公益社団法人認知症の人と家族の会では、2011年4月13日、厚生労働大臣宛に「認知症の人も家族も安心して暮らせるための要望書」を提出しました。

要望内容についての解説付きのものについては、次のPDFをご覧下さい。

PDF:認知症の人も家族も安心して暮らせるための要望書(解説付き)

2011年4月13日
厚生労働大臣 細川 律夫 様

公益社団法人 認知症の人と家族の会
代表理事 髙 見 国 生

認知症の人も家族も安心して暮らせるための要望書

今後のさらなる高齢化の進展とともに、認知症の人が増え続けるのは明らかであり、認知症問題に関しては介護・医療、さらには社会保障の在り方までもが問われる課題が山積しています。加えて本人を取り巻く地域社会や家族形態の変化によって住み慣れた地域で暮らし続けることが難しくなっている現状があります。
認知症の人と家族の会では、2010年8月から11月の間、会員と認知症介護に携わる当事者を対象に介護者生活実態調査を行いました。寄せられた介護家族の声は、介護保険制度における「認知症の人本人」への支援とともに、介護保険制度には組み入れられていない「介護家族への支援」が欠かせないという認識を強くするものでした。
また、2010年12月には「若年期認知症に関する要望書」を本人の思いを添えて提出し、若くして認知症を発症した人と家族の困難な現状に即応する施策の充実をお願いしたところです。
「家族の会」ではこれまでにも「提言」として、認知症があっても安心して暮らせる社会の実現のための介護保険制度のあるべき姿を示してきました。
これらに加えて、今回の介護者生活実態調査を通して見えてきた、認知症の人と介護家族の願いをご理解いただき、認知症に関わる施策の充実を図っていただくよう以下のことを要望いたします。

Ⅰ 介護保険制度への要望

「提言・私たちが期待する介護保険2009年版」などで示した考えに基づき、次の項目を要望します。

1  介護保険が認知症の人と家族にとって安心できる制度にすること
2  介護保険創設の際には想定されていなかった認知症初期の人に対するサービスを早急に充実すること
3  要介護認定と支給限度額のあり方について、廃止も含めて抜本的な検討を行うために介護の当事者を含めた検討会議を発足させること

その結論を得るまでの経過的措置として
①    認知症があると認められる場合、要介護1以上と認定することを周知徹底する
②    在宅で要介護4、5の人が限度額を超えて利用する場合は、全額自己負担ではなく介護給付を認める
③    要支援1、要支援2も介護給付の対象とする
4  認知症の人の通院時の院内介助や一般病院入院時に、ホームヘルパーの付添を認めるなど対応の改善を図ること
5  要支援1、要支援2を介護保険からはずすことには反対だが、介護予防・日常生活支援総合事業(仮称)の実施にあたっては、保険者判断によるのではなく利用者が選択できるものとすること
6  必要な訪問介護の利用は同居家族の有無にかかわらず認めること
7  介護サービス利用者に作業報酬を支払うことを認めること
8  地域包括支援センターのすべてに「認知症連携担当者」を配置するなど、地域のコーディネート機関として充実させ、介護保険給付実務は業務からはずすこと
9  新設される「認知症地域支援推進員」は地域包括支援センターの「認知症連携担当者」とは別制度とし、すべての市町村に配置すること
10  介護支援専門員がケアマネジメント能力を高め、中立公正で専門性が発揮できる体制とすること。サービス利用に至るまでの相談支援にも報酬を認めること
11  小規模多機能型サービスが安定して運営できるよう、介護報酬の引き上げ、デイ・泊まり・訪問の制約の見直しなど、必要な措置を継続的に行うこと
12  待機者42万人といわれる特別養護老人ホームの整備を公的責任において促進すること
13  24時間対応の定期巡回・随時対応型サービスの導入の際は認知症の人に有効に対応するため従来の滞在型も強化すること
14  介護療養病床の利用者には、制度の推移にかかわらず、現状と同等の必要な医療と介護を保障すること
15  介護従事者の賃金、労働条件の改善を継続的に図るために、利用者の負担を増やすことなく、必要な対策を行うこと。処遇改善交付金は一般財源で継続すること
16  認知症介護従事者研修をすべての介護保険事業所の管理者・職員に義務付けるとともに研修内容の充実を図ること

Ⅱ 若年期認知症・認知症と診断された本人への支援について

2010年12月24日に提出した「若年期認知症に関する要望書」(別掲)に加え次のことを要望します。

1 全国調査を行い、実態に対応した対策をとること
2 趣味や社会参加などで外出する際に支援を行うこと
3 成年後見制度を利用しやすくし、権利が守られるようにすること

Ⅲ 家族介護者支援について

家族介護者支援を、本人支援とともに介護の社会化をすすめる両輪として位置づけ、施策をすすめることを要望します。

1  家族介護者が介護による社会的不利益を被ることなく、仕事・余暇・教育・社会参加ができ、「生活の質(QOL)」を保障する情報提供や制度設計、支援策を行うこと
2  仕事を持つ介護者が就労継続できるよう、多様な就業形態の工夫や介護休暇制度の活用等を促進する施策を行うこと
3  すべての都道府県、政令市に「認知症コールセンター」を設置し、地域との連携が図れるようにすること
4  相談機関の研修に、「介護者の心のケア」に関する内容、家族の体験談の聴講などを含めること
5  介護保険サービスのすべての利用料を医療費控除の対象にすること
6  遠距離介護に要する交通費負担に対する軽減策がすべての交通機関で実施されるよう働きかけること
7  「家族の会」など当事者組織を社会資源として位置づけ、活動に対する財政的、実務的な支援を強化すること

