「家族の会」は2019年1月に、「認知症の人の自動車運転」に関して、次の声明を発表しました。
また、「解説」として会員や関係者へ、発表までの経緯・考え方についてお知らせをしました。

認知症の人の自動車運転で、誰もがつらい思いをしないために 社会的支援体制の整備を

公益社団法人 認知症の人と家族の会

 今、高齢者の運転による交通事故が問題にされています。自動車事故は命にかかわる重大事故につながることもあります。被害者の方やご家族の苦しみ、悲しみを思うと、事故は少しでも無くさなければなりません。

2017年3月、改正道路交通法が施行され、免許更新時等における認知機能検査により医療機関への診断命令を受け、認知症と診断された人は自動車の運転ができなくなりました。しかし、高齢者の運転事故は、体調の急変や様々な安全運転に必要な機能の低下によるものもあり、必ずしも認知症が原因のものばかりではありません。とはいえ、私たち「認知症の人と家族の会」は、これまで大きな悩みであった「運転をさせたくない」という家族の思いと、現実に運転できている早期診断された本人の気持ちや、運転が危険になっているのに「大丈夫」と言う本人の思いとの葛藤、やめた後の生活や症状への影響等の問題に改めて直面しています。本人も家族もともに不安や困惑の中にいます。この問題が、認知症への理解とともに安全な交通環境や生活の継続という地域づくりに直結する「国民的な差し迫った重要課題」として広く認識され、次のような取り組みを含むさらなる体制整備が進むことを望みます。

1.運転免許自主返納・取消について、支援体制の充実を望みます

今回の改正は、家族の思いと本人の気持ちとの葛藤を割り切るきっかけの一つにはなりました。しかし、本人・家族にとって自主返納や取消は、認知症の進行や新たな生活障害の発生に伴う生きにくさや介護の始まりを意味します。

家族による説得が大切であることはいうまでもありませんが、日頃から関わりのあるかかりつけ医や福祉関係者、免許に関して対応する警察官などからの協力や支援が不可欠です。

そこで、社会的な取り組みができるよう、行政機関や医療・福祉関係者、地域の相談機関が問題の認識を深める研修を積極的に行い連携すること、また、相談窓口である運転免許センター及び所轄警察署の「運転適性相談」を以下のように整備することで、より本人と家族に寄り添った支援体制とすることを望みます。

  1. 相談窓口を訪れやすい名称へ変更する
  2. 返納前においては、認知症の本人が納得できない思いや家族の訴えに寄り添い、返納後も返納したことを忘れて運転してしまう場合などにきめ細やかに対応する
  3. 出張相談を実施するなど、相談しやすいシステムを工夫する
  4. 認知症を熟知した医療や福祉の専門職を全国の相談窓口に配置する
  5. 全警察署、運転免許センター職員は認知症サポーター養成講座を受講する

2.認知症の人と家族の生活の継続を保障できる交通環境の整備や支援を望みます

自動車の運転が生活上欠かせない人たちには、それまでの生活に近い暮らし方ができる移動システムや、それが認知症の人の状態に応じた支援が作られることで、不安や困難は和らぎます。また、免許の自主返納や取消を納得するための一助になります。そのために、国は、地方自治体による「移動手段対策」を全国的な施策として位置づけ、公共交通などの社会的資源の活用を通じて、それまでの生活が継続できる交通環境整備を推進することを望みます。

3.認知症の人の持つ能力に応じた評価ができる仕組みの確立を望みます

認知症と診断された場合、どんな病態であっても、免許は取消または停止となります。しかし、現在すすめられている認知症と運転能力の関係、運転機能低下を補うトレーニングや車の安全性能の研究、海外事例の調査などを一層促進し、「認知症だから自動車運転はできない」とするのではなく、認知症の人が持つ能力に応じた運転技能を評価する仕組みを、1日も早く確立することを望みます。

以上

解説

「声明」発表までの経過

昨年6月に開催した全体交流会は、「認知症の人の自動車運転」がテーマでした。その議論を活かす形で、会として声明文を出すことになりました。支部の皆さんにも意見を出していただき、理事会での提案を10月の支部代表者会議で議論しました。
この間の様々な意見を整理し、まとめたものがこの声明です。

「声明」の考え方について

寄せられた意見を大きく分けると、次のようになります。

1.認知症になったら自動車運転は絶対にやめさせるべき
2.認知症という病名でひとくくりにすべきではなく、運転能力で決めるべき

 声明文をまとめるにあたっては、「どちらの考え方を選ぶか」ということではなく、いずれの考え方にも共感できる方が多いのではないかと考えました。それは、実体験の違いや受け入れた情報の違いなどによるかもしれません。特にこの問題に直面し、免許返納などを「強制」することへのためらいや事故への不安の中にいる家族にとっては、簡単に法律のみで解決できない難しさを感じているのではないでしょうか。

一方、認知症の人による自動車運転事故は、統計数字上(図参照)に限れば、決して多くありませんが、認知症に限らず、病気を患っている人の運転にリスクが伴うことは否定できません。認知症の人が起こした事故の影響を想像することは大事で、事故が重大な結果をもたらすことは常に想定しなければなりません。この声明では、認知症と診断されれば法的に運転できなくなることを受け入れざるを得ない中で、その場合に家族などを含めて、本人が免許の自主返納を納得できるような相談支援と、その後の生活継続も視野に入れた支援策 (要望1および2)とすること。認知症と診断されたら運転を止めることが望ましいとしつつも、認知症の人が一人ひとり違うということを理解している「家族の会」だからこそ、認知症の人の運転能力をきちんと評価できる研究への期待(要望3)を表明することにしました。

関連PDFダウンロード・リンク

  • 【報告書】認知症の人の行方不明や徘徊、自動車運転にかかわる実態調査(2018年12月)
    認知症の人の徘徊などに伴う行方不明がどのような場面や状況で生じているのか、発見に向けて家族などはどのような努力をして発見に至っているのか、あるいは至っていないのか、行方不明を予防するための対策をどのように講じているのかなどを明らかにすることを目的として行いました。
    また、行方不明は自動車運転にかかわるものもあることから、自動車運転に関する免許返納や、事故防止に向けて家族などはどのような対応をしているのかについて、明らかにすることも併せて実施しました。
  • 認知症と自動車運転
    杉山孝博(当会副代表、医師)による、認知症の人の気持ち、やめさせるための工夫、支部でのアンケート結果などを掲載。