回も話したなんて嘘を言うのだろう。嫌な人だ」と反応してしまう。それよりも、「ああ、そう」と適当に聞いていれば穏やかな状態が続く。

物忘れのために同じことを繰り返すのは、認知症の人ばかりではない。「年寄りの話はくどい」と言うが、話したことをふっと忘れて2、3回繰り返すに過ぎないのであって、相手の頭が悪いから何度も言っておかなければならないと考えてのことではない。

外出の時、ガスの元栓を閉めたかどうか気になり、処置したことを思い出せなかったら、必ず台所に戻って確認するはずだ。気になることを忘れた場合に、繰り返すのは人間の本性である、と知ることは重要だ。

「同じ状態になれば自分も同じことをする」と思うことで、認知症の人の気持ちが理解でき、イライラが軽くなるのは間違いない。


杉山孝博:

川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院で内科研修後、患者・家族とともにつくる地域医療に取り組もうと考えて、1975年川崎幸病院に内科医として勤務。以来、内科の診療と在宅医療に取り組んできた。1987年より川崎幸病院副院長に就任。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立され院長に就任し、現在に至る。現在、訪問対象の患者は、約140名。

1981年から、公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)の活動に参加。全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。公益財団法人さわやか福祉財団(堀田力理事長)評議員。

著書は、「認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント」(PHP研究所)、「介護職・家族のためのターミナルケア入門」(雲母書房)、「杉山孝博Drの『認知症の理解と援助』」(クリエイツかもがわ)、「家族が認知症になったら読む本」(二見書房)、杉山孝博編「認知症・アルツハーマー病 介護・ケアに役立つ実例集」(主婦の友社)、「21世紀の在宅ケア」(光芒社)、「痴呆性老人の地域ケア」(医学書院、編著)など多数。


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