Ⅳ 医療の充実と制度改善について

受診・入院で、認知症の特性に適切に対応した診療保障を要望します。

1  認知症であっても必要な診療が受けられるようにすること
2  認知症の人の入院時、見守り体制を充実させるなどして家族付き添いが強要されない体制を整えること
3  認知症と診断した医師が、診断後の福祉・保健情報など生活へのアドバイスも行えるようにすること
4  認知症疾患医療センターの整備を早急にすすめること
5  診断からターミナルまで地域での連携がすすむようにすること
6  医師、看護師など医療職の養成課程で認知症の人と家族への理解を深める内容をいっそう充実すること
7  認知症治療薬の開発促進と早期認可をすすめること

Ⅴ まちづくり・環境整備について

認知症の理解・介護の社会化を一層すすめ、共生のまちづくり、安心の環境整備を要望します。

1  認知症の人と家族を地域で見守り、支援するネットワークをすべての市町村に設置すること
2  認知症の人や介護家族が安心して立ち寄れ、くつろげる場所を小学校区単位に1箇所以上整備すること
3  介護関連施設・場所、行動であることを表示する「介護マーク」を制定し、その普及を図ること
4  静岡県が制定した「介護中」表示カードを全国版として認め普及すること
5  認知症の人を同伴し外出する際のため、「男女共用介護トイレ」、「介護中自動車駐車スペース」を公共施設および地域に整備すること
6  認知症の診断により運転免許証を返納した人への代替交通機関割引等の対策が行われるようにすること
7  認知症の人が一人でも、介護者付きでも、車椅子でも外出できる安心・安全の歩道の整備推進を図ること
8  ICT技術を活用した認知症の人と介護家族支援の用品開発、情報提供システムの開発をすすめること
(例えば、介護ロボットの開発、GPS機能の精度向上と開発、見守り・安全確認装置の開発、  信号機・横断歩道の改良、移動に役立つHowTo情報システムなど)
9  認知症になっても、安心して暮らせる住みやすい住環境の研究・開発を図ること
10 小中高校生に、認知症と家族支援の理解を進める取り組みを行うこと
11 車の運転免許取得・更新の際に認知症の人の特性が理解できる内容を含めること
12 認知症の人と介護家族が安心して旅行ができるために、主要な駅、観光地にトラベルサ
ポーターの配置などをすすめること

若年期認知症に関する要望書(2010年12月24日提出) 要望項目

1 早期に薬の開発・認可を進めること
・ 認知症を治す薬・進行を抑制する薬が早期に開発されるようにして下さい。
・ 現在、開発されている薬を早期に認可し、医療保険で利用できるようにして下さい。
2 就労の継続を支援すること
・ 認知症になっても本人が希望すれば働き続けられるように、企業が認知症に対する理解を深め支援者を置くなどの環境を整えるための補助金を支給して下さい。
・ 医療専門職が、認知症の人の能力に応じた仕事内容や支援を助言するための報酬を医療保険にもうけて下さい。
・ 退職を余儀なくされる場合は、今後の生活設計や必要な手続きを相談できるワンストップ窓口をもうけて下さい。
3 経済的支援を充実すること
・ 若年期認知症を障害年金の支給対象に明示して下さい。
・ 生計を維持している人が認知症になった家庭の、子どもの就学を保障する奨学金制度をもうけて下さい。
・ 若年期認知症を高度障害と認め、生命保険の支給や住宅ローンの残額を免除できるようにして下さい。
・ 身体障害者であれば利用できる税制優遇や公共交通機関の料金割引などを、若年期認知症でも利用できるようにして下さい。
4 若年期認知症の人が利用しやすい介護保険サービスにすること
・ 介護保険サービス利用者が、事業所等で作業に従事した場合には作業報酬を支払うことを認め、認知症の人の仕事づくりに取り組む事業所の普及をはかって下さい。
・ 介護保険サービスを利用しても、障害者自立支援法サービスの就労支援や作業所、移送サービスの利用を制限しないようにしてください。
・ 若年期認知症のサービスを、地域密着の枠を超えて、広域で利用できるようにして下さい。
・ 若年期認知症に適切なケアが提供されるようケアマネジャーや介護スタッフの研修を進めて下さい。
5 早期に発見し、早期から適切な支援をすること
・ 定期健診に認知症早期発見の仕組みを取り入れ、早期診断ができるように医師の研修を進めて下さい。
・ 医療専門職が、認知症の人や家族の相談に応じ、適切な窓口につなぐ初期の支援を行うための報酬を医療保険にもうけて下さい。
6 若年期認知症「本人のつどい」を広げるために支援をすること
・ 認知症の人同士が励ましあい支えあう「本人のつどい」を全国に広げるための補助金を支給するなど、積極的な支援をして下さい。
7 若年期認知症に関する広報啓発をすすめること
・ 若年期認知症に関する理解の普及、早期発見の重要性、雇用継続や就労の支援、障害者サービスの活用等、発症後の支援と相談窓口の周知など国民に広く広報啓発をして下さい。